株価は初値を超えて… IPO銘柄にも現れたコロナの影響
いつもと違う動きを見せるIPO銘柄
IPO(新規株式公開)では初値こそ高くなりやすいものの、その株価を維持できる銘柄はそう多くありません。投資家の期待が膨らみすぎて、上場後に高値をつけた後はしばらくの間、株価が下落する展開がよく見られます。
もともと、公募価格は企業の実力や将来性、同業種銘柄の株価などを参考にして設定されており、初値がその何倍にもなるのは「IPOバブル」とも言えます。
その後に初値を超えるのはハードルが高いことや、株価が企業業績を素直に反映するまでには時間がかかることから、初値上昇額ランキング上位10社のうち、翌年の夏ごろにその後の株価が初値を超えているのは、ここ数年では1~2社しかありません。
しかしながら、2019年に上場したIPO銘柄には、例年とは異なる動きが見られました。2020年7月27日時点で、初値を上回っているものが4社もあったのです。一体、何が起きたのでしょうか?
2019年IPO上位銘柄は、いま
2019年の新規上場は86社。このうち、初値(初めて市場で取引が成立した株価)が公募価格(売り出し価格)を上回ったのは76社で、実に88%以上の好成績でした。めでたく抽選に当たって公募価格で入手できた投資家は、初値で売却すれば9割に近い確率で儲けられた、ということです。
また、新興向け市場である東証マザーズへの上場が過去最多の64社で、赤字上場が16社もあったことも特徴です。赤字上場でも、成長期待の高い若い企業には投資マネーが集まる。そんな環境の変化を感じる2019年のIPOでした。
そんな2019年IPO銘柄から、初値上昇額ランキング上位10社のうち、特徴的な動きを見せた6銘柄のその後を追ってみましょう。
(参考記事)IPOで株価はどうなる? 2019年・初値上昇額ランキング
初値を超えて強い上昇を見せた4銘柄
・サーバーワークス<4434>
2019年3月13日マザーズ上場。米アマゾンの「AWS(アマゾンウェブサービス)」の最上級パートナーとして、導入支援や運用自動化サービスなどを請け負うサーバーワークス<4434>。人気テーマ「クラウド」の関連銘柄であり、なおかつアマゾン関連とあって、初値上昇率は276.6%。初値で売却した場合の利益額では2019年トップでした。
株価はIPO後の調整売りで9月に大底をつけ、その後は強い上昇トレンドへと転じました。既存顧客の大型化と導入支援をしている「AWS」の利用促進が進んだことから、2020年2月期は売上高が6億1100万円と、前年比5割増しでの着地。
2021年2月期も80億300万円(前期比+17.5%)の2桁増益となる見通しが発表されたうえ、コロナ禍を受けてテレワーク関連銘柄に市場の注目が集まったことなども追い風となり、株価は4月に22,400円をマーク。実に、初値から70%以上もの上昇となりました。
・AI inside<4488>
2019年12月25日マザーズ上場。AI技術を用いた光学式文字読み取り装置(OCR)で読み取った文字をデジタル化するサービスを提供するAI inside<4488>。「AI」という人気のテーマであるとともに、黒字見通しとあって、注目のIPO結果は初値上昇率が250%と好調でした。
コロナ禍による企業のテレワーク推進、業務効率化の追い風を受けて、その後も同社の「DX Suite」クラウド版の契約数が増加。5月発表の2020年3月期業績は、従来予想の3.1億円を上回る4億円の経常黒字(前年は1.8億円の赤字)で着地。
さらに8月には、2021年3月期の営業利益予想を、従来予想の5.7億円(前期比+39.9%)から10.4億円に上方修正。前期比で2.4倍という絶好調ぶりを示して、株価はストップ高に。さらに48,000円も超えて、初値からみると4倍以上となる急激な成長を遂げました。
・ベース<4481>
2019年12月16日東証2部上場。ベース<4481>は受託開発を中心として、主に金融系のシステム開発を手掛けており、主要顧客には富士通、みずほ証券、NRIなどが名を連ねます。そうした背景もあって、2部上場ながら初値上昇率は92.6%と好成績。
