アフターコロナの景気はどうなるのか 見落としがちな景気と株価の関係とは

山下耕太郎
2020年5月29日 9時00分

コロナ後の景気を見通す

株の世界だけでなく日常生活でもよく話題に上る「景気」ですが、具体的には、経済活動全般の動向のことを意味します。では、それを具体的にどうやって判断するか、ちゃんと理解しているでしょうか? 個人の主観や印象では判断がバラバラになり、経済や相場の先行きを見通す参考になりません。

景気の良し悪しは「経済指標」によって判断されます。日本で使われている経済指標は「景気動向指数」と「GDP(国内総生産)」の2つで、これらの指標が良ければ「景気が良い」「好景気」と呼ばれ、悪ければ「景気が悪い」「不景気」あるいは「不況」と呼ばれるのです。

新型コロナウイルスのパンデミックによって、今後の景気はどうなるか心配している人も多いでしょう。景気を判断する経済指標を理解することで、ニュースや他の人の意見を待たずとも、景気の現状を理解することができるようになります。

景気全体を知る「景気動向指数」

ニュースでもよく耳にする「景気動向指数」は、産業や金融、労働など、経済にとって重要かつ景気に敏感な28の「景気指標」をもとに算出される指数です。景気全体の状況を判断したり、将来の動向を予測したりするときに使われます。

この景気指標は、数か月先の景気の動きを示す「先行指数」、景気の現状を示す「一致指数」、さらに半年から1年遅れで反応する「遅行指数」の3つに大別されます。それぞれの代表的な指数を見てみましょう。

・先行指数:東証株価指数(TOPIX)

景気動向指数の「先行指数」として採用されているのが、「東証株価指数TOPIX)」です。東証1部に上場する全銘柄を対象とした株価指数で、日経平均株価とともに日本の代表的な株価指数です。

景気の先行きを知るための指標として株価指数が使われているということは、「株価は景気に先行して動く」ことが公的に認められているということを意味します。言い換えれば、株価を見ても「現在の景気」はわからない、ということにもなるでしょう。景気と株価の関係については、後ほど詳しく解説します。

・一致指数:有効求人倍率

有効求人倍率」とは、世の中にどのくらい仕事(求人)があり、それに対してどのくらい応募があるのかを表しています。求人募集が200件、仕事を探している人が100人だとすると、有効求人倍率は2倍になります。

景気が良くなって仕事が増えれば、有効求人倍率は高くなります。したがって、有効求人倍率が高いほど景気は良いと判断できます。こうした労働市場の状況は景気にほぼ一致するので、有効求人倍率は、景気の現状を示す「一致指数」として重視されます。

2020年3月の有効求人倍率は1.39倍で、3年半ぶりの低い水準となりました。さらに、4月は前月比0.07ポイント低下の1.32倍。これは、2016年3月以来の低水準です。緊急事態宣言を受けて経済活動が落ち込み、企業の採用意欲は急速に低下したことを示しています。

ただ、リーマンショックの際には、翌年の2009年に0.47倍まで低下しています。今後も有効求人倍率の動向には注意が必要でしょう。

遅行指数:完全失業率

完全失業率とは、15歳以上の働く意思のある人のうち「現在仕事についていない」「仕事があればすぐに働ける」「仕事を探す活動をしている」という条件をすべて満たす失業者の割合を示します。景気が悪くなった後に失業者が増えることから、完全失業率は「遅行指数」になります。

2020年4月の完全失業率は2.6%と、前月から0.1ポイント悪化。完全失業者の数が6万人(季節調整値)増加したことになります。しかしながら、遅行指数であることから、これは半年前の景気への反応と見ることができ、コロナ禍による失業者数の増加は今後さらに大きくなることが考えられます。

