一流の投資家が、相場が悪いときにこそ株式を買う本当の意味

朋川雅紀
2022年2月25日 17時30分

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

株で儲ける人・損する人

株で損する人(二流の投資家)は、相場が悪いときに株式の比率を減らし、相場が良いときに株式の比率を増やします。株価が上がれば楽観的になり、株価が下がれば悲観的になるからです。

恥ずかしながら、昔の自分は、まさにこのようなことをしていました。相場が良いときには、含み益があるから少しくらい損しても大丈夫と新たに買いを入れ、その後、相場が転換点を迎えてもそれに気がつかず、何もできないまま含み損を抱えてしまい、最終的には損切りをしていました。

一方、株で儲けられる人(一流の投資家)は、まさにこの反対のことをしています。相場が悪いときに株式の比率を増やし、相場が良いときに株式の比率を減らすのです。

ただ現実的には、投資経験が浅い人にとって、相場が悪いときに株式の比率を増やすことは、とても勇気が要ります。どういうタイミングで売買を行うかの判断もできないでしょう。そこで私がお勧めしたいのは、総資産に対して「株式の比率を一定に保つ」という考えです。

感情ではなくルールで動く

人間は非常に愚かな動物です。ついつい目先の動きに翻弄されがちで、買った銘柄が上がれば「もっと買っておけばよかった」と思うし、売った銘柄が上がれば「売らなければよかった」と思います。

「感情をコントロールしろ!」と言っても所詮は無理です。そんなことはできません。上昇相場と判断すると、自分のリスク許容度を超えて株を買ってしまい、下落相場の最終局面では、株式とは縁を切るように必要以上に株を売ってしまい、次の上昇相場に乗り遅れてしまいます。

感情をコントロールするのが難しいのであれば、感情に左右されない「ルール」を持つべきです。そんなルールのひとつが「株式の比率を一定に保つ」ことです。

私は、1990年代後半にインターネット関連株に集中投資し、ひどい目に遭いました。その教訓を活かし、今では通常の場合(市場が極端に悲観や楽観に傾かない限り)、大きく株の比率を変えることはしません。

もちろん、株価が大きく下げて、市場のセンチメントが極端に悲観に傾けば、株式の保有比率を大きく引き上げまし、株価サイクルが成熟局面を迎えて、市場のセンチメントが極端に楽観に傾けば、株式の保有比率を大きく引き下げますが、この方法にチャレンジできるのは経験を積んだ上級者だけです。

株式の比率を一定に保つ

それでは、株式の比率を一定に保つ方法について、例をもとに説明しましょう。 

【例1】株式の比率を一定にした場合

1000万円の資金があったとします。株式60%、債券・現金等(安全資産)40%の資産配分として、当初は600万円を株に投資します。つまり、株式が600万円、債券・現金等が400万円でのスタートです。

  • 株式600万円+債券等400万円=計1000万円

時間が経過して、株が30%上昇しました(債券の価値は変わらないと仮定)。現在の資産配分は次のようになっています。

  • 株式780万円(600×1.3)+債券等400万円=計1180万円

ここで「株式60%、債券等40%」の配分に戻すためには、株式を72万円分売って、債券を72万円分買うことになります(〔1180万円×60%〕-780万円=72万円)。取引後は次のようになります。

  • 株式708万円+債券等472万円=計1180万円

さて、その後、株が30%下落したとします(債券の価値は変わらないと仮定)。すると、資産配分は次のようになります。

  • 株式496万円(708×0.7)+債券等472万円=計968万円

ここでも株式の比率を一定に保つために、「株式60%、債券等40%」の配分に戻します。それには、株式を85万円分買って、債券を85万円分売ることになります(〔968万円×60%〕-496万円=85万円)。取引後は次のようになります。

  • 株式581万円+債券等387万円=計968万円

さらに、その後、再び株が30%上昇したとします(債券の価値は変わらないと仮定)。すると…

  • 株式755万円(581×1.3)+債券等387万円=計1142万円

「株式60%、債券等40%」の配分に戻すには、株式を70万円分売って、債券を70万円分買うことになります(〔1142万円×60%〕-755万円=70万円)。

  • 株式685万円+債券等457万円=計1142万円

1000万円が1142万円になりました。+14.2%の運用結果です。

【例2】何も売買をしなかった場合

例1と同じく、1000万円の資金があったとします。株式は600万円、債券等は400万円でのスタートです。時間の経過とともに、株が30%上昇し、その後、株が30%下落し、再び、株が30%上昇したとします。この場合、次のようになります。

  • 株式710万円(600×1.3×0.7×1.3)+債券等400万円=計1110万円

1000万円が1110万円になりました。+11%の運用結果です。

一本調子の相場では注意が必要

このように、株の比率を一定に保った場合とそうでない場合とではリターンに「3.2%」の差が出ました。

ただし、一本調子の上げ相場や下げ相場では、この方法はあまりうまくいきません。一本調子の上げ相場では、「売らずにずっと持ち続ける」という戦略が「株式の比率を一定に保つ」戦略より高いパフォーマンスになります。とはいえ、儲けが減る程度ですので、それほど深刻なものではありません。

一方、一本調子の下げ相場では、「株式の比率を一定に保つ」戦略は買い下がることを意味します。つまり、含み損がどんどん拡大してしまうのです。

「株式の比率を一定に保つ」戦略において、一本調子の下げが起こることが最大の懸念です。バブル崩壊後の日本株のような何年も下げ続ける相場展開のときに、下がっては買い、下がっては買いを繰り返していたら、大きな痛手を負っていたでしょう。

ただし、バブル崩壊後の日本株はかなり特殊な状況でしたので、あれは例外と考えたほうがよいと思います。あのように長期間にわたって株価が下がり続けることは普通では考えにくいです。さらに、日本だけでなく世界中のマーケットが何年も下げ続ける確率となると、かなり低いと思います。

株価の下落も恐るるに足らず

「乱高下を繰り返しながら、上昇トレンドを描く」のが通常の株価のパターンですので、私自身は「株式の比率を一定に保つ」戦略はかなり有効な方法だと思っています。

適切に分散されたポートフォリオであれば、株の比率を一定にすることで、株価が下落しても上昇しても、どちらの局面であっても対応はできます。上昇トレンドではなく、仮に横ばいトレンドだとしても、株価が上下に変動すれば資産は増加します。

投資家にとっては、株が上がってもハッピー、下がってもハッピーです。株が下がったときには安く買うことができ、株が上がったときには高く売ることができるからです。これもう、「いつ株が下がるか」といつもビクビクすることもなくなるでしょう。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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