【独占インタビュー】島田洋七さんに聞く、“自己流投資家”の株の楽しみ方
株は「楽しみながら」が洋七流
お笑いコンビB&Bとして1980年代の漫才ブームを牽引し、近年は、累計700万部を超えるベストセラー『佐賀のがばいばあちゃん』シリーズの著者として知られる島田洋七さん。現在は佐賀に住みながら、テレビ・ラジオのお仕事のほか、月10本ペースで講演をこなすために日本中を飛び回っていらっしゃいます。
そんな洋七さんは、実は、長い経験をおもちのベテラン投資家。自己流だと謙遜しながらも、「株は楽しい」と話す洋七さんならではの投資の極意についておうかがいしました。
──株式投資をするようになったきっかけは?
漫才ブームで俺らがテレビに出まくっていた80年代前半っていうのは、日本はバブルに向かってまっしぐらの時代やったんよね。当時の俺らは、それはもう嫌になるくらい忙しかったわけやけど、その分、お金もたくさん入ってきた。いまより物は安かったのにギャラはいまよりも高いくらいで、「最高月収1億」なんて言われとった。もちろん、(ビート)たけしらと一緒にさんざん豪遊もしたけど、それでも間に合わんくらい稼げとったんよ。ほんと、ええ時代やったわ(笑)
その頃、知り合いの医者の人から「小野薬品」っていう会社の株を勧められたんよ。株なんか全然わからんかったけど、まあ、試しに買ってみた。でも、よくわからんし仕事で忙しかったし、なんもせずに放ったらかしとったわけ。そしたら半年ぐらいして、その医者の人に「まだ持ってるんですか?」って言われて。それで初めて、株っていうのは安いときに買っといて値上がりしたら売るもんやって知ったんよ。それが、俺の投資歴のスタートやね。
小野薬品でうまいこと儲かったのが楽しくて、それからはいろんな銘柄を買うようになった。あの頃は日経平均が30,000円を超えて、株っていうのは永久に値上がりするもんやと思っていたくらい。何を買っても上がっていくから、どんどん買い集めていったんよ。で、あっという間にバブル崩壊。完璧に損したね。でも、株自体は楽しいって思ったから、その後もずっと続けてやっている。その代わり、むちゃくちゃに買ったりせんと、じっくりじっくりやるようになった。
──最近は、どういうスタイルで?
俺の場合、「投資スタイル」なんていう立派なもんはないんよ。ありがたいことに、いまでも仕事はそれなりにあるし、なんとか食っていけるだけのお金もある。だから、「株で稼ごう」とか「もっと儲けよう」と思って株をやっているわけやない。俺にとって株は、楽しみのひとつなんよ。趣味みたいなもんかもしれんね。
俺は、自分の全財産の大体1割くらいを株に回しているんやけど、これは言うてみたら「なくなっても大丈夫なお金」。そういうお金やから、損することを「怖い」って思わずに済むんよ。それに、たとえば交通事故に遭って、まったく仕事ができんようになったら、これくらいのお金は吹っ飛ぶよね。要するに、株をやってもやらんでも、なんかトラブルがあったらなくなってしまうお金ってこと。だったら、日々の楽しみのために株を買おう、っていうのが俺の考え。
──具体的には、どういった銘柄を?
俺は、自分が知らない会社の株は買わん。何を扱っている会社かわからんかったら、その株が伸びるかどうかの判断が俺にはできんから。でも、すでに値が上がりきっとったら手は出さん。俺はいつも10,00株くらい買うから、1,000株でも買えるくらいの値で、さらに伸びていきそうやなっていう銘柄を買うようにしとる。
最近やと、TOTO<5332>とかユニ・チャーム<8113>なんかを持っとった。どっちも、まだまだ海外に進出していって業績が伸びるやろうから、株価も上がるやろうな、と思ってね。でも、2016年のはじめに、日経平均が20,000円に行きそうやったのに17,000円を割ったとき、持っとった株はほとんど全部売ってしもたんよ。それ以上、値が下がったら損が出るっていうギリギリのところで、TOTOもユニ・チャームも手放した。
実は俺の場合、いつもそんな感じで、株をやりたいなっていう気分のときに何回か売り買いして、下がり始めたらすっぱり売る。そういうやり方やから、投資歴はずいぶん長くなったけど、これまで「買った株が5倍になった」とか、そんな大儲けをしたことはない。そこまで待たんからね。それでも、バブル崩壊のときの大損は取り返したし、トータルで見たらトントンやと思う。大して儲かってないかもしれんけど、損もしてないってこと。
──潔く売ってしまえる秘訣は?
俺の芸能人生はジェットコースターみたいなもんで、売れたり売れなかったりを3回くらい繰り返してるんよ。漫才ブームが5年くらいで終わって、ほとんどテレビに出れんような時代もあったけど、その後、『がばいばあちゃん』がベストセラーになって、いまは講演に引っ張りだこ。そういう浮き沈みを経験しているから、株でも「いいときにやめる」っていう感覚がついたのかもしれんね。
あとは、見栄を張らんっていうのもある。アベノミクス相場のときも、日経平均9,000円があっという間に倍になったのを見て、こんなことは人生で2回くらいしかないやろうなって思った。だから、ちょっと下がった時点で全部売った。なんでかって言うと、もしそのまま下がっていったら、また値が戻るのに20年はかかるって思ったんよ。そのとき俺はもうおらんやんか(笑)
あの大手証券会社に騙された!?
