日経平均株価5万円突破はバブルか、通過点か? それとも、新たな始まりのサインなのか?

Roxana / AdobeStock
それは到達点ではなく「始まりのサイン」かもしれません。
日経平均株価が、ついに「夢の5万円台」に到達しました。証券会社のロビーではくす玉が割れ、長年日本株市場を見つめてきた関係者の間にも、驚きと深い感慨が入り混じる空気が流れていた様子。
筆者も思わず「ワォ!」と声を上げながら、モニターの株価ボードを凝視しました。けれども同時に「ここから先は未知の世界だな」と興奮と冷静さが混じる不思議な身震いがしたものです。
長年相場を追ってきた投資家であれば、きっと同じように感じたはず。「何がこの上昇を支えているのか」「ここから先は割高ではないのか?」「もしや再び“バブル”なのか?」──
3万円から5万円まで一気に駆け上がった2年半を振り返りながら、今後この相場をどう見ていけばよいのかを考えます。
前代未聞の上昇相場を支えたものは?
まずは今回の急伸を後押しした短期的な背景を整理しましょう。
- 生成AIブームによるAI関連株の上昇
- 日中貿易摩擦の回避で広がった安心感
- 新総理誕生による投資家心理の変化
最大の要因はやはりAI関連株の上昇です。アメリカでの生成AIブームが日本株にも波及し、半導体・電子部品・光通信など、AIインフラを支える企業が物色されました。
米エヌビディア<NVDA>やアドバンスト・マイクロ・デバイセス<AMD>、アルファベット<GOOG>などの株価急伸も投資マインドを刺激して、日経平均株価を押し上げる原動力となりました。
次に、日中の貿易摩擦の一時的な回避も市場を支えました。希少資源(レアアース)をめぐる対立が先送りとなったことで素材やハイテク関連株への売り圧力が後退し、市場に安心感が広がったのです。
加えて、高市新総理の誕生が投資家心理を明るくした側面もあります。「成長戦略を重視するリーダー」誕生という印象が外国人投資家のリスク許容度を高め、国内外の投資資金を呼び込んだのでした。

- 2023/5/17:3万円台を回復(2021年9月以来。同年2月に30年ぶりの3万円)
- 2024/3/4:初めて4万円に到達
- 2025/6/27:4万円台を回復
- 2025/10/27:夢の5万円台に突入
〈参考記事〉バブルを生きた元証券ウーマンが振り返る、日経平均株価の30年(2021年4月15日掲載)
3万円からの道程で積み上げた「信頼」
思い返せば、日経平均株価が再び3万円台を回復したのは、2023年5月のこと。当時、「日本株はまだ割安」という空気感が漂っていました。
企業業績の回復に加えて、東京証券取引所が資本コストや株価を意識した経営を上場会社に即したことが大きな転換点となりました。ガバナンス改革を契機にROEが改善し、自社株買いも積極的に行われ、その結果、海外の長期資金が再び日本市場に戻り始めたのです。
日本製鉄<5401>によるUSスチールの買収をはじめとするM&Aが積極化したことも、日本株に対する信頼を高めました。
初めて4万円台に到達した頃には、AIや半導体といった明確な成長テーマが浮上。米テック企業の成長に連動して、日本の部品・素材・製造技術が再評価されていきました。
特に、AI向け電力需要の拡大を背景にデータセンターの新設が相次ぎ、電線・電子部品・通信インフラといった、かつては地味とされていた産業が脚光を浴びるようになったのは象徴的です。
そして、夢の5万円へ。いま、日本はデフレの国ではなく「成長ストーリー」を語れる国として再評価されようとしているのかもしれません。
〈参考記事〉日経平均株価は4万円のオアシスへ。個人投資家が絶望からつかんだ教訓とは(2024年5月23日掲載)
5万円の立役者・アドバンテストの軌跡
4万円を回復してから5万円への上昇は、わずか約3か月の快進撃でした。その怒濤の展開の中で最も印象的だった銘柄のひとつは、アドバンテスト<6857>です。半導体試験装置の世界大手メーカーで、生成AI需要の拡大を背景に業績が急回復しています。
アドバンテストは筆者にとっても思い出深い銘柄です。株式投資を始めた頃、毎日のようにそのチャートを手書きしていたほど。個人的にも、日本株市場を語る上で絶対に外せない銘柄なのです。

