なぜ株価上昇? 「インデックス人気」と「成長株優位」の意外な関係
《日本株相場はコロナショック以降、急速に回復基調を見せ、特に「成長株」の上昇が目立っています。経済は大打撃を受けているのに、なぜ株価は上がっているのでしょうか? その背景を「インデックス運用」「機関投資家」のキーワードから読み解きます》
インデックス優位の時代
株式運用は、大きく「インデックス(パッシブ)運用」と「アクティブ運用」に分けられます。「インデックス運用」とは、目安となる指数(ベンチマーク)に連動するように運用する手法のこと。個人投資家にも広がってきたETF(上場投資信託)は、インデックス運用が主流です。
これに対して「アクティブ運用」は、ファンドマネージャーが厳選した銘柄に投資して、インデックス運用を上回るパフォーマンスを目指す手法。銘柄の調査や売買回数などが増えるため、運用コストはアクティブ運用のほうが高めになる傾向があります。
近年、運用コストの競争が加速したことに加え、運用実績が指数(ベンチマーク)を下回るアクティブファンドが多いことや、ETFを使ったインデックス投資が流行したことで、インデックス運用が拡大しています。
日本株では、日銀によるETFの買い入れや個人のインデックス投資のブームなども、インデックス運用の優位を後押ししています。
そもそもインデックス(株価指数)とは
ニュースや新聞で、「今日の日経平均株価は前日に比べて300円安」「TOPIXが2%上昇し全面高」と伝えられるのを聞いたことがあるでしょう。このように、株式の動きを把握するために用いる指標を株価指数(インデックス)といいます。
株価指数は、取引所全体や特定の銘柄群の値動きを表します。なかでも日経平均株価は、日本株ではもっとも有名な株価指数のひとつ。日本経済新聞社が算出する株価指数で、東証1部から選ばれた代表的な225銘柄の株価から算出されます。
また、TOPIX(東証株価指数)は、東証1部の上場銘柄全体の時価総額を合計して、基準日である1968年1月4日の時価総額を100として指数化した株価指数です。
ちなみにインデックス運用では、ベンチマークとなる指数のすべての銘柄を組み入れているわけではありません。例えばTOPIXの銘柄数は現在2,200弱もあります。実際これらすべてを保有して運用するとなると、取引のほとんどない銘柄もあるため、現実的ではありません。
そのため、組み入れる銘柄数を絞り込み、できるだけTOPIXの値動きに連動するように運用するのが上手な運用、ということになります。
日経平均・TOPIX以外のインデックス
日経平均株価やTOPIX以外にも、さまざまな種類の株価指数があります。詳しく知っておけば個別株への投資にも役立てることができます。
・業種別株価指数
市場の物色の傾向を探るのに役立つのが、業種別株価指数(東証業種別株価指数)です。日本標準産業分類により分類された33業種の構成銘柄がそれぞれ指数化され、当日の業種別株価指数の値上がり、値下がりランキングなどを見ることができます。
例えば、値上がり率上位に銀行・保険・輸送用機器など景気の変化によって業績が大きく変動する業種(景気敏感株)、値下がり率上位に食品、通信、陸運など景気動向に対して業績が比較的安定している業種(ディフェンシブ銘柄)が並んでいたとします。
この場合、「投資家が景気の先行きに対して強気になっている」と読み解くことができます。
逆に値上がり率上位にディフェンシブ銘柄が2〜3あり、それ以外の業種はすべて値下がりしている状況では、「全面安で投資家心理がかなり弱気に傾いている」と判断することができるのです。
・規模別株価指数
東証1部の上場銘柄を時価総額と流動性に応じて大型・中型・小型に分類し、指数を算出したものを規模別株価指数といいます。TOPIXを補完する指数のひとつで、分類方法は以下のとおり。
- 大型株:時価総額と流動性が高い、上位100銘柄
- 中型株:大型株に次いで時価総額と流動性が高い、上位400銘柄
- 小型株:大型株・中型株に含まれない全銘柄
