過去最多の訪日客でインバウンド関連株は今後どうなる? 業績好調な意外な銘柄とは
インバウンド関連株は今後どうなる?
インバウンド消費が盛り上がりを見せています。
日本政府観光局(JNTO)が15日に発表した昨年12月の訪日外国人数は、前年同月比27.6%増の約349万人となり、単月として過去最高を記録しました。年間の累計(推計値)でも初めて3600万人を突破し、コロナ禍前の2019年を上回って過去最多となりました。
その一方で、インバウンド関連銘柄という視点に立ってみれば、爆買いで賑わったコロナ禍前のような大幅な値上がりはまだ見られません。ただし、個別に恩恵を受ける銘柄に着実に業績を伸ばしています。
インバウンド消費はいまや関連株の動向だけでなく、国内消費を支える一因となっています。訪日外国人による消費総額は2023年には5兆円で、この年の実質GDPを0.7%押し下げたとも言われています。2024年はこれが8兆円を超えました。
今後の動向が気になるインバウンド関連株の「いま」を見ていきましょう。
インバウンドのいま:訪日客数
インバウンドの動向に関しては、観光庁やJNTOが発表する月次および四半期ごとの訪日客数などのデータが注視されます。
観光庁は国土交通省の外局で、政府直属の機関です。これに対してJNTOは、その観光庁が所管する独立行政法人。海外に現地事務所を設置し、日本の観光情報などをプロモーションする実動部隊という位置づけです。
JNTOが毎月発表しているのが「訪日外客数」です。おおよそ15~20日前後に、前月分の推計値と3か月前の国別や目的別の詳細な暫定値を公表しています。
たとえば、国・地域別の訪日外客数(PDF5ページ)を見てみると、かつて爆買いでインバウンド消費を牽引した中国からの訪日外客数は、コロナ禍前の2019年比で、12月は15%減、年間は27%減と大きく下回っています。
爆買いが話題となった2015~2016年頃にかけて、人気となった銘柄のひとつがラオックスホールディングス<8202>です。当時は銀座など人気の観光地に大型店舗を構え、時計や化粧品、家電など高額免税品を取り扱い売り上げが伸びていました。
しかし、円安の一服のほか、中国政府による高額品への課税などにより売上が急減し、多くの店舗で撤退を余儀なくされました。現在ではギフト用品や生活用品の販売にもシフトしています。
こうした中、政府は最近、中国人向けビザの規制緩和などの方針を打ち出しました。中国からの来訪者数の変化が今後の注目点となりそうです。
インバウンドのいま:消費動向
観光庁では四半期ごとに、聞き取り調査などをもとにしたインバウンド消費動向調査を公表しています。対象の四半期が終わった翌月中旬に1次速報、3か月後の下旬に2次速報、さらに翌年の年度末に確報データが公表されます。
2024年の年間データ(速報値)を見てみましょう。1人あたりの支出総額は22.7万円。費目別では、宿泊費が全体の約34%、次いで買物代が29%、飲食費が22%となっています。宿泊比は2019年の29%から上昇しているのに対して、買物代は35%から低下し、比率が逆転しています。
これは、ホテルや旅館などでは宿泊費の値上げが続いた一方で、爆買いに代表されるモノ消費からコト消費へのシフトが続いたこと、また、長期滞在する傾向の多い欧米からの訪日客の割合が上昇したことなどが背景にあるとみられます。
インバウンドのいま:まちかど景気
JNTOや観光庁が訪日客を対象としたデータを公表しているのに対して、内閣府では、毎月まちかどの景気の動向を示す景気ウォッチャー調査を公表しています。
景気の変化を感じ取りやすいレストランやコンビニの店員、ホテルの従業員などにアンケートを行い、現状や3か月後の見通しを「良い」「やや良い」「悪い」などの選択肢から選んでもらって、DIと呼ばれる数値で公表するものです。
毎月10日前後に前月分の調査結果が公表されることから速報性が高く、国内の景気動向を図る際の参考にしやすいため、多くの市場関係者が注目しています。
