割安株は本当にお得なのか? PERで選んだ銘柄から見えてくる意外な事実

山本 勧
2019年10月21日 8時00分

ひと目で割安株を見つけるPER

株の世界では一般的に、割安株に投資をするほうが儲かる可能性が高い、といわれます。そのために使われるのが、対象となる銘柄が割安なのか割高なのかを知る指標のひとつ、「PER」です。

PER(Price Earnings Ratio)とは株価収益率のことで、株価が1株当たり利益の何倍にあたるかを示します。一般に、PERの数値が大きければ割高、数字が小さければ割安とされ、割安株を見つけるのに有効な手段といわれています。

このPERは、「今の利益を毎年出し続けたとして、投資資金(=現在の株価)を回収するのに何年かかるか」をはかる指標で、過去・現在・未来にわたって割安性を調べる指標としても活用されています。

【PERの算出方法】
  • 時価総額÷純利益
  • 株価÷1株当たり利益(EPS)

注意したいのは、PERには明確な判断基準がないことです。「15〜20倍が適正水準」といわれることもありますが、業種によって平均値が異なり、成長が期待される業界では数値が高くなる傾向もあります。そのため、PERを参考に銘柄を選定する際は、同業他社と比較することが大切になってきます。

ちなみに、世界的な大富豪であり、「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏も、PERを銘柄選定基準のひとつにしているといわれています。

PERどおりにはいかない現実

PERは、投資する銘柄を決める上で、ひとつの判断材料となるものです。しかし実際には、それが利益につながる場合もあれば、PERの数値から想定される値動きとはまったく違う展開になって損をすることもあります。

・三東工業社<1788>の場合

滋賀県の建設会社でジャスダックに上場している三東工業社<1788>は、2016年6月1日時点の株価が1,240円で、1株当たり利益は93.9円、よってPERは13.2倍でした。ジャスダック上場銘柄の平均PERは15倍程度といわれているので、割安株と判断できます。

その後、株価は上昇し、2018年6月1日時点で株価は2,800円、PERも26.1倍まで上がり、割高株の仲間入りを果たしました。2016年6月時点でPERを参考に購入していれば、2018年6月には株価が2倍以上となり、大きな利益を得ることができたでしょう。PERの数字どおりに株価が推移した好例といえます。

(Chart by TradingView

・エヌ・ピー・シー<6255>の場合

すべての割安株が順調に成長してくれればいいのですが、PERでは割安だったとしても、さらに株価が下がってしまうことも当然あり得ます。その具体例が、太陽電池製造装置などを手がける工作機械メーカー、エヌ・ピー・シー<6255>です。

2015年8月の同社の株価は223円、1株当たり利益は25.5円で、PERは8.74倍という割安株でした。ところが、1年後の2016年8月には、株価は157円まで下落します。業績悪化で1株当たり利益も−5.6円となり、計算上のPERは−28倍(実質的には0倍)。

しかし株価はその後に回復し、2018年8月には343円まで上昇します。PERも18.4倍となり、割高株に変貌。つまり、PERが8.74倍の時点で購入して2018年まで保有し続けていれば利益となっていましたが、−28倍になったとき耐えられずに売却していれば損失になっていた、というわけです。

(Chart by TradingView

・任天堂<7974>の場合

割安株に人気が集まる一方で、割高株は一般的に、それだけ注目している人が多いと考えられ、暴落する可能性があるとされています。しかし、PERの数値だけで判断すると利益をつかみ損ねることもあります。PERが全く当てはまらなかった例として任天堂<7974>をご紹介します。

2015年1月5日時点の同社の株価は11,430円、PER32.33倍という、れっきとした割高株でした。ところが、翌年2016年3月1日には株価16,000円、PER116倍まで上昇。さらに2019年8月1日には40,290円をつけ、上昇を続けました。

(Chart by TradingView

このように、PERでは割高とする数値が出ているにもかかわらず、さらに株価が伸び続けることはあります。割高だからといって端から手を出さないと決めるよりも、将来的に成長を見込めるのであれば前向きに検討したほうが、うまく利益につながることもあるのです。

利益を逃さないPERの活用法

PERは、どんな銘柄でも簡単に割安・割高をはかる指標として活用できます。ただし、その数値を見ただけで利益につなげられるとは限らないのが、株の難しいところです。PERだけで選択肢から外すと、利益を逃すこともあるでしょう。

PERはあくまで、「その時点」における会社の将来性を見た場合の指標です。銘柄を取り巻く環境や市場の動向によっては、想定外の方向に大きく変動することも考えられます。

もちろん、PERが便利な指標であることは確かです。ですが、それだけに頼るのではなく、参考数値として活用しつつも、企業の将来性や成長の見込みを含めたあらゆる面を予測し、さまざまな角度から購入を検討する姿勢が大切になるでしょう。

[執筆者]山本 勧
山本 勧
[やまもと・すすむ]不動産投資会社、会計事務所を経て独立。ファイナンシャル・プランナーとして、単にプランを作るだけでなく、具体的にどう生活すればいいかといったアドバイスを積極的に行う。個人投資家としては、生活を豊かにするため投資を実践。「お金がお金を生むシステム」をいかに早く作るかが生活を楽にする一番の近道と考え、余剰資金は基本的に投資に回している。ファイナンシャル・プランナー(AFP)、宅地建物取引主任士。ホームページ:てんせんまる
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