コロナ相場で人気高まるインバース型ETF 二番底狙いは吉と出るか?
人気高まるインバース型ETF
インバース型ETFの人気が高まっています。「Inverse」は日本語で「逆」という意味。例えば、日経平均株価に連動しているインバース型ETFなら、株式市場が下がると利益になる、というものです。
コロナショックで株式市場の先行きが見通せないなか、さらなる下落に備えておこうとする人が増えていることが人気の背景にあると考えられます。
インバース型ETFとは
「ベア型ETF」とも呼ばれるインバース型ETF。「ベア」は弱気相場を表す言葉で、熊が爪を振り下ろす動作からベア(Bear)と呼ばれるようになったと言われています。
日経平均株価やダウ平均株価などの株価指数を基準とし、指数が前日より値下がりすれば、そのぶん値上がりするように設計されているのが、このインバース(ベア)型ETFです。
ちなみにETFとは、証券取引所に上場している投資信託。特定の指数に連動することを目指しますが、レバレッジ型ETFは原資産(株価指数など)に対して一定の倍率をかけ(例えば2倍、4倍など)、産出される指数に近い動きをします。
それに対してインバース型ETFは、基準になる指数の前日比マイナス1倍やマイナス2倍といった値動きになるように設計されているのです。
日経平均株価の値動きに対して約2倍の反対の値動き(つまりマイナス2倍)を目指す「ダブルインバース型ETF」の場合、日経平均株価が前日比で3%下落すると、このETFは6%程度上昇することになります。ただし、日経平均株価が3%上昇した場合には約6%下落してしまいます。
・インバース型ETFの代表的銘柄
[日経平均株価連動のインバースETF]
- NEXT FUNDS 日経平均インバース・インデックス連動型上場投信<1571>
- 日経平均ベア上場投信<1580>
[日経平均株価連動のダブルインバースETF]
- NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信<1357>
- 日経平均ベア2倍上場投信<1360>
[TOPIX連動のインバースETF]
- ダイワ上場投信-TOPIXインバース(−1倍)指数<1457>
- TOPIXベア上場投信<1569>
[TOPIX連動のダブルインバースETF]
- TOPIXベア2倍上場投信<1356>
- ダイワ上場投信-TOPIXダブルインバース(−2倍)指数<1368>
インバース型ETFのメリット&デメリット
それでは、インバース型ETFのメリットとデメリットを確認しましょう。
インバース型ETFのメリット
・下げ相場で利益が狙える
通常の現物株投資では上げ相場しか利益を狙えませんが、インバース型ETFなら下げ相場でも利益を狙えます。インバース型ETFはベンチマーク(指数)と逆の動きをするため、TOPIX(東証株価指数)や日経平均株価などの株価指数が下落する局面でも、利益を狙えるというメリットがあるのです。
株式市場が減退すると考えたときの一般的な投資手法としては、信用取引の売り(空売り)があります。信用取引は預かり資産の3倍程度まで取引できるので、利益も大きくなります。
しかし、信用取引を行うには、別途、信用取引口座の開設が必要です。一方、インバース型ETFは通常の口座で取引でき、信用取引口座を作る必要はありません。通常の口座で、通常と同じような取引によって、空売りと同じ効果を得られるのです。
・リスクが限定される
また、信用取引や先物取引はレバレッジ取引なので、自己資金以上の損失が出てしまう可能性もあります。そのうえ、売りのポジションを保有している間は、貸株料(株を証券会社から借りるために支払う費用)という手数料を支払う必要があります。
しかしインバース型ETFなら、どんなに株価が下落したとしても、投資資金以上の損失が出ることはありません。リスクが限定された範囲内で、株式投資の信用取引売り(空売り)や先物取引の売りと同じ効果をもたらしてくれます。
・NISA口座を利用できる
インバース型ETFは、一般NISAを利用して購入することができます。一般NISAを利用すれば、年間120万円を上限に運用益が5年間非課税になるので、インバース型ETFをNISA 口座で購入した場合も売却益が非課税になります。
