やらかし企業は買いなのか? 懲りない兜町の意外な銘柄選択法
《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》
懲りない兜町の面目躍如!?
兜町の体質は変わらないな……と苦笑した。
9月末、『野村證券が国債取引で相場操縦、(証券取引等)監視委員会が課徴金を勧告―2176万円』というニュースが流れた。
2021年3月9日、野村證券のトレーダーが「自己資金による国債の先物取引で、安値で買い取ることを目的に大量の売り注文を出し相場の変動を演出。第三者の売り注文を誘発。買い取った後に先に出した売り注文を全て取り消すなどした。逆に高値で売りつける意図の際は、逆の行為を執った。148万円利益を得た」というのだ。
こうした大量の偽り注文は、兜町では「見せ玉」と呼ばれる。実は以前にも、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(2018年)や、シティグループ傘下の金融機関(2019年)でもこの「見せ玉」行為が行われ、課徴金納付命令が課せられている。
そんな懲りない兜町を久方ぶりに、冷やかし半分で歩いた。だが住人たちは「その件な。あはは」と全く意に介する風がない。それどころか、「そんなことに目くじら立てるキャリアでもないだろう。むしろ兜町に脈々と流れている銘柄発掘法でも書いたほうがギャラになるよ」と切り返された。
確かに。というわけで、その助言に素直にしたがってみることにしよう。なお、ここに登場する銘柄は、いずれも投資候補先として取り上げているわけではないことを、あらかじめお断りしておく。
「チョンボは買い」は本当か?
兜町には、「(収益力がある企業の)チョンボは買い」という定説(?)がある。過去数年間に〝チョンボ〟をやらかした現好収益企業探しを試みた。
浮かび上がった1社が、MIRARTHホールディングス<8897>。2022年10月に旧タカラレーベンが持株会社制に移行し、登場した会社だ。ひとくちで言うと、1次取得者向けを中心としたマンションの企画・開発・分譲を手がける。
今年5月、2021年5月に公表した2025年3月期までの中期経営計画を修正した。売上高は2037億円から2000億円に下方修正するも、「営業利益は157億円から170億円、純益は100億円から107億円」に上方修正した。
実はMIRARTHは、2022年10月31日に「宅建建物取引業の自主廃業および再申請について」とするリリースを発信している。きっかけは、元役員がスピード違反で執行猶予付きの有罪判決を受けたことだった。当初、その元役員から会社に届けが出されなかったらしい。だが、時間をおいて発覚。監督官庁に報告すると同時に、件の事実を公にした。
その際、同社は「宅建建物取引業者の欠格事由に該当する。自主的に廃業するのが、妥当」と判断。その上で、前記のリリースを公にしている。その後、業者免許の管理者からの判断を待ち、2022年12月2日付けで都知事免許が再交付された。
後手後手の対応では「命取りにもなりかねない」出来事だったわけだが、その後のMIRARTHの収益動向はどうか。2023年3月期は「減収5.7%、営業減益40.8%、最終減益26.2%」で影響が感じられる。決算関係資料でも、「深謝」「信頼回復に努める」と繰り返された。
しかし、2024年3月期は「増収20.7%、営業増益119.9%、最終増益78.4%」。かつ、コロナ禍の影響を受けた2021年3月期は5円減配の14円配当だったものの、前期末には24円配当となっている。そして今期は期初早々に前記のとおり「利益上方修正」計画。開示済みの第1四半期は「前年同期比38.1%増収、146.6%営業増益、純益5億9100万円の赤字脱却」と、順調な滑り出し。
現在の株価は500円台前半、予想配当利回りは4.6%強だが、チョンボのツケを依然引きずっているとも捉えられる。PBRは0.91倍にとどまっている。
社名を変更すること10回目
社名変更を繰り返し、〝ヤバイ状況〟に晒された時期がある企業のフォローも、意外なホット銘柄に出会うチャンス──兜町には、そんな経験則も存在している。
例えば、今年9月にカーチスホールディングスから社名を変えた、レダックス<7602>。中古車の買い取り・販売の大手だが、会社設立17年目にして10回目の社名変更だ。同社には「なんでそんな古い話を」と言われるかもしれないが、話は4回目の社名変更時に遡る。2005年9月、ライブドアがジャック・ホールディングスの株式を取得し、2006年元日付でライブドアオートに社名を変更した。
そのわずか2週間後、いわゆる「ライブドア事件」が表面化する。ライブドアが実質的に支配していた投資事業組合が、買収企業の株をライブドアの収益として計上していた疑いで告訴されたのだった。社長は堀江貴文氏は「事実無根」として最高裁まで争ったが、有罪が確定。これが「大きなイメージダウンになる」と、同社は8月1日にカーチスに社名変更した。
さて、その後の収益動向はどんな状況かと言えば、厳しい状況を強いられた。コロナ禍の影響もあり、2023年3月期には「営業損失5億1000万円、最終赤字5億2600万円」まで落ち込んだ。しかし今期は「増収4.9%、営業増益180.6%、最終増益160.3%」計画。立ち直る流れを示していると言えよう。
ただ、株価が「評価」されるまでには至っていない。仮に2015年の初値699円で買い、現在まで保有しているとすると、株価パフォーマンスはマイナス81%水準(調整済み)。
兜町独特な銘柄選択法も、この限りでは当てはまらないということになるが、さて今度どうなるだろうか。