久々に出たIPO成功事例 投資家に評価された銘柄にはどんな共通点があったのか

石井僚一
2022年5月10日 8時00分

Kruwt/Adobe Stock

《低迷が続くIPO市場にあって、初値騰落率100%超えが3銘柄も出た4月。成功した銘柄にはどんな共通点があったのか。ランキングで振り返ります》

2022年4月のIPO市場

月末にはゴールデンウィークに突入することから、4月は年間IPOの前半戦の区切りとなる月です。

2022年4月のIPO(新規株式公開)は9銘柄。前年同月の11銘柄に比べると2銘柄の減少となり、また、上場承認を得ながらIPOを見送った企業も1社ありました(インフォメティス)。2月から前年比でIPO件数が少ない状態が継続中です(1月は今年も昨年も0件)。

新興市場全体の温度感を知るため、4月のマザーズ指数の確認をしておきましょう。なお、東証再編によって東証マザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は継続中のため、ここでも引き続きマザース指数を参照します。

4月のマザーズ指数は月初から86.1ポイント安で取引を終了。月足の終値では2月の安値を更新しています。3月に比較的大きな上昇を見せて上昇期待もあったマザーズ指数ですが、4月は不振の1か月となりました。

2022年4月のIPOランキング

そんな4月相場では9銘柄が新規上場を果たしました。その中で、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」をランキングで見てみましょう。

9銘柄のうち、初値騰落率が100%(=2倍以上)を超える銘柄が3つも誕生しました。3月は8銘柄のIPOがあったものの初値騰落率100%超えはなく、マザーズ指数が下落する中でも、IPO市場は3月に比べると若干活気が戻ったと言えます。

また、初値が公募価格を下回る「公募割れ」は1銘柄に留まりました。8銘柄中3銘柄が公募割れとなった3月に比べ、こちらも改善傾向が見られます。

唯一の公募割れ(−8.0%)となってしまったASNOVA<9223>は、マンション修繕時に利用される足場の仮設資材レンタルなどを手がける企業です。IPOにおいて人気化しにくい業界であり、活気が戻りつつあるIPO市場ですが、「何でも上がる」という状態にはなっていません。

旬のテーマ銘柄の強さが光る

一方で、初値騰落率1〜3位の銘柄はクラウドやAI、ECといった事業内容の企業であり、IPOで人気化しやすい「旬のテーマ銘柄」の強さが光りました。ただし、いずれも時価総額は100億円を超えておらず、株価の伸びは今ひとつと言ったところでしょうか。

なお、4月のIPOでただひとつ時価総額100億円を突破したモイ<5031>の事業内容は動画配信。初値騰落率は91%と100%には一歩届きませんでしたが、やはり、人気化しやすいテーマ銘柄でした。

2022年4月の気になるIPO銘柄

2022年4月のIPOの中から、特徴ある2銘柄を紹介します。

・モイ<5031>──久々に出た急成長企業のIPO成功事例

モイ<5031>はライブ配信プラットフォーム「ツイキャス」の運営などを手がける企業です。

2019年1月期の売上高12億円、経常利益−0.1億円から、2022年1月期には売上高65億円、経常利益2.0億円まで急成長しています。「動画配信」という人気化しやすい事業内容もあって、公募価格470円に対して、ついた初値は902円(+91%)。見事、初値時価総額100億円を突破(118億円)しました。

急成長を経て新規株式公開を行い、さらに株価も伸びて時価総額100億円突破!という銘柄が2・3月にはなかったため、久しぶりのIPO成功事例となりました。動画配信というIPO市場好みのテーマに加え、急成長かつ黒字化という点が評価された形となっています。

・サークレイス<5029>──パソナグループからのIPO。今度は成功

サークレイス<5029>は、パソナグループ<2168>が株式の39%を保有する、クラウドシステム開発などを手がける企業です。公開申請決算期の2021年3月期は赤字(経常利益−0.3億円)ながら、2022年3月期以降は黒字化が予想されています。

公募価格720円(時価総額29億円)に対し初値は2,320円(時価総額95億円)となり、騰落率222%は4月の第1位です。時価総額100億円には及びませんでしたが、「クラウド」という旬の事業のほか、成長継続と黒字転換が確実な状態も評価されました。

なお、パソナグループでは、3月にIPOしたビーウィズ<9216>が騰落率−5.7%の公募割れに終わっていました。売出株が公募株よりも多く投資家の警戒感を招いたことが敗因でしたが、サークレイスは公募株より売出株が少なかったこともあり、パソナとしては先月の失点を取り返した格好です。

小休止後の回復に期待

3月期決算の企業が多い日本では、6月の株主総会で決算が承認されるまでの4~6月はIPO件数が減少します。ゴールデンウィーク前にその年の前半戦の山場を終え、5~6月までは低水準で推移して、7月頃から増加するのが例年のパターンです。

しかし、2021年は4月までに31社がIPOしたのに対して、2022年は最初の山場を超えてなお24社に留まっており、依然として低迷中です。連休明けからしばしの小休止を挟んだ後、IPO市場は例年のように回復できるのか。4月終値で安値を更新したマザーズ指数の行方とともに注目されます。

[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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