夏、米ハイテク株安の余波を受けて下落
あれは8月の初旬でした。アメリカの7月の雇用統計に大幅な下方修正が発表されたことをきっかけにリスク回避ムードが高まり、エヌビディアやAMDの株価が急落。半導体への関税問題も重なり、SOX指数(フィラデルフィア半導体指数)も下落しました。
その流れを受けて、日本の半導体製造装置株──アドバンテスト、東京エレクトロン<8035>、ディスコ<6146>など──も軒並み下落する事態となりました。
日経平均株価は4万円の大台から陥落するかどうかの瀬戸際。アドバンテストも、第1四半期決算は上方修正ながら市場の期待を下回ったことに加え、東京エレクトロンの下方修正が追い討ちをかける形となって、11000円台から9700円台まで下落したのです。
「絶対に割安だ」と思いつつも、当時はアメリカのハイテク株安の影響で確信が持てなかった……そんな投資家も多かったはずです。
その一方でTOPIXは、建設株や不動産株、内需関連株が牽引して最高値を更新。市場の底堅さを印象づける動きでしたが、5万円突破のためには、やはりアドバンテストをはじめとする主力株の復活が不可欠でした。
力強い決算で日経平均を押し上げ
転機となったのが、8月28日のエヌビディア決算です。ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)が「2030年までにAIインフラ投資は3兆〜4兆ドルに達する」と語ったことで、9月に入るとAI関連株が一斉に息を吹き返します。
SOX指数が急伸し、グローバル半導体株が買い戻される中、アドバンテストも25日線を力強く上抜け、強烈な上昇ステージに突入。
そして迎えた10月28日の中間決算。売上高は前年比60%増、営業利益は2.5倍。さらに、今期の営業利益予想を63.9%上方修正し、1800万株の自社株買いを発表します。まさに「利益で語る」力強い決算でした。
翌29日、株価は22%も急騰して22,120円をつけました。これにより、たった1社で日経平均株価を1000円押し上げるという偉業を成し遂げ、日本株市場に鮮明な印象を刻んだのです。
日経平均株価5万円は割高なのか?
「前代未聞の上昇相場」「わずか3か月での快進撃」といった言葉で表現されるのが、現在の日本株市場です。では、5万円の日経平均株価は割高なのでしょうか?
現在の日経平均株価の予想PERは18〜19倍です。過去10年の平均(約15倍)は上回っているものの、バブル期の70〜80倍という異常な過熱感と比べれば、それほどでないことがわかります。将来の成長をある程度まで織り込んだ上での評価と考えれば、今の水準は「妥当圏内」と言えそうです。
アメリカの大手テック企業のPERも20〜30倍のレンジが中心です。パランティア<PLTR>など一部にはAI特需で高いPERを維持する銘柄もありますが、全体としては、業績に裏打ちされた上昇と言えるでしょう。
今後の相場展開と警戒すべきリスク
今後の焦点は、中間決算以降のEPS(1株あたりの利益)の推移です。現時点ではトランプ関税によるコスト増で今期は減益予想が優勢ですが、2026年にかけては関税の影響が緩和され、再び増益基調に転じるとの見方が強まっています。
続々と発表されている2026年3月期の中間決算では輸出関連を中心に減益が見込まれているものの、期初の保守的な見通しや為替の円安進行を踏まえると、例年よりも上方修正が増える可能性が高いのではないでしょうか。
決算発表が進むにつれてEPSが上昇(=PERは低下)すれば、53000円を日経平均株価の次のターゲットとする声も市場では増えていきます。つまり、現在はまだ通過点の可能性が高い、というわけです。
一方で、警戒すべきリスクもあります。まず、AI関連の過熱感が剥落してしまえば、短期的な調整は避けられません。また、アメリカの景気見通しの悪化や、日米の中央銀行による金融政策の動向、為替相場の急変動にも引き続き注意が必要です。
とはいえ、日本株の構造的な上昇トレンドを崩す要因までには至らないのではないか……筆者はそんなふうに見ています。
5万円は新たな物語の始まり
4月の暴落時には誰が「年内に日経平均株価は5万円になる」などと予想したでしょう(トランプ大統領は確かに「今が最高の買い時だ!」と豪語していましたが)。
政治も経済も大いに揺れた2025年。それでも日本株市場は歩みを止めませんでした。くす玉が割れた瞬間に感じたあの身震いは、新しい物語の幕開けを告げる予感だったのかもしれません。
そして、市場は私たちに問いかけています。「次の高みを見にいく覚悟はありますか?」と。













