カリスマ投資家に学ぶ「勝てる投資」(1)ウォーレン・バフェットの投資手法

朋川雅紀
2023年1月24日 12時00分

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《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

バフェットの投資手法

「投資の神様」と言われているウォーレン・バフェットの投資手法を取り上げたいと思います。

バフェットは、企業のオーナーとしての視点を持ち、投資した企業の利益を保有株数に応じて自分自身の利益と見なします。配当として支払うか、内部留保として再投資するかは、利益をどう使うかという選択の問題にしか過ぎない、としています。

そんなバフェットの投資手法では、長期の複利効果のメリットを受けることができます。そのためには、今期や来期の業績動向も重要ですが、それよりも「今後10年にどれだけの利益を上げられるか」のほうがはるかに重要になります。コモディティ型企業ではなく消費者独占型企業を選び、あとは長期的な複利の効果に任せる、ということです

バフェットの投資手法の最大の特徴は、「悪材料で売る一般投資家やファンド・マネジャーの裏をかく戦法」と言えます。市場の短期指向と悪材料の組み合わせはむしろ“贈り物”というわけです。

・コモディティ型企業とは

他社との差別化ができない低付加価値の事業を行っている企業がコモディティ型企業です。顧客にとっては「価格」が唯一最大の選択基準となります。最も低い価格を提示できるところが多くの顧客を獲得できるため、低コストの企業だけが勝ち残れます。

代表的なビジネスは、航空会社、穀物、鉄鋼、石油・天然ガス、紙・パルプ、自動車などです。

コモディティ型企業には、低い売上高利益率と低い在庫回転率、低いROE(株主資本利益率)、低いブランド価値、多数の競争相手、強い労働組合、大幅な過剰生産能力、景気の影響を受けやすい利益水準、設備稼働率に大きく依存している利益体質などの特徴があります。

・消費者独占型企業とは

ブランド価値の高く、強い市場支配力を持っており、価格競争に巻き込まれにくい企業が消費者独占型企業です。

その会社の製品やサービスを使わざるを得ないような企業であり、業績のブレは小さく、短期的な逆風を乗り越えていく力があります。大きな資本を要する土地、工場、機械設備などへの依存もしていませんし、たとえ能力の劣る経営者の下でも、その市場支配力が損なわれることはあまりありません。 

バフェット流の銘柄選び

バフェットの投資手法では、以下のような基準で、投資対象となる企業を見つけます。

●消費者独占力を持つ(と思われる)製品・サービスがある

優れた製品やサービスの存在は重要な必要条件ではあっても、それだけで優良企業としては十分とは言えません。

●EPSが増加基調にある

株主価値がどれだけ増えるかは、その企業の1株あたり利益(EPS)がどれだけ成長するかにかかっています。EPSの成長のためには、利益の一部を内部留保し、より収益性の高い再投資を実践していかなくてはなりません。それを毎年繰り返すことによってEPSは成長し、やがてそれが株価に反映され、株主価値の増加が実現されます。

●多額の負債を抱えていない

多額の負債を抱えた余裕資金のない企業が不測事態に遭遇すると、自力で解決するのは難しくなります。

●ROEが十分高い

ROE(株主資本利益率)が高い高い企業ほど、株主に対して大きな富を創造しています。

●自社株買いができる

自社株の買い戻しは残った株主の将来の取り分を高めることになり、それを反映して株価は上昇します。

●インフレを価格に転嫁できる

コモディティ型企業の問題は、人件費や原材料費が上昇しても、過当競争の圧力にさらされてむしろ製品価格の引き下げに追い込まれる可能性があることです。それに対して消費者独占型企業の場合、インフレに合わせて製品の値上げをしても、それに伴う需要の減退を心配する必要がありません。

バフェット流の買い時

一般投資家は好材料が出ると買い、悪材料が出ると売るものです。しかし、割安な水準で買いたいのであれば、じっと悪材料を待つべきなのです。市場の誰もその銘柄に見向きしなくなったときこそ、投資を決断するチャンスです。

主に、次の4つの場面が株の買い時になり得ます。

●株式市場全体の水準訂正や暴落

株式市場が暴落するときは、個別企業の業績見通しとは無関係にほとんど全ての銘柄が下げます。とりわけ、相場の暴落と個別企業の悪材料が重なったときこそ、絶好の買い場になります。

●景気後退

不況になるとほとんどの企業の業績が悪化しますが、強い企業の立ち直りは早く、弱い企業は淘汰されてしまいます。保守的な財務政策を取り、不況に入る前に業績の良かった企業を選びます。

●個別企業の特殊要因

優良企業といえども愚かな行動に走り、大きな損失を出すことがあります。そうした場面では、株価は売り叩かれるものです。一時的な問題であれば、そこが絶好の買い場になります。

●企業の構造変化

合併、リストラ、組織再編などによって一時的な特別損失が発生し、株価に悪影響を及ぼすことがあります。それによって、絶好の投資機会が訪れます。一つの事業部門をスピンオフによって分離することが、株価にプラスの影響を及ぼすこともあります。

バフェット流の原則

改めて、どういう企業(ビジネス)に投資すればいいのかを整理すると、次のようになります。

  • シンプルで理解できる事業
  • 安定した事業実績
  • 長期的に明るい見通し

まず、自分が理解できる範囲で投資をします。あまりに複雑なビジネスには手を出してはいけません。

また、着実に実績を積んできた企業はある程度、信頼できます。難しい局面を迎えている企業を安く買うよりも、好調な企業を適切な価格で買うほうが、大きな利益を得る可能性が高くなります。

そして、社会で必要とされ、望まれる存在であること。その企業の代わりになるものを簡単に見つけられず、政府の規制がない分野にいることなどが重要です。

バフェットだけが“正解”ではない

長期的な視点に立って株式投資に取り組みたいなら、バフェットの投資手法を参考にしてみてはいかがでしょうか。

しかし、バフェット流が唯一絶対の手法ではありません。同じ長期投資でも、全く別のアプローチから銘柄を選び、利益を手にすることも可能です。

たとえば、ピーター・リンチ。バフェットと同様、長期投資を実践する上で是非知っておいてほしい投資家のひとりです。その最大の特徴は、低(無)成長業界の中から高成長企業を見出そうとすること、また、世間からあまり注目されない人気のない企業を好むということ。

次回は、そんなリンチ流の投資手法を詳しくご紹介します。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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