その後も、IT投資の需要が活発なことを受けて、2019年12月期の経常利益は前期比+52.2%の16.5億円で着地。2020年12月期も+23%の20.3億円の見込みとなり、さらに5月には株式分割と増配の株主還元策を、6月には上方修正を発表するなど、業績は絶好調。これを受けて株価も順調に上昇し、6月24日には初値から約2倍の5,700円となりました。
・セルソース<4880>
2019年10月28日マザーズ上場。再生医療のプラットフォームとして、法規対応支援や新治療開発等を手掛けるセルソース<4880>。話題の「再生医療」がテーマの業績好調な黒字ベンチャーとして、初値上昇率は164.1%と人気を集めました。
再生医療関連として市場の注目は高く、12月発表の決算も好決算だったことから、株価も順調に成長し、1月には14,580円をつけました。その後、コロナショックで6,680円まで下落しましたが、3月発表の第1四半期決算や続く中間決算も好決算だったこと、コロナ禍で一時減少した受注件数が6月は過去最高ペースでV字回復していることから、7月には初値の約4倍となる25,650円の高値をつけています。
初値天井となってしまった2銘柄
・スポーツフィールド<7080>
2019年12月26日マザーズ上場。スポーツ人材に特化した「スポナビ」などの採用支援事業を行うスポーツフィールド<7080>。スポーツ人材特化という独自の事業内容が、東京オリンピック・パラリンピックと親和性があることや、12月のIPOの好調な流れも追い風となり、初値上昇率は211.4%と好成績でした。
その後は、IPO後の調整売りや、東京オリ・パラの延期が決まったこと、外出自粛により就職セミナーが行えないことなどから株価は下落の一途をたどり、4月には1,713円に。初値から約6割も下げる展開となってしまいました。
・Welby<4438>
2019年3月29日マザーズ上場。Welby<4438>はPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)のプラットフォームサービスを展開。健康×ITの「ヘルステック」は人気のテーマで、初値上昇率は246.8%でした。
買い人気が一巡すると売り先行の展開となり、中間決算では業容拡大による販管費増で赤字が拡大、2020年1月には下方修正、2月発表の2019年12月期の経常損益は赤字転落となるなど業績が振るわず、株価は3月には814円まで下降。初値から約5分の1まで値を落としました。
しかし、2020年4月に政府がオンライン診療の規制緩和を検討していることが報じられると、コロナ禍で恩恵を受ける遠隔医療の関連銘柄のひとつとして同銘柄も物色され、6月には2,670円まで株価が回復しています。
コロナ禍でIPO市場も大きく変化
4社も初値を上回った2019年のIPO銘柄ですが、これは、オンライン化など4~5年かかると言われていた社会構造の変化が、コロナ禍によって一気に加速したためと考えられます。
コロナショック後の株価の戻りを見ると、マザーズ指数は、日経平均株価やTOPIXよりも早々に回復して、暴落前の高値を超えています。コロナ禍によって成長期待が高まったEコマースやバイオ、医療関連、リモートワークなど、新しいサービスを提供する若い企業が多いためでしょう。
成長期待だけでなく、すでに利益にも反映されるなど、早くも株価が実態を伴いつつある銘柄も出てきています。2019年のIPO銘柄についても、初値超えの4社の株価が大きく飛躍した背景には、順調な利益拡大があるのです。
実際、同じ新興市場でも、スポーツフィールドやWelbyのように、コロナ禍のダメージを大きく受け、業績が芳しくない企業の株価は冴えないことがわかります。コロナ禍で投資家の目が厳しくなるなか、評価の高い銘柄となるには、成長期待とともに実態も伴う必要があるということでしょう。
市場の変化は銘柄選びの鍵
株式相場は常に先取りをして動いている、と言われます。コロナ禍で大きく社会が変化しようとしている今、IPO市場にはその変化が表れ始めています。
2019年から直近のIPOのなかで、withコロナ時代に成長が期待できる銘柄、きちんと利益を出せる銘柄を探してみると、大きく飛躍する銘柄を見つけられるかもしれません。