IPOで上がる鍵は証券会社にあり? 主幹事ランキング、公募割れ1位は…

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし、そんな「夢の時代」にも陰りが? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》
IPOの鍵を握る主幹事証券会社
企業が株式を新規公開(IPO)する際に、新株の引き受けおよび販売の中心役となる証券会社、それが「主幹事」です。
企業にとって、IPOの実務面で重要な役割を担うだけでなく、IPO株投資を行う投資家にとっても、どの証券会社が主幹事を務めているかという視点は、投資判断をする上で非常に重要です。特に主幹事は、公開価格の決定に大きく関与します。
大手の証券会社が主幹事となっている銘柄は安定感があり、公募割れのリスクも少ない傾向にあります。その一方で、大手以外の証券会社の主幹事銘柄では初値で大きく上昇する、ということも少なくありません。
2024年の主幹事ランキング
昨年2024年は計86銘柄のIPOが行われました。最も多くの主幹事を務めたのはSMBC日興証券の22件で、2022年以来の首位返り咲きです。

年間10銘柄以上の主幹事を手掛けた証券会社は5社でした。また、97銘柄がIPOを行った2023年に1位だった大和証券の主幹事銘柄数は18でしたが、計86銘柄の昨年は首位のSMBC日興証券が20件を突破しました。
〈参考記事〉主幹事で見るIPOランキング 公募割れ最多はアノ大手証券会社
その一方で、2023年は1位から5位までが14~18銘柄で大きな差はありませんでしたが、昨年は1位の22銘柄に続くのが2位の14銘柄(みずほ証券)で、SMBC日興証券の強さが光ったと言えます。
SMBC日興証券は不祥事の影響で、2023年は主幹事数を減らしていました。しかし2024年は、それ以前と同じように、同社が頭ひとつ抜ける状態が復活しています。
初値騰落率で見る主幹事ランキング
2024年のIPO市場は初値騰落率が落ち着いた状態となり、IPO株投資で一気に利益が出る年とはなりませんでした。それでも初値騰落率100%超(=2倍以上)となった銘柄は7件ありました。
〈参考記事〉初値天井か、公募割れか。IPO後の株価推移から見えてくるもの【2024年のIPOランキング】
初値騰落率100%超となった7銘柄について、それぞれの主幹事を見てみましょう。

7銘柄のうち3銘柄、つまり、2024年の初値騰落率100%超銘柄の約4割は、みずほ証券が主幹事でした。みずほを除くと各社が1銘柄ずつとなっており、分散傾向にあります。
公募割れで見る主幹事ランキング
2024年は、初値が公開価格を下回る公募割れが19銘柄あり、公募割れ率は22%でした。2023年の約4割に比べると率は下がり、グロース市場が低迷する中で、各証券会社が慎重な値付けを行った様子がうかがえます。
では、公募割れ銘柄を最も多く出した証券会社は、どこだったのでしょうか。主幹事別の公募割れ件数のランキングを見てみましょう。

1位は大和証券、2位は野村證券という結果になりました。比較的手堅い値付けを行うことで知られる大手2社ですが、両社ともに主幹事数は13銘柄だったので、大和証券は約3割、野村證券は約2割が公募割れとなってしまいました。
一方、主幹事銘柄数で1位となったSMBC日興証券は、かつては公募割れ比率が高い傾向にあったものの、2024年は2銘柄に抑えています。
19銘柄が公募割れとなった2024年ですが、特に初値騰落率が悪かった(マイナス10%超)2銘柄の主幹事は、大和証券と岡三証券。最多の公募割れを出した大和証券は、2024年は値付けに苦労したようです。

2025年はIPO市場に活気が戻るか?
2025年3月から、東京証券取引所の「上場廃止基準」の適応が開始されます。
(参照)上場廃止基準|上場廃止基準の概要|日本取引所グループ
これまで東証は、基本的に上場を促進するスタンスで、上場後に業績や株価が伸び悩む企業に対して特段の措置を講じておらず、特にグロース市場の新陳代謝が進まない、との批判がありました。しかし、この上場廃止基準の適用により、それも変わります。
2024年は初値騰落率が一気に伸びる銘柄もなく、また、「初値天井」が多いという、IPO市場としては厳しい一年でした。2025年は、銘柄のふるい落としが始まるのを契機に、IPO市場も活気を取り戻すことを期待したいところです。