ランダム・ウォーク理論は本当に正しいのか?
《株式市場には様々な理論やトレンドがあるだけに、何を信じればいいのか迷うこともあるでしょう。株価チャートを使って相場を分析・予測する「テクニカル分析」は有名な手法ですが、なかにはこれを否定する説もあります。株式市場での勝率を上げるために、知っておきたい理論を検証します》
ランダム・ウォーク理論とは?
株の値動きにまつわる理論の一つにランダム・ウォーク理論があります。ランダム・ウォーク理論とは一言で言うと、「相場の上げ下げは予測不可能であり、その動きに決まった法則はない」という理論です。
この理論では、企業の本質的価値を評価し、将来の価格に影響を与える可能性がある要因を分析するファンダメンタルズ分析や、過去の値動きをチャートで表して、そこからトレンドやパターンを把握するテクニカル分析を否定しています。
一生懸命これらの分析理論を勉強した上で、このように否定されては、やる気がなくなってしまうかもしれません。しかし、有名な投資家も賛同するほど、株式相場では重要な理論です。
ランダム・ウォーク理論では、株価の動きは、長期でも短期でも、上昇か下降か両方の可能性があり、過去のトレンドやデータによって将来の値動きを予測することは不可能と言っています。
ある銘柄の明日の値動きは、上がる確率も下がる確率も両方とも50%であり、どちらに動くかは誰にも予想できない、とこの理論では考えられているのです。
ランダム・ウォーク理論の3段階
ランダム・ウォーク理論はウィーク型、セミストロング型、ストロング型の3段階に分類されます。
- ウィーク型:過去の株価を分析しても意味がない、つまり、チャート分析・テクニカル分析をしても意味がない
- セミストロング型:市場で付けられている株価には、株の財務分析に関する情報はすでに織り込まれているので、ファンダメンタルズ分析も意味がない
- ストロング型:未公表の情報もすでに株価には反映されていて、インサイダー情報すら意味がない
これら3つを合わせた「株価の動きは予測不可能であり、専門家でも素人でも結果は同じ」というのが、ランダム・ウォーク理論の考え方です。
有名なたとえ話「猿のダーツ投げ」
ランダム・ウォーク理論を説明する上で有名なたとえが「猿のダーツ投げ」です。猿に新聞の相場欄を目がけてダーツを投げさせ、その銘柄をポートフォリオに組み込んだものと、専門家が選んだポートフォリオでは、さほど運用益に大差がなかった、と説明しています。
また、売買のタイミングでさえ、ダーツ投げで決定しても運用益に大差がないことを説明しています。
ランダム・ウォーク理論への反論
このランダム・ウォーク理論が正しいとなると、誰も投資をしなくなるかもしれません。株式市場の未来が誰にも予測できず、勝つか負けるかは50%の確率。ましてや、猿のダーツ投げのほうが人間の心理が影響されない分、確率が高い可能性があるとなれば、猿を飼う人が増えるかもしれません。
実際のところは、どうなのでしょうか。
・反論1:インサイダー取引が法律で禁止されている事実
前述したようにランダム・ウォーク理論のストロング型では、インサイダー情報であっても株価には影響がないと言われています。
しかし、本当にインサイダー情報が無意味であれば、インサイダー取引は法律で禁止されません。誰かが不公平に利益をあげることができるからこそ、インサイダー取引は禁止されているのです。
インサイダー取引が禁止されている理由は、バイオ株で考えるとわかりやすいでしょう。ガンや脳梗塞、糖尿病など現代人を悩ます薬の開発をしている会社が、治験や薬の実験に成功すれば、一気に株価は上がります。
この機密情報(インサイダー情報)を先に仕入れることが合法であれば、内部の人間に大金を渡してでも情報を知ろうとする人が出てくるでしょう。結果、その人物は大きな利益をあげることができます。これが、インサイダー取引が法律で禁止されている理由です。
・反論2:長年にわたり株式投資で勝ち続けている人がいる事実
さらに、ランダム・ウォーク理論が絶対的に正しいとなれば、投資で勝ち続けている人がいる理由を説明できません。有名な投資家が長年勝ち続けている理由としては様々なことが考えられますが、ランダム・ウォーク理論が絶対とすれば、このような人は生まれないでしょう。
実際、世界的に有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏は、ランダム・ウォーク理論について反論しています。なぜなら、バフェット氏は60年以上にわたって投資で成功しているからです。
バフェット氏の反論理由はいろいろありますが、猿のダーツ投げについては、「多くの猿がダーツを投げれば、1匹くらいは続けて成功する猿が出てきてもおかしくない。その猿が、同じ森の出身であればどうであろうか?」としています。
つまり、すべてがランダムに決まるのなら、成功した猿のすむ森はあちこちに散らばっているはずだが、そうでないのであれば、その成功には何らかの理由があるはずだ……というわけです。
「同じ森の出身」とは、バフェット氏が提唱するバリュー投資を実践する投資家のことを言います。バフェット氏もバリュー投資を実践する投資家の1人です。
バリュー投資ならランダム・ウォーク理論に勝てる?
バフェット氏が実践するバリュー投資は、企業の適正価格(本来の価格)よりも割安の株価の時に購入し、長期保有する投資手法です。
60年以上も投資で成功し続けているバフェット氏が提唱している方法なら、ほかの人でも成功できる可能性が高いと思うかもしれませんが、企業の適正価格に絶対はありません。その価格が割安かどうかの判断は非常に難しく、あとからであれば何とでも言えるのですが、なかなか判断できないのです。
ちなみに、その価格が割安かどうかの判断指標としてPERとPBRがあります。PERは、株価を1株あたりの収益で割り、倍率で数値化することで算出されます。数字が低ければ割安、高ければ割高です。
PBRは、会社の純資産(資産から借金などの負債を引いた数字)と比べて、株価が割安かどうかを算出します。PBRでは、株価を1株あたりの純資産で割ることで算出され、数字が低いほど割安となります。
しかし、これらの数字も完全ではありません。あくまでも指標であり、たとえPERが高く割高の数字が出ても、その会社に成長性があれば割安と言えてしまうのがその理由です。
逆もまた然りです。PERが低くて一見割安の会社でも、成長性がなく、不安材料があれば、たとえ割安でも買わない方がいいときもあります。
結局、ランダム・ウォーク理論は正しいのか?
PERもPBRも相場を予測する一つの指標に過ぎないと言うと、まるでランダム・ウォーク理論が正しく、投資の判断は猿にさせたほうがいいという結論になってしまいますが、そうとも言い切れません。なぜなら、ウォーレン・バフェット氏のように株式市場で60年以上も勝ち続ける投資家は確かに存在するからです。
また、ランダム・ウォーク理論に打ち勝つ対策として、損切りも大切です。投資結果は誰にも予測できないものだとしても、株価は上がるか下がるか、2分の1の確率であることに変わりはありません。自分の投資判断が間違ったと思った時の損切りのスピードが、相場で勝ち続ける重要な要素と言えます。
ランダム・ウォーク理論を思い出したい場面
株式相場に「絶対」はありません。しかし、過去のチャートを読んでテクニカル分析をしたり、トレンドを学ぶために情報収集したりして株を勉強すればするほど、「絶対に勝てる」と思えるパターンが出てくるかもしれません。そういう時こそ、ランダム・ウォーク理論を思い出す場面です。
相場の変動は予測できず、株の運用は専門家も初心者も猿でさえも、誰がやっても結果は同じという研究結果があったことを思い直し、改めて、自分の手法や考え方が正しいかどうかを検討する機会にしてみてはいかがでしょうか。