──株価の動向などは、どこから情報収集を?
基本的には日経新聞。読んでいるだけで世界のことがわかるし、面白いよね。俺は、株のことや経済のことをちゃんと勉強したわけやないし、もともと頭がええほうでもないけど、ずっと日経新聞を読んでいたら、これからどうなるかなっていうのは大体わかるようになる。間違うことも当然あるけど、なんとなくでも自分で判断できるくらいの知識は自然とついていくと思うよ。
株のことを証券会社とか銀行とかに相談する人も多いみたいやけど、彼らは客が損したって何の関係もないからね。そういう人に任せて損が出ても、だれにも文句を言えんやん。
──芸能人の方には株や不動産などの話もいろいろ集まってくるのでは?
実は俺、証券会社に騙されたことがあるんよ。数年前のことやけど、某証券会社の営業の子に、中国のなんとかファンドっていうのを勧められて買ってみたら、ずるずる値下がりしてしまってね。それで売ろうとしたら、担当の子はもういなくなっていて、別の人から「これは7年間は売れない商品です」って言われたんよ。でも、もちろん俺は、そんな話は一切聞いてない。
よく考えてみれば、たしかに変やったんよ。当時の俺は『がばいばあちゃん』の映画の撮影中でめちゃくちゃ忙しかったんやけど、そうしたら「契約書のサインは奥様でもいいです」って言うんよ。嫁のサインじゃなくて、嫁が俺の名前でサインするの。小さい会社やないよ、だれでも知っとるような大手の証券会社の話よ。
とにかく、こっちに落ち度はないし、損が大きくなる前に売ってしまいたかったから、弁護士に頼んで、証券会社に乗り込んでもらったんよね。それで、ああだこうだってもめている間に、運良く中国株が上がって、そのファンドの値も戻ってきた(笑)。あれは本当にラッキーやった。証券会社もそう思ったんやろね、まだ7年たってなかったのに、全部売れた。それで一応、丸く収まったんよ。
そういう経験があってから、余計に証券会社をあてにせんようになった。他にもアナリストとか、まあいろんな人が「あれがいい」「これが買いだ」とかって言うけど、最終的には自分で判断する。それが鉄則ね。だから、新聞を読んだり、株の本で勉強したりして、自分で判断できるようになることが大事やと思うね。
「俺の世代にはもっと株をやってほしい」
──これから株式投資を始めようとする人へ、何かアドバイスは?
俺らの年代の人には、もっと株をやってほしいと思う。60を過ぎると遊びの種類が減って、お金を使う場所がなくなるけど、だからって70や80にもなって5,000万とかのお金を持っていたって、死んだら使いようがない。むっちゃ高級な棺桶に入れてもらうくらいやん?(笑)
もちろん生活資金まで使い込んだらあかんよ。でも持ち家があって、年金をもらえているんであれば、財産の20%くらいは株に回してもええんやないかな。「最悪ゼロになっても大丈夫なお金」で株をやってほしい。
株をやると、ニュースとか新聞とかをよく見るようになるから、世の中のこともわかるようになる。それに、株には「勝ち負け」があるから、毎日の張り合いになる。ゲームっていう言い方はよくないかもしれんけど、それこそ「楽しみ」よね。夫婦で株を買って競争するのも面白いんちゃうかな。たぶん、ボケ防止にもなると思うで。
ただし、30代とか40代の人が、老後のお金を貯めたいとか、もっと生活を豊かにするためとか、そういう目的で株をやるなら、俺みたいに「楽しみ」なんていう軽い気持ちでやったらあかんと思う。お金の価値っちゅうのは、歳によって変わるんよ。自分が何のために株をやるのか、それによってスタイルも変わるやろうし、必要な知識も変わってくると思う。
──書籍『株の学校』をお読みになった感想は?
この本が教えてくれる「トレード」は、俺の株のやり方とはちょっと違うのかもしれんけど、なるほどな〜って思うところがいっぱいあって、本当に勉強になった。俺もまだまだ知らんことがいっぱいあるから、この機会にもうちょっと勉強してみようかなっていう気になったよ。
さっきも言うたみたいに俺は、株は「自分で判断する」のが鉄則やと思っているから、こういう本があれば自分で勉強できるのがいいね。株の本はたくさんあるけど、これはイラストや図版があって見た目にもとっつきやすいし、付録の映像も、初心者の人には理解しやすくてええと思う。おすすめするよ!
[しまだ・ようしち]1950年、広島県生まれ。20歳で島田洋之助・今喜多代に弟子入りし、72年に漫才師デビュー。75年に島田洋八と結成した漫才コンビB&Bで、80年代前半に日本中を席巻した漫才ブームの中心的存在として活躍する。2004年、小2から中学卒業までの8年間を佐賀の祖母のもとで過ごした体験をつづった『佐賀のがばいばあちゃん』が徳間書店より刊行(それまでに2度、自費出版している)。現在までに累計700万部を超えるベストセラーとなり、ドラマ化、映画化、さらに舞台化された。
(Photo by Jo Moriyama)