「メジャーSQ」で株価が上昇? 現物株への影響も理解する
《6月になり、日経平均株価は23,000円を回復するまでの展開を見せています。コロナ禍からの経済活動再開に対する期待が高まっていることが主な背景ですが、上昇スピードが速いことに戸惑っている投資家も多いのではないでしょうか。この裏には「SQ」に向けた動きもあるようです》
株価に影響を与える「SQ」とは
現物株式は、買った株が値上がりしても値下がりしても、好きなだけ持ち続けることができます。しかし、先物やオプションは現物株式と違って、売買できる期間が決まっています。そのため、一度買ったら(あるいは売ったら)、決められた期限までに売る(買い戻す)必要があるのです。
この満期月のことを「限月(げんげつ)」といい、満期日のことを「SQ日」と呼びます。SQは「Special Quotation」の略で、日本語では「特別清算指数」といいます。先物やオプションでは、各限月の第2金曜日がSQ日、SQ日の前営業日が最終売買日となります。
〈参考記事〉いまさら聞けない「先物取引」 先物主導でマーケットが動くとはどういうことか
「メジャーSQ」と「ミニSQ」の違い
日経平均株価の先物である日経225先物には、「ラージ」と「ミニ」の2種類があります。ラージは、最低取引単位の1枚を取引にするのに99万円の資金(証拠金)が必要になります(2020年6月5日時点)。かなり大きな資金が必要になるので初心者には向かず、どちらかといえば証券会社や機関投資家など大口投資家を中心とした市場です。
そこで、初心者や個人投資家が気軽に参加できるようにと2006年7月からスタートしたのが、ラージの10分の1の証拠金(99,000円)で始められる「日経225ミニ」です。
これに対して日経225オプションは、日経225先物の保険のような存在です。これを買った場合の損失は資金の範囲内で済み、利益に上限はありません。一方、オプションを売った場合は保険の売り手となるため利益は限定され、万が一の事故や事件が起きたときには損失が無限大になります。
日経225ミニと日経225オプションには毎月SQ日がありますが、日経225ラージのSQ日は3月、6月、9月、12月の第2金曜日のみです。そこで、3・6・9・12月はSQ日を「メジャーSQ」と呼び、それ以外の月のSQ日を「ミニSQ」と呼んでいるのです。
メジャーSQに向けて進む動き
特にメジャーSQ週は、株式相場が荒れると言われています。
先物やオプションを買っている(売っている)投資家は「メジャーSQ」に向けてポジションの決済を迫られます。そのため、メジャーSQ前に何らかの要因で株価が変動した場合、ポジションを一気に解消する動きが出て、株価の変動率が大きくなる傾向にあるのです。
コロナショックを受けて大きく値下がりしていた日経225先物は、2020年6月5日の夜間取引で23,310円まで上昇。3月17日の安値15,860円から7,450円も上昇しました。日銀がETFの購入目標額を倍増したことや、政府が経済対策を行ったことを好感した買いが入ったのです。
加えて、緊急事態宣言が解除されて経済活動が再開していることへの期待も背景にありますが、それよりも株価を大きく上昇させたのは、コロナ相場の二番底を想定して先物の売りポジションを取っていたヘッジファンドなどが、6月12日のメジャーSQに向けて買い戻しを行ったためだと考えられます。
SQが現物株に与える影響
「現物株しか売買しないから、先物やオプションのSQは関係ない」と考えてしまいがちですが、そうとも言い切れません。上のようなSQに向けた動きは、現物株の株価にも小さくない影響を与えるからです。
機関投資家は、日経225先物と日経平均株価の構成銘柄で「裁定取引」を活発に行っています。
日経225先物の理論価格は、日経平均株価に採用されている225銘柄から算出されています。ただ、先物は需給だけで価格が動くので、短期的に理論株価より割高になったり割安になったりします。そこで、相場下落局面で先物が理論株価より割安になったら、先物を買うと同時に構成銘柄を売れば、無リスクで収益を得ることが可能になります。
〈参考記事〉「先物主導で日経平均が上昇」とは? 裁定取引が市場に与える影響を知る
しかし、先物には期日があるので、どこかのタイミングで反対売買を行い、裁定取引を解消する必要があります。反対売買とは、当初約束した取引と反対の取引を行なうことで、買った銘柄を売る、あるいは売った銘柄を買うことをいいます。
これを最も簡単にできるのが、先物の清算日であるSQ日なのです。
SQでは、指数構成銘柄の寄付価格(最初に取引された価格)が計算に用いられます。そのため、裁定取引で先物買い・現物売りのポジションを持っていたら、SQ当日の朝に現物株をすべて買い戻せばいいことになります(先物は自動で決済されます)。
裁定取引のポジションがどれくらいあるかは、JPXのホームページで確認することができます。
5月25~29日の売買状況を見ると、裁定売り残(先物買い+現物売り)は2兆4,254億円。日経225先物が2020年の高値をつけた1月17日の週は9,253億円でしたので、その2倍以上になっています。一方、裁定買い残(先物売り+現物買い)は4,984億円しかありません。
このように裁定売り残が大量に残っていると、その決済のための現物株の買い戻しによって、SQ日に向けて相場が上昇する要因となります。要するに、さらに相場が悪化するという考えのもとに大量の売りポジションがあったことが、一時的な株価急上昇を生む、ということになるのです。
アメリカ市場のSQにも注意
アメリカ市場でも先物は活発に売買されています。ダウ先物のSQ日は、3・6・9・12月の最終売買日の翌営業日(通常は、各限月の第3金曜日の翌週第1営業日)です。2020年6月のSQ日は22日。
ダウ先物も3月23日の18,086ドルから6月5日の27,325ドルまで9,239ドルも上昇。売り方の買い戻しが活発化していると考えられます。
日本の6月のSQ日は第2金曜日ですが、その翌週の第3金曜日がダウ先物の最終営業日なので、アメリカ市場ではそれまで買い戻しが続く可能性もあります。つまり、それによってダウ平均株価が上昇を続け、それが日本市場にも影響を及ぼす可能性もあるということです。
アフターコロナを生き抜くために
現物株と異なり、先物やオプションは必ず期日までに決済しなければいけません。そのことが、SQ日に向けて値動きを大きくさせる要因となります。そして、先物と現物株では裁定取引が行われているので、現物株の株価にも影響を与え、現物株しか売買しない個人投資家にも影響するわけです。
また、SQ日を過ぎるとポジションが解消され、短期的な相場の転換点になることもあるので注意が必要です。
たとえ自分は先物取引をしていなくても、株式市場というひとつの巨大なフィールドの中にいることには変わりありません。こうした動きがあることを理解したうえで、現在の値動きの背景にあるものを見極めようとする姿勢が、初心者や個人投資家が相場を渡り歩いていく基礎体力となるでしょう。