(参照)景気ウォッチャー調査|内閣府
注目したいのは、それぞれの回答の判断に至った理由のコメントです(PDF13ページ以降の「景気判断理由」)。例えば、北海道の百貨店関係者は昨年12月の調査で以下のように回答しています。
「ここ2か月、インバウンド及び国内旅行者の来客数が落ち込んでいたが、いずれも11月に入り増加している。地元客の購買意欲は落ち込んだままであるが、インバウンド及び 国内旅行者による消費が増加していることで、全体としては上向いている」
インバウンド効果で百貨店での高額品などの消費が好調であることが想定されます。また、九州のタクシー運転手は次のような回答をしています(昨年12月調査分より)。
「大型クルーズ船の寄港などインバウンドが好調となっている。また、イベントが多くなり ホテルの予約も埋まっている状態が続いているため、堅調さを維持できる」
アジアからの来訪者も多い九州でホテルやタクシーの需要が堅調であることが読み取れます。
インバウンドで業績好調な銘柄3選
3つのデータからインバウンドの現状を踏まえたところで、実際に業績が好調になっている銘柄をご紹介したいと思います。
・共立メンテナンス<9616>
ビジネスホテルの「ドーミーイン」やリゾートホテルの「ラビスタ」、企業の社員寮といった施設を運営している共立メンテナンス<9616>。ホテル事業では、需要に応じたダイナミックプライシングを進め、収益の拡大が続いています。
株価は、2020年3月の900円から2024年3月の3624.5円まで右肩上がりに上昇し、およそ4倍に値上がりしました。今期(2025年3月期)は売上高2260億円(11%増)、営業利益185億円(11%増)という、ともに過去最高を見込んでいます。
・寿スピリッツ<2222>
北海道の「ルタオ」、九州の「赤い風船」など地域ならではのお土産菓子を製造・販売している寿スピリッツ<2222>。首都圏では「東京ミルクチーズ工場」「ザ・メープルマニア」などの独自ブランドも展開し、プレミアムなギフトスイーツの市場で成長が続いています。
注力拠点である国際線ターミナルの店舗を筆頭に販売が好調で、JR新宿駅構内など繁華エリアへの出店も進めています。
株価は2011年頃から上下動を繰り返しつつも、長期で右肩上がりのきれいなチャートとなっており、投資家の関心の強さがうかがえます。今期(2025年3月期)は売上高700億円(9%増)、営業利益175億円(11%増)で、いずれも過去最高の見通しです。
・ロート製薬<4527>
点眼薬など一般用医薬品とスキンケア用品を扱うロート製薬<4527>も、インバウンドが業績の拡大につながっています。国内ではインバウンドや個人消費の回復で、リップクリームの新製品やサプリメントの「ロートV5」「メラノCC」「肌ラボ」、高額目薬などの売上が堅調です。
中国では、病院などの受診に日本と比べて多額の費用がかかり、診察までの時間も非常に長いため、家庭用医薬品への依存度が高くなっています。さらに、日本製の医薬品への信頼性が高いこともあり、ドラッグストアなどでまとめ買いをする中国人観光客も多いようです。
株価は2011年くらいから年足ベースで上昇基調が鮮明となっており、2024年9月には上場来高値となる4117円まで上昇しました。その後は利益確定の売りも出て、値固めの局面となっています。
インバウンドから目を離すな
インバウンドの現状と業績好調な銘柄について見てきました。訪日客の数が拡大する一方で、オーバーツーリズムの問題や、円高への転換による売上減のリスクなど、必ずしもポジティブな要素だけではありません。
しかしながら、特にSNSを通じたマーケティングやリピーターの獲得などを通じて、裾野を広げようという取り組みも続けられています。これからの日本経済にとって重要なファクターであるインバウンド。市場関係者の関心も、引き続き高くなりそうです。