景気回復局面の初動局面で相場全体が強気に傾く局面では、大型株のほうが物色されやすい傾向があります。逆に日経平均やTOPIXが伸び悩み、主力株に手詰まり感が見られるような局面では、値動きを求めて小型株が物色されやすい傾向があります。
つねに当てはまるわけではありませんが、このような傾向を知っておくと、株価指数から投資家の心理の方向性を探ることができます。
インデックス優位が個別株に与える影響
インデックス運用が優位になったことは、個別の銘柄の株価の変動にも大きな影響を与えています。
個別銘柄を分類するひとつの方法として、成長株(グロース株)と割安株(バリュー株)での分類があります。
成長株とは、業績が良く、将来的にさらに成長が見込める株式のこと。1単元当たりの株価が高い、いわゆる「値がさハイテク株」である半導体関連銘柄や、ファーストリテイリング<9983>、また、エムスリー<2413>などの医療関連銘柄も成長株です。
一方、割安株は、その名の通り業績や資産価値に対して株価が割安な株式のこと。例えば景気敏感の自動車株や銀行株、商社株などです。
最近では成長株優位に対して割安株の出遅れが目立っていますが、これには、いくつかの理由が考えられます。
機関投資家は成長株がお好き
株式相場で大きな影響力を持つ機関投資家は、出資者に運用成績を報告しなければいけないため、わかりやすい実績が求められます。
そして、成長株は好業績であることがすでに見込まれていることが多いため、短期的な運用成績を求める機関投資家は、株価が少しくらい上がっていても成長株を組み入れます。
また、特にインデックス運用の場合、ベンチマークの上昇についていけないと、インデックスファンドの成績に負けてしまいます。そのため、「(株価が)上がるから(投資家が)買う。買われるから、さらに上がる」というメカニズムが働きます。
一方、割安株に関しては、株価が割安なことはわかっていても、短期的に株価が上がらないと運用成績に反映されないため、組み入れづらいという背景があります。機関投資家は、運用成績が悪いと資金を引き上げられてしまう可能性もあるため、結果的に、手堅く成長株を選ぶのです。
値がさ株が日経平均を動かす
日本株の場合、日経平均株価の算出方法も成長株優位に一役買っています。
日経平均株価は225銘柄の単純平均によって算出されるため、株価水準の低い銘柄よりも、高い銘柄(値がさ株)の値動きに大きな影響を受けやすい傾向があります。つまり、日経平均が上昇する局面というのは、言い換えれば「値がさ株が上がっている」ということでもあります。
そのため、インデックス運用の立場から見れば、値がさ株を買ったほうが日経平均に連動しやすくなります。そして、値がさ株にあたるのは、ファーストリテイリング<9983>、東京エレクトロン<8035>、ソフトバンクグループ<9984>など、成長性の高い企業なのです。
対して割安株は、自動車や銀行、商社など景気敏感の業種が多いため、現在のようなコロナ禍ではなかなか本格上昇とはなりにくいといったことも、成長株優位の理由のひとつと言えるでしょう。
個人投資家が機関投資家より有利な点は?
インデックス運用と機関投資家の投資手法、日経平均株価の算出方法について知っておくと、なぜ好業績で割安なはずの株がいつまでも上がらないのか、成長株が上がり続けるのかが理解しやすいのではないでしょうか。
機関投資家は、割安株をまったく買わないわけではありませんが、どうしても短期での運用成績を求められることから、成長株の組み入れが多くなりがちです。
そんな機関投資家に対して、個人投資家は、短期での運用成績を誰かに問われることはないはずです(自分の懐以外には)。機関投資家がなかなか割安株に手を出せない状況では、好業績で財務が良好な割安株の中から株価上昇が期待できる銘柄を選んで、長期投資をするのもいいかもしれません。
株価が上がったり下がったりする理由はひとつではありませんが、このような視点で個別株を分析してみると、また違った発見があるかもしれません。