IPO株がまさかの逆テンバガー 上場直後の株価急落リスクとは

岡田禎子
2020年7月28日 8時00分

まさかの「逆テンバガー」

個人投資家のAさんは、注目を集める話題の企業がIPO新規株式公開)を実施すると知り、抽選に応募したものの外れてしまいました。そこで、上場後にIPO株に投資するセカンダリー投資を目論みます。

株価は大きく値上がりし、ご満悦のAさん。しかしながら、株価は天井をつけた後、みるみる下がり続ける結果に……。どう向き合えばいいのかわからず、Aさんは頭を抱えてしまいました。

実はこれは、IPO株投資にありがちなパターンなのですが、こんなときはどう対処すればいいのでしょうか? そもそも、なぜIPO株は急落しがちなのか。その仕組みを解説するとともに、対処法についてもお教えします。

IPO株急落の典型パターンは、これ

まずは、IPO株急落の典型的なパターンを確認しましょう。

人気のIPO銘柄の場合、初値が寄り付いてからもしばらくは値上がりしていくケースが多いです。例えば、「AI」や「クラウド」といった注目テーマの場合、または、次のIPOまでの期間が長く、個人投資家の短期資金が集中していたり、相場全体もしくはIPO市場の地合いが良かったり、といった場合があります。

「どこまでも値上がりしてくれそう!」と期待しがちですが、そんな株が存在するはずはなく、ある日、株価は天井をつけて大きく値下がりを始めます。これは、株価の上昇とともに過熱感が生じ、警戒した投資家が利益確定の売りに出たり、次のIPO銘柄に資金が移ったりするためです。

しかも、IPOの場合、過去の安値やチャート的な節目などがありません。そのため、いったん下がり始めた株価は、どんどん下げていきます。初値や公募価格といった水準を割り込むと、さらなる深掘りへと進むこともあります。

なぜ初値は飛び、そして大崩れするのか

もともとIPOの公募価格は企業の実力や将来性、同業他社の株価などを参考にして設定されています。初値が公募価格の何倍にもなるのは、企業に対する個人投資家の期待感が過熱した結果、いわば「IPOバブル」が起きたから。天井をつけた後の大きな値下がりは、そのバブルが弾けたことが要因と言えます。

大きな値下がり後は、さすがに企業側から何らかの株価対策が出るだろうとの期待感や、IRも出てくる時期となるために、株価は戻り歩調に入る傾向にあります。

こうした一連の株価の動きが、上場後のIPO株急落の典型的なパターンとして存在していることを、まずは理解する必要があります。

ただし、ロックアップがかかっている銘柄の場合は、この戻りが鈍くなる可能性があります。ベンチャーキャピタルなどの大株主がロックアップ解除後に売却してくるリスクがあるため、株価に売り圧力がかかるからです。

(参考記事)被害者続出!?  IPO株の突如大暴落を招く「ロックアップ解除」とは

相場のタブーを犯した末の大暴落

IPO株の典型的なパターンがわかったところで、とりわけ悲劇的なチャートをたどったケースをご紹介しましょう。

この悲劇の主人公はトゥエンティーフォーセブン<7074>。パーソナルジム「24/7ワークアウト」を展開する企業で、2019年11月21日、東証マザーズに上場を果たしました。しかしながら、12月に高値をつけた後、その株価は約3か月半で10分の1となってしまいました。

株価が10倍になる銘柄を「テンバガー」と呼びますが、トゥエンティーフォーセブンは、まさに「逆テンバガー」を演じてしまったのです。

直後の下方修正→2日連続ストップ安

2007年創業の同社は、パーソナルトレーニング・ブームに乗り、新体系のパーソナルジムとして注目を集めました。また、業績が好調だったことから、公募価格3,420円に対して3,800円の初値がつき、騰落率は+11%上回る好結果となりました。

