株価急上昇する銘柄に焦ったときこそ思い出したい、もうひとつのROE

石津大希
2019年7月2日 8時00分

株価が急上昇しているチャートを見かけると、誰だって「買ったほうがいいかな?」と思うものです。しばらく様子を見て、悩んだ末にえいっと購入! すると、途端に下落……。誰もが通る道ですが、便利な「お役立ちアイテム」を持っていれば、もう悩まずに済むかもしれません。

好決算で「買い」が続くメニコン

角膜コンタクトレンズメーカーのメニコン<7780>の評価が株式市場で上がっている。同社は5月14日、2019年3月期の業績実績と2020年3月期通期の業績見通しを発表した。

前期の連結営業利益は前期比27%増の56億円で、新製品の販売や中国向けの輸出増加が寄与した。今期の営業利益予想は前期比17%増の65億円。使い捨てコンタクト製造工場の生産能力拡充などを進め、引き続き売上高を伸ばす計画だ。

こうした増益着地・増益見通しが好感され、決算発表翌日の株価は終値ベースで9%近く上昇。

米中貿易摩擦の懸念が強まるなどして海外のリスク要因が意識される中、国内事業が稼ぎ頭のメニコンは、リスク回避という側面からも魅力的な銘柄であり、その後も買われることで5月29日には一時3,760円を付けて上場来高値を更新した。

(Chart by TradingView

買うか、買うまいか──遅れて買う者の悩み

こういった「明確な材料(今回の場合は決算)」をきっかけに買いが続いている場合、さらにその後も買いを誘発するケースがしばしばある。

遅れて株を買う投資家の心理としては、

「期待だけではない実績の伴った上昇だし、急に売られることはないだろう」
「トレンドフォロー(株価の動きに従ってポジションを取る手法)という言葉もあるくらいだし、買うのが正解だろう」
「同じように考える投資家は多いだろうから、今のうちに買って、あとで売ってキャピタルゲインを得よう」

といったところだろう。買おうか買うまいか悩んでいる間に、昨日も上昇、今日も上昇……という値動きにあおられて、「明日も上がるはず」と踏んで買いを決断する投資家も少なくないと思われる。

しかし、心のどこかで「いつまでも買いが続くわけはない」という意識もあり、不安感をぬぐいきれずに買っているケースもまた少なくないように思う。そして実際、自分が買った後で株価が急に下落し、痛い目を見た人もいるだろう。

アプローチを変えて評価する

決算発表直後のメニコンのように、買いがしばらく続いている期間にその株を買うか否かを判断するうえで有効な基準を持っておくと、パフォーマンスの改善や、あるいは安心感へとつながりやすくなる。

株式益回りは「時価ベースのROE」

そのひとつの有効な基準として、バリュエーション指標のひとつである「株式益回り」をご紹介したい。分子に今期1株当たり予想純利益、分母に株価を持ってきた指標だ。

  • 株式益利回り(%)=1株当たり純利益÷株価×100

「今この株を買ったら、今期純利益から何%のリターンが得られそうか?」ということを測れる指標である。投資家が今買ったとしたら……という視点があるために「時価ベースのROE」ともいわれ、マイナーながら機関投資家などがよく使う指標だ

(ROEは自己資本利益率。当期純利益÷自己資本、または、1株当たり利益÷1株当たり純資産)

メニコンは本当に「買い」なのか?

試しに、メニコンの7月1日終値(3,565円)と、2020年3月期の1株当たり予想純利益(116.12円)で計算してみると、株式益利回りは約3%となる。東証1部上場企業の株式益利回りは、平均で7%前後という数値がひとつの目安になっている。

ビジネスモデルのリスクに応じて各企業の適正水準は変動するが、それでもメニコンの3%はかなり低い印象だ。つまり、こういった状況下では、「メニコンに投資するのは割に合わない」との見方から株価を下方に調整する圧力が強まる可能性は高いとも考えられるのだ。

メニコンのように買いが続いている銘柄を見ると、どうしても株価チャートに目が行きがちだ。しかし、アプローチを変えて別の視点で評価してみることは、はやる気持ちを抑えて冷静に判断するうえで有効な手段となる。

アナリストのひとり言

連日買われている
上場来高値を更新した

といった足元の強い動きに関する情報(広義のテクニカル情報)がきっかけで、ある銘柄に検討意識が向いたとしても、ファンダメンタルズ情報の確認・検証をせずに投資判断を下すことは、まず考えられない(短期売買を除く)。

確かに、連日上昇が続いていれば「買ってもいいかも」と思うことはなくはないが、そう考えて失敗した例が歴史上数多くあることも知っている。だからこそ、「昨日の勝者は今日の敗者(=昨日の値上がり株は今日の値下がり株)」という相場の教訓ができたともいえる。

もちろん、たとえ株式益回りが低かったとしても、トレンドフォロー的に考える投資家が相対的に多かったり、短期的値幅を狙うトレードが活発であったりすれば、上昇が続くケースはある。しかし、「いつまでも買いが続くわけはない」という懸念が消えることはなく、遅かれ早かれ下落に転じる場面が訪れる。

株式益回りなどの指標は、「いくらまでなら買えるか?」「いくらになったら手を引くべきか?」という考え方のベースになるものであり、根拠が背景にある分、安心感にもつながる。

アナリストとしては、投資家に納得してもらうための客観的な共通言語として使うことが多く、また、投資収益をもたらす武器として使うこともある。何か強い動きを見せる銘柄を見て買おうか買うまいか悩んだ際には、ひとつの判断基準として参考にしてもらえればと思う。

[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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