注目のキオクシアは公募割れでも、いい感じのフィナーレ【12月のIPOランキング】

石井僚一
2025年1月10日 17時00分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし、そんな「夢の時代」にも陰りが? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》

例年IPOが増える12月。2024年は17銘柄がIPO(新規株式公開)を果たしました。その中には有名企業であるキオクシアホールディングスの名があり、また、3月以来の初値騰落率100%超えも誕生しました。

新年に向けて明るい兆しも見えた、2024年12月のIPO市場を振り返ります。

2024年12月のIPO市場

例年、IPO市場は12月にピークを迎えます。2024年も17銘柄のIPOが行われ、3月の15銘柄を超えて、2024年で最もIPO件数の多い月となりました。

2023年の12月は15銘柄だったため、それよりは若干増えていますが、2022年12月の25銘柄に比べると寂しくも感じられる数字です。年間で見れば多いものの、過去との比較では一段低い水準の件数に留まっています。

IPO市場に影響を与える東証グロース市場250指数は、8月に一時的な急落が発生するなど低迷が続いていますが、12月はわずかながら上昇し、月足は下ヒゲのある陽線を形成しました。これで2か月続けて上昇となり、1~2月以来の続伸です。

とはいえ、依然として安値圏での取引が続いており、2024年のグロース指数は年間を通じて低迷しました。

2024年12月IPOランキング

IPO件数の増加とともに人気化する銘柄も現れました。2024年12月にIPOを行った17銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率ランキング」を見てみましょう。

17銘柄のうち4銘柄が公募割れとなり、公募割れ率は23%です。約2割の銘柄が公募割れとなりましたが、2023年12月の50%を超える公募割れに比べると状況の改善が見られます。

一方、上昇した銘柄のトップ3は、1位・フォルシア(騰落率+108%)、2位・ビースタイルホールディングス(+61%)、3位・Synspective(+53%)で、3月以来の騰落率100%超え(=株価2倍)がありました。

2024年12月の気になるIPO銘柄

この12月の注目IPOとしては、半導体メーカーとして知名度の高いキオクシアホールディングス<285A>が挙げられます。騰落率1位となったフォルシア<304A>とともに詳しく見ていきましょう。

静かなIPOに終わるも今後に期待

・キオクシアホールディングス<285A>

東芝<6502>の半導体メモリー部門から独立したキオクシアホールディングス<285A>。過去にIPO目前でIPOを延期したことがあり、満を持しての上場となりました。

日本を代表する半導体企業かつ世界的なメモリーメーカーですが、業績としては2期連続の赤字です。半導体業界はAIブームに沸いていますが、同社の主力製品はAIメモリーではなく、ブームの枠外の存在となっているためです。

ただ、今期は第2四半期まで黒字で推移しており、業績の回復が見込まれます。

公開価格1455円に対して、初値1440円、初値騰落率はマイナス1.03%で、わずかながら公募割れとなってしまいました。初値ベースでの時価総額は7843億円です。

キオクシアは2020年にIPO直前まで至り、想定時価総額は2兆円とも言われていました。その後、2024年夏〜秋の上場観測時に報じられた時価総額は1.5兆円。最終的には7000億円強での着地となりました。これまで囁かれていた数字と比べると寂しい結果です。

2期連続の赤字かつAIブームに乗れていない状態が投資家たちに嫌気された側面もありますが、その一方で、過去の1兆円を超える想定時価総額が、そもそも目標として高すぎた可能性も否定できません。

期待とは裏腹に静かなIPOとなりましたが、これにより約300億円の資金を公募で調達していますので、国内半導体メーカーとして今後の成長を期待したいところです。

控えめな株価設定が功を奏する

・フォルシア<304A>

フォルシア<304A>は、膨大かつ複雑なデータから必要な情報を的確に探し出す技術基盤「Spook」をもとに顧客の課題解決を行う「ソリューション型サービス」と、複数顧客が共通で抱える課題の解決策を提供する「SaaS型サービス」の2つの軸で事業を展開する企業。

顧客の約7割が旅行・観光業で(2024年2月期)、大手旅行会社10社のうち8社にサービスを提供しています。業績も黒字化しており、着実に増収増益を続けています。今期は売上高20億円、経常利益2億円の大台に到達する予定です。

公開価格1750円での予想PERは15倍(予想EPS:111.81円)で、業種から見ると控えめな株価設定でIPOに臨みました。

その結果、初値は3640円となり、見事100%(2倍)を超える初値騰落率108.0%でIPOを果たしました。2024年の初値騰落率100%超えは、3月28日上場の情報戦略テクノロジー(122%)以来、7件め。時価総額は、公開価格時21億円、初値時は43億円でした。

ビッグデータ関連という人気化しやすい銘柄ながら、低めの株価設定にしたことが功を奏し、初値が伸びました。すでに黒字化していることに加え、時価総額も控えめで、人気化しやすかったと言えます。

このフォルシアが2024年相場では最後から2番目のIPOであり、一年のフィナーレを飾るにふさわしい結果となりました。

明るい兆しも見えてきた

2024年もグロース指数は低迷が続きましたが、IPO市場は、件数としてはそれほど落ち込むことなく推移しました。ただ、年後半は初値騰落率が100%を超える銘柄はほとんどなく、初値の観点では盛り上がりに欠ける一年だったと言えるでしょう。

しかしながら、年末にかけてはグロース指数が続伸し、IPO市場でも初値騰落率100%超えが12月に出るなど、新たな年に向けて明るい兆しも見えています。

例年1月はIPOの休業期間であり、2025年も1月のIPOは予定されていません。2月から始まる2025年のIPO市場では、年末のいい流れを受けて本格回復することを期待したいと思います。

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[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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