幸先の良い日本株を牽引しているのはどんな銘柄? じわり新高値のアノ業種にも注目【1月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》
1月の株式市場は、年初から海外投資家などの日本株買いが本格化し、日経平均株価が一時37000円を試す場面がある、非常に強い展開が続きました。半導体の市況回復期待や東証のPBR(株価純資産倍率)の是正への取り組みなども評価され、大型株を中心に買いが先行しました。
新NISA(少額投資非課税制度)もスタートし、高配当利回り銘柄などを中心に個人投資家の新規資金も株式市場に流入しています。日経平均株価は前月末に比べて2822円高と、大幅に反発する幸先の良い展開となりました。
こうした中で、高値を更新して相場の牽引役となったのは、どのような銘柄だったのでしょうか? 2024年相場の最初の月に高値更新をした銘柄の共通点を探りながら、あわせて、新安値をつけた銘柄についても取り上げ、相場の空気を読み解いていきます。
・高値更新とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
海運株がそろって新高値
1月相場を業種別で見てみると、海運株の上昇が顕著だったことがわかります。
中東の紅海でイエメンの親イラン武装組織フーシ派による商船への攻撃でコンテナ船などによる混乱が長引いています。海運各社は南アフリカの喜望峰経由での遠回りを余儀なくされており、コンテナ船の運賃の上昇が続き、海運各社の業績を押し上げる……との期待が株価の追い風になっています。
日本郵船<9101>、商船三井<9104>、川崎汽船<9107>など海運大手3社は2023年12月に騰勢を強め、1月17日にそろって新高値を付けました。日本郵船と川崎汽船は上場来高値、商船三井は昨年来高値を更新しました。
もともと海運株は市況産業であることから、業績の変動が大きいためPBRなどの投資指標が低くなっていたことも、買いに拍車をかけました。
大相場への期待で証券株に資金流入
日経平均株価は1月23日の取引時間中に36984円をつけ、37000円まであと一歩と迫りました。今年中にバブル期の高値の38915円を更新するとの強気な見方も増えています。
こうした中で出遅れていた証券株が軒並み新高値となっています。新NISAのスタートによる個人投資家のすそ野の広がりも、期待される理由の一つです。
業界最大手の野村ホールディングス<8604>は、29日に昨年来高値770円を付けました。大手の大和証券グループ本社<8601>も25日に昨年来高値です。ネット証券最大手のSBIホールディングス<8473>は23日に昨年来高値3647円を付けました。
特にSBIは直近で配当利回りが4%を超えており、高配当株を好む個人投資家による新NISA経由での買い注文が増えています。
日銀の金融政策決定会合と不動産株
1月22~23日にかけては日銀の金融政策決定会合が開催され、1月の株式相場の一つのポイントとなりました。
2024年は金融政策の正常化に向けたマイナス金利解除の時期などが注目されています。しかし元日に発生した能登半島地震への影響も考慮し、1月会合では特に政策の変更などはないと予想されていました。実際、23日昼間の政策決定会合の結果発表前には、思惑的な買いで不動産株が買われました。
不動産など借り入れの多い業種は、金利上昇による影響が大きい反面、当面は日銀の大規模緩和政策が続くとの見方が買いを誘いました。23日に大手の三井不動産<8801>は3883円の昨年来高値を更新。住友不動産<8830>や東京建物<8804>も同じく昨年来高値です。
また、日本エスコン<8892>やサンフロンティア不動産<8934>など中小型の不動産株も23日に高値更新となりました。
ただその後、23日大引け後の日銀の植田総裁の記者会見の内容が、市場が予想したよりも金融政策の正常化に前向きであると判断され、翌24日は債券市場で金利が上昇。これを受けて不動産株には利益確定売りが先行しました。
今後も日銀の金融政策決定会合の前後では、銀行株や不動産株などの金利敏感株を巡るトレードは続きそうです。次回の日銀会合は3月は18~19日、4月は25~26日。特に4月の会合が焦点になりそうです。
じわり高値更新の倉庫株
東証の低PBR企業に対する改善勧告やバリュー株(割安株)物色の流れで、実は、倉庫株も高値更新が相次いでいます。
倉庫各社は物資の保管だけでなく、物流を手がける企業が多く、土地や不動産の保有が多く、含み資産に対する期待も買い材料のひとつです。また、前述の不動産株のような低金利環境への思惑もプラスに作用しています。
倉庫大手の三菱倉庫<9301>は15日に昨年来高値4713円を付けました。バブル期の1989年12月の上場来高値4800円の更新が視野に入ってきています。同業の住友倉庫<9303>と三井倉庫ホールディングス<9302>も同様に23日に昨年来高値をともに更新しています。
外食の一角も新高値
相場活況の中で、ディフェンシブの外食や食品株の一角も買われています。値上げによる売上高の増加や海外部門が伸びている銘柄などが評価されています。
17日に松屋フーズホールディングス<9887>は6340円の昨年来高値を更新しました。1999年の上場来高値の6408円まであとわずかです。直近の2023年12月の既存店売上高は前年同月比19%増と好調が続いています。客数、客単価がともに9%増でした。
同じく17日には中華チェーンの王将フードサービス<9936>が上場来高値を更新。ハンバーガーのモスフードサービス<8153>、回転寿司のカッパ・クリエイト<7421>がともに昨年来高値を上回りました。
1月の新安値銘柄は?
羽田空港などを運営する日本空港ビルデング<9706>は29日に昨年来安値5795円を付けました。インバウンド(訪日外国人)による空港施設の利用客数は伸びているものの、中国人の旅行者数がコロナ禍前に比べて低迷が続いています。
また、2023年8月に当時の昨年来高値7488円を付けたのちは株価が低迷。信用取引の期日である6か月が迫る中で、信用取引の買い方が見切り売りを出していると思われる株価推移です。
エアコン大手の富士通ゼネラル<6755>は26日に昨年末安値2054円を付けました。欧州などで景気の低迷や原材料価格の高騰が続き、エアコンの在庫がはけずに市況が悪化します。北米や中東向けも伸び悩んでおり、25日に今期2024年3月期の業績予想を下方修正し、売られる展開となりました。
ゴルフの専門サイトを運営するゴルフダイジェスト・オンライン<3319>も2023年の高値2250円から下落トレンドが続き、18日に昨年末安値605円を付け、株価は3分の1まで売られました。
コロナ禍で伸びていたゴルフブームが一巡、景気停滞やインフレでゴルフ用品の販売が落ち込んでいることも背景となっています。
資金の回転がいい地合い
2024年の1月相場も、様々な銘柄が個々の材料で売り買いされ、意外な銘柄が新高値・新安値となっています。大型株を中心に好業績の銘柄などが幅広く買われて、相場の強さを示す一方、出遅れの中小型株の中でも見直し買いが向かうなど、資金の回転がよい地合いとなっています。
日経平均株価が史上最高値を目指す中、どんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。