ただし、投資信託のみが対象となっている「つみたて NISA」では購入できず、一般 NISAとつみたてNISAの併用はできない点に注意が必要です。
・保有株のヘッジとして利用できる
インバース型ETF は、保有している株式の下落リスクを減らす手段としても利用できます。相場全体が下落する可能性があると予想したとき、個別株を保有したままインバース型ETFを購入しておけば、保有株に含み損が生じてもインバース型ETFは含み益になるので、全体としての損失額を減らせるのです。
インバース型ETFのデメリット
・同じ値幅で動くと価格が下がる
以下の図は、TOPIXダブルインバースとTOPIXの値動きを比較したものです(出典:日本取引所グループ)。
日々の変動率では、TOPIXの変動率のマイナス2倍を達成していることがわかります。しかし、TOPIXが上昇と下落を繰り返しながら3日目に同じ水準に戻っているのに対し、TOPIXダブルインバースは100から96と、基準日と同じ水準に戻っていません。
このように、原資産が上昇や下落を相互に繰り返した場合には、インバース型ETFはパフォーマンスが悪くなるという特徴があるため、注意が必要です。
・レバレッジによるリスク
ダブル型などレバレッジが効いているインバース型ETFは、そのぶんリスクも倍になり、原資産が値上がりしたときの値下がり率も大きくなります。信用取引のように投資元本以上の損失になることはありませんが、大きな損失になる可能性があるので注意しましょう。
インバース型ETFは短期志向で
このようなメリットとデメリットを踏まえると、インバース型ETFは、短期の投機性が高い金融商品だと理解した上で取引するのがよさそうです。
特に空売りができない(信用口座を持っていない)方などは、数週間以内に株価が下がりそうなときにインバース型ETFを購入するなど、上手に利用すれば便利な商品です。
しかし、もみ合い相場になると原資産よりパフォーマンスが劣るので、長期保有には向いていないと考えるべきです。NISA口座を利用することもできますが、「非課税枠で5年間持ち続けよう」という使い方は、インバース型ETFにおいては難しいと考えたほうがいいでしょう。
二番底狙いは吉と出るのか?
2020年2月末から3月にかけて起きたコロナショックにより、日経平均株価は3月19日に16,358.19円まで下落。しかし、6月9日に23,185.85円まで上昇しました。
このとき、個人投資家に人気のNEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信<1357>は、3月19日に高値1,730円をつけましたが、その後の株価の回復とともに6月10日には755円まで下落しました。
しかし、二番底狙いで買い向かっている投資家は依然として多いと考えられます。同銘柄の投資口数は、6月30日時点で約4億口となり、過去最高を更新。この2か月で約3倍になりました。
その一方で株価チャートを見てみると、4月上旬に25日移動平均線を割り込み、下落トレンドが続いています。
このような下落トレンドの最中でも、ナンピン買いで買い向かっている投資家が多くいるのだと推察されます。
異例の相場でもリスク管理を怠るなかれ
また、信用の買い残は1億口を超えています。信用取引を使えば、日経平均株価に対して約6倍の値動きをすることになり、さらに投機性の高い取引です。
しかし今後、日経平均株価が年初来高値を更新すれば、ダブルインバースを保有していると、さらに損失が膨らんでしまいます。レバレッジ型はもともとリスクが高い取引なので、信用取引は控え、また、日経平均株価が上昇トレンドの間は手を出さないほうが賢明ではないかと思われます。
確かにファンダメンタルズを考えれば、現在の株価の上昇は不自然と言えます。しかし、過去に類を見ない規模の金融緩和政策が実行され、株価が上昇しているのは事実。いつ暴落するかわからないからインバース型ETFを買っておこう、という不安が、かえって損失を膨らませてしまっては本末転倒です。
未来の相場がどうなるかは誰にもわかりません。いまの相場観に頼りすぎることなく、まずは大きな損失を抱えないためのリスク管理を徹底することが重要ではないでしょうか。