勝てない投資家の落とし穴がここにも… マーケットにおける「原因と結果」を考える

朋川雅紀
2023年4月11日 10時00分

Elnur / Adobe Stock

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マーケットにおける原因と結果

ある現象が起きた原因がわからないと、気持ち悪さを感じてしまうものです。どうやら私たちは、原因と結果を結び付けようとする習性を持っているようです。したがって、結果に対して原因を作り上げてしまうことがあるとしても、驚くには値しません。

長い歴史を通じて、私たち人間は原因のよくわからない現象に困惑させられてきました。私たちの祖先が、現在では原因が解明されている病気、落雷、火山の爆発といった現象を説明するために、超自然的な説明を作り上げたとしても、決して不思議なことではありません。

人を悩ます「複雑系」

今日、私たちは多くのシステムを理解することができますが、いまだに、大規模で相互に結びいたシステム、いわゆる「複雑系(コンプレックス・システム)」に悩まされています。

複雑系は、そこに含まれている異質な構成要素をひとつひとつ分析しても、全体の性質や特徴を理解することはできません。また、複雑系は線型ではありませんので、部分を足しても全体として等しくなりません。つまり、「原因と結果」という文脈で考えると、納得のいく説明ができないのです。

こうしたシステムの代表例が、株式市場です。 

人を魅了する「原因と結果のバイアス」

マーケットにおける原因と結果が気になるのは、なぜでしょうか。おそらく、失敗に対する言い訳としての説明が必要なのでしょう。

投資家は、マーケットが変化する原因を突き止めようと思うあまり、間違った因果関係、つまり、間違った説明に不用意に囚われてしまいます。

しかしながら、マーケットで起きている大きな変化をいつも説明できるとは限らないのです。

詳細な分析を積み重ねることによって、過去も現在も、そして未来も解明できる、という考え方は、いまだに私たちを魅了し続けますが、それはまさに、「原因と結果のバイアス」が人間に影響を与えていることの証明に他なりません。

マーケットは「自己組織化臨界」

残念ながら、複雑系の世界では、単純な分析では説明が付きません。

そんな複雑系のことを指して「自己組織化臨界」と表現することがあります。「自己組織化」というのは、リーダーがいないことを意味します。つまり、数多くの個人の相互作用によって成り立っているシステム(組織)ということです。

そして「臨界」とは、非線形ということです。より具体的には、システムの中で生じたある動き(原因)の大きさが、それがもたらす結果と釣り合わないことを言います。小さな動きが大規模な結果をもたらすこともありますし、その逆もあるということです。

たとえば、ある新しい情報に対して、マーケットがほとんど反応しないときがあります。反対に、同じような情報であるのにもかかわらず、大きな価格変動が起きることもあります。あるいは、同じ情報であっても、マーケットの反応は真逆のものになることもあります。

原油価格が上昇したときにマーケットも上昇すると、原油価格の上昇は需要の強さの現れであり、強い景気が企業収益の上昇につながるため、株価の上昇を正当化します。

一方で、原油価格が上昇したときにマーケットが下落した場合も、原油価格の上昇は企業の製造コストを押し上げ、コスト増が企業収益の圧迫につながるので、これまた株価の下落を正当化します。

マーケットの解釈

私たちは、単純な因果関係が当てはまらないマーケットの動きに関しても、原因と結果の結びつきを求めようとする傾向が強いわけですが、そうした試みはたいてい、馬鹿げた結果論に終わることが多いのです。

大きな株価変動が起こった日に、マスコミがその原因として報じる情報の大半は、あまり的を射たものではありません。

その後の数日間の報道も、将来のキャッシュフロー(業績)と割引率(株価は、理論的には株式が生み出す将来のキャッシュフローの現在価値である)がなぜ変わったのかをきちんと説明できていません。

マスコミは何が何でも結果に対する原因を作り上げようとし、投資家もまた本能的な欲求を満足させるためにそれを鵜呑みにする、という構図が見て取れます。

投資家にとっての落とし穴

投資家は、マーケットの動きに対してなされる説明には十分に注意を払わなければなりません。市場の動きに対する説明を安易に求めようとする投資家は、2つの罠に陥りやすくなります。

  • 因果関係の強さを勘違いする罠
  • 「アンカリング」の罠

ひとつ目は、因果関係の強さを勘違いしてしまうという罠です。

ある出来事がマーケットの動きに関連することはあっても、その出来事で全てを説明できるわけではありません。身近な経済データを見つけて、それだけで因果関係を考えようとする投資家が、実は少なくないのです。

もうひとつは、アンカリングと呼ばれる現象です。

人間は、ある出来事を説明したり言い表したりするときに、最初に認識した数字や情報を重視するということが、多くの研究結果からわかっています。実際のマーケットでも、このアンカリングの影響を受けながら重大な意思決定を行っている投資家が存在します。

株式市場は、原因と結果を理解したいという人間の本能を十分に満足させてくれるような場所ではありません。

そうであれば、投資家は、誰かがマーケットの動きについてもっともらしい説明をしたとしても、それを話半分で受け流したほうがいいでしょう。最近観た映画に関する批評を雑誌で読むように、あまり真に受けないほうが賢明です。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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