中東情勢の悪化が金融市場に与える影響を考える 今回も「遠くの戦争は買い」なのか?
10月7日、パレスチナ自治区のガザ地区を支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに対してロケット弾で攻撃を行いました。イスラエル軍は報復としてガザ地区を空爆し、ネタニヤフ首相は「戦争状態にある」と述べました。
今回の両者の衝突は、金融市場にどんな影響を与えるのでしょうか。その背景とともに考えます。
第4次中東戦争から50年
中東の対立の根源は「パレスチナ問題」です。パレスチナは地中海に面し、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であるエルサレムがあります。第2次世界大戦後、ユダヤ人の移住によりイスラエルが建国され、アラブ側はこれに反対しました。その後、4度の中東戦争が勃発しました。
イスラエルとアラブ側の組織であるパレスチナ解放機構(PLO)は、1993年にオスロ合意を結び、一定の地域でアラブ系パレスチナ人による自治を認めることが約束されました。翌年、ガザ地区とヨルダン川西岸地区がパレスチナ自治区として設立され、パレスチナ自治政府が誕生しました。
しかし、2007年にハマスがガザ地区を武力制圧したことで、パレスチナはヨルダン川西岸地区とガザ地区に分断されました。ハマスはイスラエル打倒とパレスチナでのイスラム国家樹立を目指しています。イスラエルはガザ地区に対して軍事封鎖を続けており、オスロ合意は事実上崩壊しました。
なお、ハマスがイスラエルに攻撃を行ったのは、第4次中東戦争勃発から50年の節目の日でした。この攻撃は、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化を阻止する狙いもあると言われています。
金が買われ、株は下落
ハマスのイスラエル攻撃により、世界の金融市場が不安定になっています。この状況において注目されているのは、金(ゴールド)や原油などの安全な投資先です。株式市場は現時点ではまだ冷静ですが、今後の展開が世界経済に与える影響が心配されています。
金は、戦争などの「有事」に強く反応する資産として知られています。
今回の事態を受けて金の価格が上昇し、国際価格は10月20日に1トロイオンス=2009.2ドルと、2000ドルを超える水準に達しました。需要の高まりで、2020年8月につけた2089.2ドルの最高値に迫っているのです。また、日本国内の金小売価格も最高値を更新しています。
金は希少性が高く価値があるため「安全資産」として認識され、市場心理の悪化時には逃避先として選ばれることが多くなります。2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にも、やはり金の価格が急上昇しました。
アメリカの「悪い金利高」
さらに、アメリカでは財政拡大に対する不安が広がっています。
米財務省によると国の債務は33兆ドルを超え、過去最大となりました。債務上限の引き上げに伴って国債の発行が急増し、債券市場の需給バランスが悪化しています。さらに、財政問題をめぐる議会の混乱も起きています。10年国債の利回りは一時5%台まで上昇し、16年ぶりの高水準を記録しました。
これにより、「悪い金利高」と呼ばれる財政悪化の懸念が浮上しています。
金は金利がつかないため、通常は金利が上昇する状況では下落しやすくなります。しかし、現状の国債利回りの上昇は国の財政不安などがその背景にあるため、株式や社債・国債とは違って発行体の信用リスクといったものが関係しない金への買いが増えているのです。
また石油危機が起きるのか
1973年の第4次中東戦争では石油危機が起こり、産油国の供給が減少して、価格が急騰しました。そして、高インフレと金融引き締めで世界経済と株式市場は大きな打撃を受けました。
しかし、今回はそれとは異なる状況です。世界の原油の供給構造は、アメリカの生産増加によって大きく変化しました。さらに、すでに大幅な利上げが行われているため、原油価格が急騰してもリスク資産への影響は限定的と考えられます。
遠くの戦争は買い?
「遠くの戦争は買い」という相場格言があります。地政学的リスクにより一時的に株価が下落するものの、買い場になることが多いからです。
2003年3月のイラク戦争では、軍需産業が盛んなアメリカではダウ平均株価が上昇しました。
日経平均株価は同年4月に7607円のバブル後最安値をつけたものの、その後は上昇に転じました。そして、「いざなみ景気」と呼ばれる景気拡大期に入り、リーマンショックが起こる2008年まで株価は上昇傾向となったのです。
今回の中東での衝突についても、金融市場への直接的な影響はあまり大きくないと見られています。マーケット関係者がそれよりも意識しているのは、アメリカや日本の長期金利の動向です。インフレによる長期金利の高止まりが継続するのかどうかが、今後の方向性を形成する焦点となりそうです。