日銀短観は本当に株価に影響するのか? 最も重要な経済指標の影響力を知る

山本将弘
2019年6月5日 8時00分

 

テレビのニュース速報でも流れる「日銀短観」。それほどに重要な情報ということですが、一体なぜ重要なのか? それが株価の動きにどう関係するのか? 最も重要な経済指標と言われる日銀短観の力のほどはいかに。

最も重要な経済指標の影響力とは

株価が変動する要因の一つに「経済指標」というものがあります。そして、数ある経済指標の中でも、最も重要な経済指標といわれているのが、日銀短観です。

一般的に「日銀短観の内容がいいと、株価も上がる」といわれているのですが、果たして本当なのでしょうか? 過去5回の日銀短観の発表が本当に株価に影響したのかどうかを検証してみたいと思います。

そもそも日銀短観って何?

日銀短観とは、統計法に基づき日本銀行が行う統計調査のこと。正式名称を「全国企業短期経済観測調査」、通称・短観(たんかん)といいます。

全国に企業動向について正確に把握することで、金融政策の適切な運営に資することを目的とされ、年に4回(3月、6月、9月、12月)に実施されます。具体的には全国27業種の約21万社の中から、1万社に対して調査票を送り、景気に対する見方などを質問することで調査を行っています。

調査票の回収率が毎回100%に近いことや、企業経営者の最新の判断が調査に反映されることから、数ある経済指標の中でも最も注目度が高いのが特長です

なかでも注目される「業況判断指数」

日銀短観ではさまざまなデータが発表されますが、そのなかでも注目されるのが「業況判断指数DI)」と呼ばれるものです。これは景気の判断指数の一つで、「景気が良い」と判断している企業の割合から、「景気が悪い」と感じている企業の割合を引いた数値のこと。

なかでも、在庫の影響を受けやすい製造業の景況感が景気の影響を受けやすい傾向にあることから、「大企業・製造業」の業況判断指数が特に注目されます。

この指数の数値は、回答が「景気が良い」だけなら100に、「良い」と「悪い」が同数なら0となるので、数値がプラスなら景気が上向いている、マイナスなら景気は下向きと判断することができます。また、前回のデータと比較することで、景況感がどのように変化しているのかも把握できます。

一般的に、「日銀短観の内容がいいと好影響を受けて株価が上がる」といわれていますが、それも基本的には、この「大企業・製造業の業況判断指数」の数値の良し悪しを指しています。

発表時刻が朝8時50分である理由

ちなみに、日銀短観が発表される時刻は、毎回、朝8時50分と決まっています。その理由は、株式市場が開く9時前に発表することで、当日の取引に反映させたいという狙いがあるためです。

そのため、短観発表当日の株価の動きが特に注目されることになります。

本当に株価に影響するのかを検証

さあ、ここでいよいよ本題に入ります。短観の内容(大企業・製造業の業況判断指数)がいい場合、本当に株価は上がるのか? 最近5回の短観の発表内容と、その後の日経平均株価の動きを見てみましょう。

・2018年4月2日発表

2018年4月2日に発表された同年3月の短観では、大企業・製造業の業況判断指数が「プラス24」となりました。数値がプラスということは、つまり、景況感が良いと判断している企業のほうが多いということになります。

しかし、これの前回(2017年12月調査)が「プラス26」だったので、前回比ではマイナス2ポイントの悪化。しかも、悪化となるのが8四半期ぶりということでしたから、判断としては「それほど良くはない」ともいえます。

しかし、日経平均株価を見てみると、発表当日の4月2日には少し値を下げたものの、4月末に向けて徐々に株価が上昇していることがわかります。

・2018年7月2日発表

2018年7月2日発表の同年6月の短観では、大企業・製造業の業況判断指数は「プラス21」。前回の「プラス24」からさらにマイナス3ポイントの悪化で、2四半期連続での前回比マイナスとなっていますので、「前より悪くなっている」のは明らかです。

また、日本経済新聞が運営する日経QUICKが予想した「プラス22」という数値をも下回っており、株式市場では売りが先行。当日の日経平均株価は、始値22,233円からスタートして終値が21,811円、約422円の大幅下落となりました。

その後、7月5日には21,462円にまで下落しましたが、そこから反発し、7月18日には高値で22,949円を付けるまで上昇することになります。

・2018年10月1日発表

2018年10月1日発表の同年9月の短観では、大企業・製造業の業況判断指数は「プラス19」となりました。前回の「プラス21」らマイナス2ポイントとなり、実に、3四半期連続の悪化となってしまいました。

3四半期連続の悪化というのは、2007年12月調査から2009年3月調査までの6四半期連続以来の悪化で、およそ10年ぶりのこと。「悪化が継続している」ので、投資判断にとっては決していい材料とはいえない状況となりました。

そんな短観を受けての日経平均株価は、発表当日の10月1日は約72円の上昇で取引を終了しています。しかしながら、翌10月2日からは反発し、10月26日には一時21,000円を割り込むところまで下落することになります。

・2018年12月14日発表

2018年12月14日発表の同年12月の短観では、大企業・製造業の業況判断指数は「プラス19」でした。前回調査時と同じ数値で、横ばいという結果。これまで悪化し続けてきたことから考えると、景況感が少し改善しつつあると、見ることもできるでしょう。

では、日経平均株価はどうだったかというと、当日の取引は約264円の下落で終了。しかも、その後も下落を続け、12月25日にはついに20,000円を割り込んでしまうのでした。

・2019年4月1日発表

2019年4月1日発表の同年3月の短観では、大企業・製造業の業況判断指数は「プラス12」。前回調査から比較してマイナス7ポイントと大幅な下落となり、2四半期ぶりに悪化するという結果となりました。

2018年最後の短観で横ばいとなった業況判断指数ですが、平成最後の今回調査ではマイナス7ポイントとなりましたので、「良くない」と判断するのが自然といえます。

ところが日経平均株価は、4月1日当日こそ小幅な値動きを見せたものの、その後は徐々に上昇。4月17日の終値で22,277円となっているので、1日の終値21,509円から約768円も上昇したことになります。

(Chart by TradingView

絶対ではないが不変なもの

過去5回の日銀短観と株価の変動について検証してみた結果、「短観の内容が必ずしも株価に影響するわけではない」ということがわかりました。

あまり良くなくても株価が上昇する場合もあれば、業況判断指数が横ばいとなり悪化が止まっても、株価が落ち込んでいくケースもありました。また、発表当日の株式市場の反応もさまざまで、短観の印象がそのまま影響しているともいえません。

つまり、「株価に影響する場合もあれば、影響しない場合もある」ということで間違いないといえるでしょう。これは、株式市場における普遍で不変の真理といえます。

このように、過去のチャートを見ればわかることがあります。日銀短観が重要な経済指標であることは間違いありませんが、それを過信してしまうのは危険です。それよりも、自分でしっかり調べたうえで、慎重に投資判断を下すことのほうが大切ではないでしょうか。

[執筆者]山本将弘
山本将弘
[やまもと・まさひろ]フリーランスライター。マーケティング、金融、就職・転職、スポーツ、インテリア、ペットなど、幅広いジャンルの記事を執筆。それぞれテーマに対して、できるだけわかりやすく解説することをモットーとしている。株に関しては、将来の備えとリスクヘッジのために、セブンポケットを目指して奮闘中。
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