ファンダメンタルズ分析の欠点を考える 本当に勝てる投資家は何をしているのか

朋川雅紀
2023年10月13日 9時00分

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《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

多くの投資家は、プロも含めて、ファンダメンタルズ分析を誤解しているのではないか、と感じています。どうしてそう感じるかを説明したいと思います。

ファンダメンタルズ分析とは

株式投資におけるファンダメンタルズ分析とは、雇用統計、消費者物価、鉱工業生産、小売売上高などのようなマクロ経済情報を分析して、景気が良いとか悪いとかの判断をし、そして、個別企業の業況を判断するために業績動向をフォローして、その企業の取り巻くビジネス環境を踏まえて投資対象になる得るかどうかを判断することです。

株価の動きを予測するためには、投資対象企業の将来の利益水準を予想すればいいことになります。そして、企業の将来の業績は、その企業自身の事業内容や収益力もさることながら、景気全般の動向にも大きく左右されます。

このような一般的な意味でのファンダメンタルズ分析から導かれるのは、誰にも理解が得られやすい情報です。しかしながら、それは市場が織り込みやすい情報でもあります。納得感が得られれば得られるほど、市場はそれらを簡単に織り込んでいきます。それが市場の基本的な性質だからです。

〈参考〉テクニカル分析は本当に“幻想”なのか? チャートを見る本当の意味を考える

ファンダメンタルズ重視の欠点

株式投資において、ファンダメンタルズ分析は重視されます。しかし、相場の予測という点においては、残念ながら、あまり役に立たないというのが実情です。というのも、多くの市場参加者が分析して理解している内容は、相場にすでに織り込まれているからです。

たとえば、ごくわずかではありますが、景気が底打ちする兆しが見え始めたとします。経験豊富な投資家は、景気は回復に向かうというシナリオに基づき、株を買い始めます。多少早すぎるかもしれませんが、もし間違っていたら、さらに下がったところで株を買い増せばいいだけ、と割り切っていることでしょう。

一方で、ファンダメンタルズ分析を重視する投資家は、分析結果からは景気の底打ちに確証が得られないため、まだ買いという判断には至りません。その後、景気の底打ちを示唆する情報が増えていくに従って、景気の回復は間違いないという判断に至る頃には、もう株価は相当上がっているはずです。

結局、オーソドックスなファンダメンタルズ分析を重視する投資家は、トレンドが転換してからだいぶ後になってようやく株を買う、というリスクを抱えることになります。

先回りしなければ相場の後追いになる

一般的に、機関投資家、つまり資産運用をビジネスとして行っている企業では、月に一度程度、社内で会議が開かれ、投資方針が議論されます。そこでは、ファンドマネージャーたちがファンダメンタルズ分析の結果を話し合い、景気や企業業績の動向などを議論します。

そして、景気や企業業績が好調という判断が出たら、株式投資へ積極的に取り組むという結論となります。つまり、ファンダメンタルズ分析の結果をもとに投資方針が決定されます。

しかしながら、株価というものは、“将来”の企業のキャッシュフローの現在価値です。「株式市場の動きはファンダメンタルズの動きに先行する」という特性を踏まえると、市場の先回りをしなければなりません。

月に一度ファンダメンタルズ分析の結果を確認したこところで、それは市場にとってすでに織り込まれた過去の話に過ぎず、あまり意味のあるものにはなりません。意味があるとすれば、ファンダメンタルズは好調だけれども、それはいつまで続くのか、変化の兆しはないのか、を議論することです。

もし、ファンダメンタルズ分析を重視して投資方針を決めるという常識的な考え方に従う会議参加者が多ければ、そこでの議論は「わずかな兆しを探そう」という方向には向かっていかないことになります。そうして、相場の後追いになってしまいます。

ファンダメンタルズ分析の望ましい姿

では、「ファンダメンタルズ分析の望ましい姿」とはどういうものか。それは、まだファンダメンタルズには明確に現れておらず、多くの投資家もまだ認識していない「市場の次の動き」について仮説を立て、その仮説に基づいて投資を行う、ということです。

具体的には、相場変動に結び付くわずかな兆しがないかを常にチェックし、可能性があれば投資を検討します。当然のことながら、その仮説が実現する可能性が高いものを選ばなければなりません。ファンダメンタルズ分析から大きくかけ離れた仮説では意味がありません。

つまり、投資におけるファンダメンタルズ分析とは、その分析結果に基づいて投資方針を決めるためのものではなく、今と異なる市場の動きが起きるかもしれないという仮説の妥当性を判断し、新たな出てきた情報をもとにその仮説を少しずつ検証していくためものなのです。

市場において投資家ができることは「可能性の分析」だけです。市場で好成績を残せる一部の投資家は、何か正しい答えを導き出す分析結果を待って行動を起こすようなことはしません。わずかなきっかけで市場心理が大きく変わりうるという可能性を見つけ出し、その可能性に賭けるのです。

言い換えれば、仮説とその修正を繰り返すだけです。でも、それこそが勝ち続けるために必要な姿勢です。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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