指数で見る景気の「山」と「谷」

実際にこれらの景気動向指数を用いて景気を評価する際には、コンポジット・インデックス(CI)とディフュージョン・インデックス(DI)という2つの見方があります。

CIは、構成する指標の動きを合成することで景気変動の大きさやテンポを表し、2015年を100として、前月より高くなっていれば景気回復が進んでいる、と判断します。

一方のDIは、構成する指標のうち上昇を示す指標の割合が数カ月連続して50%を上回っていれば景気拡大、50%を下回っていれば景気が後退している、と判断します。

日本では、内閣府が専門家を集めて開催する「景気動向指数研究会」によって、景気の「山」と「谷」が判断されています。その基準となっているのはCIで、具体的には、景気の現状を示す「一致指数」が上がっているか下がっているかを見て、景気に関する政府の公式見解(基調判断)として発表しています。

5月に発表された2020年3月の一致指数は前月比5.2ポイント低下の90.2で、基調判断は「悪化」となりました。つまり、景気後退の可能性が高いということです。推移を示すグラフからも、新型コロナウイルスの感染拡大が景気に大きな影響を与えていることがわかります。

(出典:内閣府ホームページ

経済規模を知る「GDP(国内総生産)」

景気動向指数とともに景気の良し悪しを判断する際に使われる経済指標が「GDP国内総生産)」です。国内で生み出された付加価値の総額を示し、国内の経済活動の規模を知るための指標として用いられます。

GDPの値が大きければ経済規模が大きい、小さければ経済規模が小さいというように、国ごとの経済規模の大きさを比べる際にも使われますが、同時に、前年と比べて値が大きくなっていれば「景気が良くなっている」と判断することができます。

2019年10~12月期のGDPは、物価変動を除いた実質で前期比1.9%減、年率換算では7.3%減となりました。世界経済の減速もありましたが、消費税率の引き上げが大きな原因となったのは言うまでもありません。

そして2020年1~3月期は、物価変動を除いた実質で前期比0.9%減、年率換算では3.4%減(いずれも速報値)。新型コロナウイルスの感染拡大によって2四半期連続でマイナス成長となりました。また、2019年度の実質GDPも前年度比0.1%減となり、実に5年ぶりのマイナス成長です。

(出典:内閣府ホームページ

欧米では、GDPが2四半期連続でマイナスになると「リセッション景気後退)」とみなします。つまり欧米の基準で考えると、日本は景気後退期に入ったと考えられるわけです。

景気と株価の関係

不景気になると、モノやサービスが売れなくなるので企業の業績は悪化し、株価は下落します。景気を判断する景気動向指数から見ても、残念ながら景気は悪くなるほうに向かっているようです。では、株価は下落するのでしょうか? 景気動向指数にも採用されているTOPIXの推移を確認してみましょう。

TOPIXは、2020年3月17日に1,199.25ポイントまで急落。2020年の高値1,745.95ポイントからの下落率は実に32%に達しました。しかしその後は、下げ幅の半分以上を戻して1,580ポイント近辺まで上昇しています。

株価は景気を「先取り」する

株価は景気の動きを半年から1年先取りして動く」と言われます。ということは、2月から3月にかけてのTOPIXの急落は、夏頃までの景気悪化を織り込んだものであり、その後の戻しは秋以降の回復を見越した上昇、というふうに考えることができます。

つまり、これから発表になる一致指数や遅行指数、あるいはCIといった経済指標の悪化は、すでに株価には織り込み済みということです。それよりも、10月以降に発表される経済指標の動向を意識して、現在のTOPIXは動いていると見ることができるわけです。

「半年先」を考える

もちろん、実際に今後の景気がどうなるかを判断するうえでは、これから発表される景気指標の内容を注視しなければなりません。株価の「先取り」が常に正しいとは限らないからです。

2020年のコロナショックは経済や株価に大きな影響を与え、そのインパクトは2008年のリーマンショック以上とも言われています。ただし、景気がいつまでも悪化し続けることはなく、過去の金融危機などでも2~3年程度で経済は回復しました。

コロナショックによる景気回復がいつになるかはわかりませんが、景気動向指数やGDPといった指標を確認しながら、株式市場では、足下の景気動向を判断しながら半年先の景気を考える、という姿勢が投資家には必要と言えるでしょう。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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