若い世代こそ株式投資を。配当貴族から始める米国株投資のススメ

千葉 明
2022年7月21日 12時00分

deagreez/Adobe Stock

《東京証券取引所が立つ日本橋・兜町。かつての活気は、もうない。だがそこは紛れもなく、日本の株式取引の中心地だった。兜町を見つめ続けた記者が綴る【兜町今昔ものがたり】》

若い世代こそ株式投資を

 少子化時代。老後資金の中心になる年金は、時代時代の若い世代が原資を担う。「2021年の出生者が84万人と過去最低更新」といった事実を知ると、危惧されている「年金原資破綻の危険性」が現実味を帯びてくる。20代・30代の若い世代は、「年金はあてにしない」くらいの覚悟で「自らの手で年金づくりを」に一刻も早く目覚めるべきだ。

「預貯金」「有価証券」「不動産」。超低金利時代のいま、預貯金は「?」。超低金利下でのマイホーム取得は一策。だが現実問題として、人生最大の買い物は若い世代にとって「右から左に」という具合にはいかない。有価証券投資、一歩踏み込んで株式投資はどうか。それも国際感覚を身につけることにも繋がる、米国株投資。株式投資については「リスクを取りに向かわずしてリターンもなし」という一面が否定できないが、私が若ければ挑む。

 2015年に『スクラップ・アンド・ビルド』で30歳にして芥川賞を受賞した羽田圭介氏。インタビューで米国株投資について語っている。

 高校在学中に『黒冷水』で新人作家の登竜門とされる文藝賞を受賞。大学卒業後1年半ほど「会社員」「作家」の二足の草鞋を履いたのち、一本立ち。だが「作家で成功して、資産は作れるかどうかは確信できない」と、投資の世界に足を踏み入れた。個人型確定拠出年金(現・iDeCo)、投信・ETF、そして日本株投資。「芥川賞で作家として先々の目途はついたが、投資の世界とは離れられなくなっていた」。しかし日本株では、相場が立っている昼間は仕事中で対応しにくい。そこで米国株の直接投資にシフトしたという。

 通常の2030歳代も、昼間は仕事タイム。米国株と取り組むのはひとつの選択肢といえるのかもしれない。言うまでもなく、万全の準備を期して。

貴族から始める、米国株投資のススメ

 別の記事でも記したが、米国株投資を始めるなら配当貴族指数の構成銘柄から取り組むことをおすすめしたい。S&P500種企業のうち「25年以上連続増配」を実現している実力派企業。現状では50余社が該当する。25年以上連続増配というのは容易ではない。下値不安の薄い有力株といえる。無論、株式投資に「絶対」はないが。

 米国株投資に取引手数料は必須。証券会社により体系は違う。例えばネット証券のマネックス証券で「約定代金の0.495%(税込)」。野村証券は「最大1.045%、約定代金が75万円以下の場合は最大7810円(いずれも税込)」。ネット証券が総じて割安。取り扱い銘柄数も、現状ではマネックス証券が4100銘柄超で最も多く、野村證券の580銘柄余に大きく差をつけている。口座開設自体は無料なので、複数社で口座を開くというのも一法。

 投資は自己責任。だが海外企業の情報は得にくいことも事実。『米国会社四季報』(東洋経済新報社)を手元に置いておけば安心感が高まる。年に2回刊行(春・秋)。掲載企業は「SP500銘柄」「新興市場の有望銘柄」を合わせ約760社。「社名」「銘柄コード」「企業概況」「業績動向」「指標(PERPBR等)」「材料」などが、社名以外は日本語で記されている。備えがあって初めてリスクも軽減する。

よりどりみどりのトップ貴族23

 昨年末時点で配当貴族株にカウントされている米国企業の中から「連続増配期間」の上位(54年以上)の23銘柄をリストアップ。米国株投資の足がかりとして参考にしてほしい。

1位】アメリカン・ステイツ・ウォーター<AWR>

連続増配67年、配当性向55.12%/カリフォルニア州南部24万世帯に水道水を供給する民間の水道会社。米政府と50年の長期計画を結んでいる。2014年に同州が水不足・干ばつの危機に陥った際にも水を供給し続けたことで知られる。

2位】ドーバー<DOV

連続増配66年、配当性向26.89%/1947年設立。各種メーカーを傘下に持つ総合的な製造業グループ。業務用冷蔵庫・ガソリン給油機・バーコーダー読み取り機など、企業や店舗向け機器が主力。イタリアの有力インクジェットプリント機メーカー、MSプリンティングソリューションズの買収に象徴されるように、M&Aで業容を拡大してきた。

3T】ジェニュイン・パーツ<GPC

連続増配65年、配当性向36.82%/ナショナル・オートモーティブ・パーツ・アソシエーション(NAAP)のメンバー企業。内外のNAAP企業に自動車部品を卸している。