その後も、上場日に発表された「決算のお知らせ」では、営業利益について上方修正の可能性が示唆されたほか、次のIPOが12月10日までなかったことや、米中貿易摩擦で大型株が冴えなかったこともあって、中小型株の先導銘柄として大きく株価が上昇、6,090円の高値をつけました。

ところが、2019年12月20日の夜に突如として下方修正を発表。上場からわずかひと月で下方修正を出すことはマーケットでは絶対に許されないことであり、週明けの株価は2日連続のストップ安から 3,225円まで急落しました。

その後も大幅減益予想の決算発表やコロナショックが加わり、株価は高値の10分の1となる600円台にまで落ち込んでしまいました。

過去にも、上場後早々に下方修正を発表した企業はあります。2014年12月18日に上場したgumi<3903>は3か月後、2019年11月1日に上場して同じく下方修正したダブルエー<7683>は42日後、2014年3月19日上場のジャパンディスプレイ<6740>は40日後で、いずれも発表後に株価は急落しました。

しかし、トゥエンティーフォーセブンはそれよりも早いひと月後ですから、投資家の怒りを買うのも無理はありません。

実はリスクが大きいIPO株

IPO株の場合、とりわけ重要なのは最初の決算です。IPO前後の企業は、ほかに株価を判断する材料もなければノイズとなる情報もないので、最初の決算で業績が良ければ株価は素直に上昇する傾向にあります。そのため、投資家の注目度も高いのです。

トゥエンティーフォーセブンの場合、IPO当日に発表した第3四半期の決算までは業績好調で、上方修正の可能性もありました。ところが、その期待を裏切るどころか、わずか1か月で下方修正を出したとなると、これは「上場ゴール」と思われかねません。

そうして投資家の信頼を失ってしまうと、たとえ営業利益−14%程度の下方修正であっても、株は叩き売られてしまいます。

不安定かつ高いボラティリティが波乱を生む?

2005年の「gumi問題」を受けて、東証の上場審査基準は非常に厳しくなったと言われていますが、IPO株にこうしたリスクがあることは、ぜひ頭に入れておくべきです。特に新興市場は会社も若く、業績や会社自体の見通しが不安定なうえ、株式市場との対話が不得手な会社が多いため、株価が安定しません。

そこへ、大きな値動きを狙う短期筋が資金を集中投下するためにボラティリティが高まり、ひと通り活発な売買が行われます。しかし、こうした短期筋はさっさと次の銘柄へ移動し、残された投資家は値下がり株を売るに売れず、あっという間に塩漬けにしてしまうのです。

勝率が高いことから個人投資家にも人気のIPO株投資ですが、このような流れを踏まえると、当たればリターンが大きいものの、リスクもまた大きい相場であると言えるでしょう。

なぜ買ったのか。その理由がすべてを決める

株式市場において、一度失った信頼を再び取り戻すのは容易ではありません。信頼が損なわれると、目先の値動きを狙った投資家・トレーダーしか集まらず、まともな投資家の関心は他の銘柄に移ってしまうでしょう。

その一方で個人投資家にとって重要なのは、「買った理由」から外れた場合は売却する、という姿勢を徹底することです。

IPO株であれば、「IPO後の決算での好業績による値上がりを期待」「上場後半年以内に出される株主優待が目当て」「将来性の高い分野なので、2ケタ成長が続く限り保有し続ける」など、自分なりの指針(ルール)を定め、そこから外れた場合は売却を検討するのです。

言い換えれば、IPO株を購入する時点で(実際には抽選に応募する時点で)、「買う理由」とともに「売るタイミング」を決めておく、ということ。これこそ、つかんだチャンスを確実にものにするための株式投資の大原則なのです。

売り時の「正解」は誰にもわかりません。だからこそ、「なぜこの株を買うのか」を自分自身がよく理解することが、適切な売り時を見極めるための有効な手がかりのひとつとなります。そして、思い通りの値動きとならなかった場合には、その理由を振り返り、かみしめて、潔く撤退(損切り)しましょう。

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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