日経平均株価の4万円突破で、日本株はどこへ向かうのか? 鍵を握るのは…

山下耕太郎
2024年3月29日 15時00分
鍵を持って見つめる子供

《バブル期の記録を抜いて、ついに史上最高値を更新した日経平均株価。長年相場を見つめてきた人々は、いま何を思うのか。それぞれが見つめる、日経平均株価の未踏の地──【特集・日経平均株価、次のステージへ】》

日経平均株価は4万円の世界へ

2024年2月22日、日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新しました。企業の収益力向上やデフレ脱却への期待感などを背景に海外からの資金が流入し、1989年12月29日のバブル期に記録した最高値(38,915円)を超え、初めて39,000円台を記録しました。

さらに、3月4日には4万円の大台に乗せました。3月22日には41,000円台をつける場面もあり、今年に入ってからのの上昇率は20%を超えています。

なかでも、AI関連の東京エレクトロン<8035>、アドバンテスト<6857>、ソフトバンクグループ<9984>の株価が大きく上昇し、日経平均株価の伸びに大きく寄与しています。3社は「エヌビディア3兄弟」とも称され、米半導体大手エヌビディア<NVDA>やAI関連のニュースに敏感に反応しています。

実際、日経平均株価が高値を更新するきっかけとなったのは、2月21日に発表されたエヌビディアの決算です。2023年11月〜2024年1月期決算は、純利益が前年同期比8.7倍の122億8500万ドル、売上高は3.7倍の221億300万ドルとなり、ともに過去最高を記録しました。

これは、生成AI向け半導体の需要増加によるものです。特に、データセンター部門の売上高は前年同期比5倍の184億400万ドルとなっており、生成AIの「学習」や「推論」に使う画像処理半導体(GPU)の需要拡大が業績を牽引しました。

さらに、2〜4月期の売上高見通しも、市場予想を上回る240億ドル前後と発表。これらの好決算と予想を受けて、エヌビディア株は時間外取引で10%程度もの上昇を見せたのです。市場の心理も上向きで、AIなど新規分野への投資から見られる成長ストーリーに期待が寄せられています。

日経平均株価が上昇している理由

日経平均株価が大きく上昇しているのは、企業の製品やサービスの価格上昇が受け入れられ、業績が好調な企業が増えているからです。内需は、経済活動の再開や訪日外国人客の需要により堅調です。上場企業の手元資金は100兆円規模に達し、春闘では大幅な賃金上昇も決定されました。

こうしたことが、現在の株高を支えています。

また、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の改革に注目する投資家が増え、地政学的な理由で、中国から日本への投資も増えています。その結果、東京市場の時価総額は上海市場を抜き、3年半ぶりにアジア首位に返り咲きました。

さらに国内では、新たな少額投資非課税制度(NISA)が始まり、家計からの投資も株価を押し上げています。

日本の個人金融資産は1989年度の980兆円から、現在では2000兆円と2倍に拡大しましたが、その内訳はほとんど変わっていません。半分近くが現預金で、株式や投資信託などの比率は20%前後にとどまり、アメリカの50%近い比率と比べて大きな差があります。

長年にわたり、「貯蓄から投資へ」という政策が推進されてきましたが、家計の投資行動は大きく変わっていません。これは、物価上昇や金利がほぼゼロで、経済成長もわずかであること、企業が内向きな自衛策を取っていることなどが背景にありました。

しかし、最近では家計の投資行動に変化の兆しが見られ、海外投資家も日本の家計が投資に目覚める展開を期待し始めています。特に、今年からスタートした新NISAは、「日本買い」のひとつの要因といえるでしょう。これらの動きは、日本の家計の投資の「伸びしろ」を示していると考えられます。

日本がトルコになる…?

ただ、現在の株価は「半導体バブル」とか「官製バブル」だとの見方もあります。

半導体のサイクルは底入れした段階ですが、株価は何年も先の回復をすでに織り込んでいます。また、AI向け半導体需要の恩恵を受ける銘柄であるアドバンテストでも今期は減益予想で、韓国のサムスン電子は半導体部門が大幅な赤字です。

また、これまでは日銀の緩和的な金融政策にも後押しされていましたが、マイナス金利解除による政策の転換は、円安・株高の流れを反転させる可能性があります。

ただその一方で、もし今後、金利が上昇する中にあっても円安とインフレが進行していくような場合には、日本がトルコやアルゼンチンのような状況になる可能性もあるので、注意が必要です。

トルコとアルゼンチンの経済は、高インフレと通貨の暴落に見舞われています。トルコの場合は、エルドアン大統領が景気刺激策を優先して金融引き締めのタイミングを逸した結果であり、アルゼンチンは度重なるデフォルトと通貨安が原因です。

ところが、両国の株式市場はこの間に急騰し、インフレを大きく上回るパフォーマンスを示しています。特に2021年末以降、トルコの株価はインフレ調整後でも約1.6倍になっています。アルゼンチンでも約2.0倍の上昇です。

国内経済は悪化しているにもかかわらず、トルコとアルゼンチンでは、株価指数が抜群のパフォーマンスとなっているのです。

今後も注目はやはり日銀

日本のデフレ脱却と企業の資本効率改善が進むと、日本の株価は長期的に上昇し、日経平均株価は上昇を続ける可能性があります。しかし、金利上昇によって財政が悪化し、円安とインフレが連鎖するリスクも想定しておく必要があります。

円が安くなると、輸入品の価格が上昇し、それがインフレ(物価上昇)を引き起こす可能性があります。また、インフレが進むと、一般的には通貨の価値が下落し、これがさらなるインフレを引き起こします。円安とインフレの悪循環による「ハイパーインフレ」です。

日銀は、3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決定しました。そして、マイナス0.1%だった政策金利を0〜0.1%程度に引き上げています。実に17年ぶりの利上げです。

今後もゼロ近辺の低金利が続くと見込まれてはいますが、もし日銀が2%の物価目標の達成を宣言するなら、中立的な政策金利の水準は2%を上回るはずであり、ゼロ近辺の金利では説明に矛盾が生じます。早期の追加利上げがあるのか……この先も日銀の政策に注目です。


【特集・日経平均株価、次のステージへ】

[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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