3T】ノースウェスト・ナチュラル・ガス<NWN

連続増配65年、配当性向56.21%/オレゴン州・ワシントン州の天然ガス供給会社。天然ガス機器の販売・設置・点検なども展開。

3T】パーカー・ハネフィン<PH

連続増配65年、配当性向24.53%/工作機械向け部品や流体用ホース・継ぎ手などの製造を中心とした、世界最大の油圧機器メーカー。海外展開にも積極的で、1992年には日本エーエムシー・前田製作所と合弁で、高圧力・高振動機械対応の継ぎ手の製販を行っている。

3T】P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)<PG>

連続増配65年、配当性向60.29%/日本でもお馴染み。180カ国で製品を販売する世界最大の日用品メーカー。

7位】エマソン・エレクトリック<EMR

連続増配64年、配当性向49.51%/産業界向け電気・電子機器の設計・開発・製造が主力。石油化学やLNGなどプラント向け設計・制御では世界の大手6社の一角。日本法人は、日本エマソン。シェールガス危機(1900年代終盤)を契機に事業拡大。LNGプラント向け実績豊富。FLNG(浮体式液化天然ガス)の世界初プロジェクトでも、制御機器を受注している。

8位】スリーエム(3M)<MMM

連続増配63年、配当性向58.76%/「ポスト・イット」などで日本でも馴染み深い(住友電工と合弁で進出。すでに60年を超えている)、約120年の歴史を有す化学メーカー大手。「開発研究型企業の典型」と称される。「勤務時間の15%を個人的研究にあててOK」という経営法に象徴的。

9位】シンシナティ・ファイナンシャル<CINF

連続増配61年、配当性向31.24%/法人向け保険会社。約1600の独立代理店を擁する。

10T】ロウズ・カンパニーズ<LOW

連続増配59年、配当性向31.85%/米国内ホームセンターで3指の一角。DIY需要の拡大でポジションを築いた。

10T】ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ

連続増配59年、配当性向63.49%/時価総額で世界の10指に数えられる。医療用器機の大手メーカーでかつ医薬品・健康関連用品で世界最大の企業。

10T】コカ・コーラ<KO

連続増配59年、配当性向71.49%/推して知るべし。世界200カ国以上で事業展開。

10T】ランカスター・コロニー<LANC

連続増配59年、配当性向43.35%/サラダドレッシングやソース、卵乾麺等々の小売り食品サービス業向け専門食品の製販業者。

14T】ノードソン<NDSN

連続増配58年、配当性向22.01%/接着剤やコーティング剤等々の精密ディスペンシング機器の世界トップ。30カ国以上で展開。

14T】コルゲート・パルモリーブ<CL

連続増配58年、配当性向56.29%/石鹸・洗剤・歯磨き粉など日用品大手、ペットフードの開発・製造も手掛ける。

14T】イリノイ・ツール・ワークス<ITW

連続増配58年、配当性向57.63%/機械・部品メーカー。米自動車ビッグスリーに自動車用スクリューを供給。M&Aで多数の製造業を買収し、留め金具からアーク溶接まで幅広い工具・機械を製造。

17位】ホーメルフーズ<HRL

連続増配55年、配当性向85.22%/「スパム」ブランドで著名な食肉缶詰メーカー。

18T】ABMインダストリーズ<ABM

連続増配54年、配当性向27.84%/内外の施設運営上の各種ソリューション事業を展開。

18T】カリフォルニア・ウォーター・サービス・グループ<CWT

連続増配54年、配当性向27.84%/一般家庭用、産業・公共・製造業用などの配水・給水・検査を展開。

18T】フェデラル・リアルティ・インベストメント・トラスト<FRT

連続増配54年、配当性向81.45%/不動産信託会社。

18TSJWグループ<SJW

連続増配54年、配当性向109.68%/水・不動産のユーティリティサービスを提供。

18T】スタンレー・ブラック・アンド・デッカー<SWK

連続増配54年、配当性向24.29%/北米・欧州で知名度の高い家庭菜園用(電動)工具メーカー。

18T】ターゲット<TGT

連続増配54年、配当性向31.60%/米小売り大手。PB品豊富。ウォールマートやKマートに対し「高級デザイナーブランドを安価で提供する」戦略で、地位を築いた。

 ここ数年、外国人投資家の日本株離れ(売り)が顕著だ。証券会社の自己売買や個人投資家が買い支える状況。株式投資の在り様を見直す時期に差しかかっているとも言える。

[執筆者]千葉 明
千葉 明
[ちば・あきら]東京証券取引所の記者クラブ(通称・兜倶楽部)の詰め記者を振り出しに、40年以上にわたり、経済・金融・ビジネスの現場を取材。現在は執筆活動のほか、講演活動も精力的に行う。『野村證券・企業部』『ザ・ノンバンク』『円闘』など著書多数。
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