初値天井か、公募割れか。IPO後の株価推移から見えてくるもの【2024年のIPOランキング】
《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし、そんな「夢の時代」にも陰りが? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》
新興市場の低迷が続く中、2024年は86銘柄が新規株式公開(IPO)を行いました。2023年の96銘柄に比べると10銘柄の減少に加えたものの、初値天井となる銘柄が多数発生。それも、初値騰落率ランキングの上位と下位いずれでも初値天井が多く出ることとなりました。
特に株価の面で課題の残る一年となった2024年のIPO市場を振り返ります。
2024年の新興市場を振り返る
国内新興市場の指標である東証グロース市場250指数(東証グロース指数)の2024年の推移を見てみます。
東証グロース指数は2022年1月の急落後の低迷が継続中です。2022~2023年に続き、2024年も大きな反発は見せず、安値圏での推移となりました。また、8月の国内市場全体の急落時には、一時的に史上最安値を更新しています。
その後の急反発により、8月の月足は下ヒゲの長い陽線を形成。9月以降も安値圏での推移が続きましたが、11~12月は小幅ながら2か月続伸しており、2025年の安値圏脱出に向けて期待が持てる状態で2024年を終えました。
今年3月、上場維持基準の導入で市場はどうなる?
2025年3月、上場維持基準の適用が開始されます(経過措置の期間が終了)。上場企業は、市場ごとに定められた基準に適合した状態を継続的に維持することが求められます。
これにより、基準に達していない企業では、上場維持のための株価対策やMBOによる上場廃止の本格化が予想されます。東証グロース市場には基準未達の企業が少なからず存在しており、この動きが2025年のグロース指数上昇の背中を押す可能性もあります。
2024年のIPOランキング
2024年にIPOを果たした86銘柄のうち、初値が公開価格を大きく上回ったのはどのような銘柄だったのでしょうか。公開価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率ランキング」を作成。ベスト10とワースト10を見てみましょう。
・2024年のIPO初値騰落率ベスト10
2024年の初値騰落率1位はジンジブ<142A>の127.4%でした。2023年の第1位はアイデミー<5577>の+429.5%で、それと比較すると落ち着いた一年だったと言えます。言い換えれば、2024年はIPO投資で大きく儲けられる年とはなりませんでした。
また、ランキング上位の銘柄のほとんどが上半期のIPO、という傾向も見られます。
〈参考記事〉IPOで上がる株・下がる株は何が違うのか? 初値のその後を追いかけてみた【2023年IPOランキング】
・2024年のIPO初値騰落率ワースト10
2024年のIPOで最も初値騰落率が悪かったのは、dely<299A>のマイナス16.6%。ワースト10を見ると、下半期にIPOした銘柄が数多くランクインしています。2024年のIPO市場は、特に下半期が盛り上がりに欠ける状況だったことがわかります。
注目IPO・有名企業はいずれもランキングに入らず
2024年のIPO市場では、隙間バイトサービスを提供するタイミー<215A>が、急成長を遂げた企業のIPOとして注目を集めました。また、長くIPOが噂されていた東京地下鉄(東京メトロ)<9023>、さらに半導体大手のキオクシアホールディングス<285A>のIPOもありました。
ただ、これら3銘柄はいずれも初値騰落率ベスト10、ワースト10のランキングには入っていません。その年を代表するような銘柄や有名企業のIPOでは、公開価格が妥当な値付けに設定されて、良くも悪くも初値は過度な注目を集めることはありませんでした。
2024年IPO市場で注目された銘柄の、その後
2024年の初値騰落率ランキングでベスト10・ワースト10に入った銘柄の、その後の株価の動きを追いかけてみましょう。
初値騰落率トップながら、ほぼ初値天井
・ジンジブ<142A>
2024年の初値騰落率トップ(+127.4%)となった、高卒求人情報を提供するジンジブ<142A>。
IPO後の株価はほぼ初値天井となっており、下落が続いています。公開価格1,750円に対して初値3,980円でしたが、587円で2024年の取引を終えました。初値も公開価格も大きく下回る水準で、時価総額は約15億円となっています。
ジンジブは2025年3月期決算について、IPOの後に下方修正を発表。ほぼ収支均衡の着地見込みで、IPOによる成長加速とは真逆の方向となったことが投資家に嫌気された形となりました。
ランキング上位組はいずれもIPO後に苦戦
2024年IPOの銘柄のうち、初値騰落率が100%超え(=株価2倍)といった銘柄のほとんどが、IPO後の株価に苦戦しています(フォルシアは12月IPOのため、ここでは除外)。
初値天井については、過去から何度も批判がなされている通り、決して好ましい状態ではありません。こうした上半期の反省もあって、下半期のIPOでは公開価格の値付けが保守的となり、その結果として初値騰落率が低迷した、という側面もあります。
初値騰落率ワーストもセカンダリー投資では利益に
・dely<299A>
2024年の初値騰落率ワーストとなったdely<299A>。12月19日にIPOを行い、公開価格1,200円ながら初値は1,001円に留まりました。しかしその後は株価が上昇し、一時的に公開価格の1,200円を突破。そして、初値からは15%の上昇となる1,152円で2024年の取引を終えました。
公募割れというスタートではありましたが、だからこそ、IPO後のセカンダリー投資では利益が出せたことになります。
公募割れ銘柄の多くもIPO後の株価は不調
delyの場合は公募割れから比較的堅調に推移しましたが、その他の公募割れ銘柄の多くは、初値が付いた後さらに下落が進みました。
公募割れ後に株価が下落すると、投資家としては利益を上げる機会がありません。2024年の公募割れ銘柄の値動きは、投資家にとっては非常に厳しい状態と言えるでしょう。
IPO延期で時価総額は下がるも株価は上昇傾向
・キオクシアホールディングス<285A>
2024年IPOの注目のひとつだったキオクシアホールディングス<285A>についても、その後の株価の推移を見てみましょう。
キオクシアは、東芝から分離した半導体メモリー企業として有名です。しかしながら、IPO計画は二転三転し、一時は時価総額2兆円規模になると報じられていたものの、最終的には7000億円超で12月18日に無事IPOを果たしました。
公開価格1,455円、初値1,440円でわずかに公募割れとなりましたが、その後、株価はジリ高が進み、一時1,930円まで上昇。最終的には1,640円で2024年の取引を終えています。2025年に入るとさらに上昇が進み、1月8日には2,000円に到達しました。
IPO延期とともに時価総額は下がった反面、IPO後の株価は上昇傾向にあるため、投資家としては今後に期待を持てる状態と言えるのではないでしょうか。
IPO後の株価推移に課題が残った2024年
2024年のIPO市場では、初値天井および初値天井に近い銘柄が多くなりました。IPOとしては健全な状態とは言えず、件数はそれなりにあったものの課題が残る結果でした。ただ、年の後半は公開価格を抑える形でのIPOが相次ぎ、その反省は活かされたとも言えます。
2025年のIPO市場は2月3日に幕を開けます。今年こそ、グロース指数の回復とともに、IPO市場も活気を取り戻すことを期待したいところです。