一流の投資家は「確率」で考える 不確実な投資の世界で勝ち続けるために必要なこと
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一流の投資家は「確率」で考える
「確率で考える」とはどういう意味なのでしょうか。また、それが投資家として成功を収めるために、なぜ必要なのでしょうか。
プロのギャンブラーや経験豊富な投資家は、「自分に勝算があり、それを裏付ける十分な標本(サンプル)がある場合、確率的結果を生む事象は一貫した成果につながる」ということを理解しています。
カジノの世界
プロのギャンブラーは、確率の本質を理解しています。「ひとつひとつのプレーは統計的に他のプレーとは独立している」ということです。
つまり、個々のプレーというのは一個の事象であって、その結果は前回のプレーや次回のプレーの影響を受けません。個々のプレーに注目すれば、勝ち負けの分布はランダムで予測不能です。
しかしながら、そのプレーの回数が増えて一定数に達すれば、そこから現れるパターンは一貫し、予測可能な統計的に信頼に足る結果として現れるのです。
勝てる思考を支える2つの視点
確率的考え方を難しくしているのは、対立する2つの視点が同時に存在していることにあります。
ひとつ目はミクロ・レベルの視点です。このレベルでは、個々のプレーの結果の不確実性を認めなければなりません。
常に多くの不確実性が個々のプレーに一貫して影響を与えています。例えば、他のプレイヤーが自分の手をどう判断しているかなどは前もってわかりません。つまり、1回のプレーの結果に影響を与える全ての要素を事前に知ることはできないですし、自分でコントロールもできないのです。
そのため、どの1回のプレーの結果も、他のプレーとの関連が予測できないランダムなもの(統計的に独立したもの)となります。
もうひとつはマクロ・レベルの視点になります。このレベルでは、プレーの一連の結果は予想できるものであると信じなければなりません。たとえ1回のプレーの勝ち負けが前もってわからなくても、十分なプレーをこなせば、「優位性」を持った人の成績は負けよりも勝ちが増えてくることが次第に明らかになってきます。
ミクロ・レベルでゲームの不確実性を認めつつ、同時に、マクロ・レベルでゲームの予見性を信じることになるのです。
プロのギャンブラーは、自分の優位性を十分に生かして、自分たちを成功に導いています。また、各プレーの不確実性に対する理解は、各プレーの結果を予測しようとする無駄な努力を排除してくれます。次に何が起こるかわからないという事実を認識し、そのことを完全に受け止めることができるからです。
次に何が起こるかを知る必要がなければ、個々のプレーに特別な思いを投入する必要はありません。
したがって、非現実的な期待を抱かなくて済みますし、自分がいつも勝たなければならないというプレッシャーに悩まされることもありません。常に楽な気持ちを維持できるため、集中力を高められ、つまらないミスを減らすことが出来るようになります。
自分の優位性が十分あり、十分に大きな標本があれば、最終的には勝つことがわかっているからです。
不確実な投資の世界で勝つ方法
一流の投資家は、プロのギャンブラーと同じような思考回路を持っています。
投資家は皆、1回の取引の結果に影響する既知のものと未知のものに向き合っています。高い投資スキル(優位性)を持っている投資家であれば、幸運や不運は誰にでも平等であることを踏まえると、十分な取引回数が存在すれば結果を出すことができます。
多様性の確保
不確実な投資の世界では、予測できないことに対応しなければならず、多様な対応手段を事前に準備していることが望まれます。
また、原因と結果が簡単に結びつかないなど、何が正しいやり方なのかが明白ではないことがあることから、様々な観点からの考察が必要になり、時には視点を変えてトライアル・アンド・エラーをしていかなくてはなりません。
結果が出ない時の対応
不確実性のもとでは、不本意な結果から完全に身を守ることはできません。そのことを受け入れなければ、恐怖や不安で体が動かなくなり、何かにチャレンジすることができず、成長の機会を失ってしまうことになります。
少なくとも不確実性に起因する負けは許容し、負けを恐れずにチャレンジすることを忘れてはなりません。また、小さな負けは大きな負けを防ぐために活用されるべきものであることから、小さな負けをたくさんすることを奨励すべきではないでしょうか。
長期的な視点
確率が明白に現れるのは、十分なサンプルが手に入る場合においてです。
人は運や偶然をコントロールできません。したがって、不確実性の中でできるベストのことは、良い結果が生まれる確率の高いやり方を実行し続けることです。一時的な成功の多くは偶然に左右されますが、長期的な成功は偶然ではなく必然(投資スキル)によってもたらされます。
仮説・検証型アプローチによる予測
市場予測は、将来を正確に見通すためのものというよりも、予期できない出来事に機動的に対応したり、環境の変化に適応していったりするためのものに使うべきものです。
そのためには、仮説を立て、複数のシナリオ(メイン・シナリオやリスク・シナリオ)を作成し、それをデータによって検証していくというプロセスを継続的に行なう、仮説・検証型アプローチが必要になります。
確率論的な株式投資
株式市場では、全てではないにしても、「偶然」によって株価が動くことが多くあります。また、株価の動きを正確に予測することはできませんし、「こうすれば必ず儲かる」などという必勝法も存在しません。
株式市場で偶然に頼らずに利益をあげるには、できるだけ「正しい確率」を認識することが大切です。利益があがる確率が高い取引だけを積み重ねていくしかありません。そのためには、正しい判断を長い期間にわたって積み重ねていく努力が必要です。
自分自身で考え、自分に合った納得したやり方を見つけないと、いざという時に応用が効かなくなります。
負けをマーケットや他人のせいにするのではなく、全ての結果の責任は自分に帰属するということを自覚し、経験を積み重ね、マーケットを深く理解し、自分なりの投資哲学を確立した投資家だけが、確率の高い株式投資を実践できるようになるのです。