テクニカル分析は本当に“幻想”なのか? チャートを見る本当の意味を考える

朋川雅紀
2023年11月22日 9時00分

Kristallkugel mit Wirtschafts-Chart close up

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投資家にとって、テクニカル分析(チャート分析)は必要なのでしょうか? もし必要であれば、どうあるべきなのでしょうか。

テクニカル分析は必要か?

テクニカル分析を使うか使わないか、あるいはどの程度重きを置くかは、その投資家の投資スタイルに依存すると言えます。

ウォーレン・バフェットのように、企業の本源的な価値に着目して長期的な視点で投資を行う場合は、テクニカル分析はほとんど使われることはないでしょう。バフェットが、企業のアニュアル・レポートではなくチャートに没頭している姿は、ちょっと想像できません。

一方で、多少なりとも相場の流れや需給を読もうとする場合、テクニカル分析は重要な要素になるでしょう。私自身の経験からも、チャート分析をするようになって投資スキルが一段上がった、ということを実感しています。

テクニカル分析は、チャートを見る人次第で様々な解釈が可能になります。テクニカル分析は“幻想”だと主張する人の根拠は、ここにあります。

〈参考〉ファンダメンタルズ分析の欠点を考える 本当に勝てる投資家は何をしているのか

テクニカル分析の目的

テクニカル分析をする意義は何でしょうか。テクニカル分析には、将来を予測するという目的以外に別の目的があると考えます。

・市場動向の理解

まず1つ目は、市場動向の現状を把握することです。テクニカル分析によって将来の株価がわかる、というのは幻想かもしれませんが、過去の値動きを確認するという点では、テクニカル分析は極めて有効なものだと言えます。

“期待”のような捉えどころのないものでも、時にはチャート上にその痕跡を残すことがあります。市場のセンチメント(感情、情緒)の変化というものは、視覚的にチャート上にはっきり現れるものです。

たとえば、ある経済データの発表を境に、株価の動き方に大きな変化が現れたとします。市場はそのデータを重要視していて、株価の大きな動きからそのことが確認できます。このことから、チャート分析は将来の株価を予測するためというより、過去を分析するものと言えるでしょう。

・新しい投資アイデアの創出 

次に、チャート分析によって新しい投資アイデアを引き出すという目的もあります。

たとえば、チャート分析によって、ある変化の兆しが確認できたとします。その兆しが大きなトレンドの形成につながるかもしれないという仮説を立て、その仮説を検証するために、ファンダメンタルズ分析を再度行い、それが実現する可能性を精査するのです。

本当に大きな市場の動きは、世の中で騒がれる前に始まることがよくあります。もしチャート分析で市場の変化の兆しを確認できれば、まだ世の中では注目されていなくても、何か大きな動きが起き始めているのではないかと気づかせてくれます。

こうした兆しがいつも当たるわけではありませんが、少なくとも考えるきっかけにはなるはずです。

私自身は、毎日、主要な株式市場のチャートを見ています。そして、市場の動きからヒントを得て、世の中で普通に言われているファンダメンタルズの見方とは違う見方ができないかを考え、重点的にファンダメンタルズ分析を行うようにしています。

そうすることで、それまで気づかなかったことを見つけられることがあります。

・行動のチェック

最後は、自分の投資行動のチェックのためにチャート分析を行うという目的です。

実は、投資で本当に難しいのは、自分の感情をコントロールすることだと言えます。実際の投資においては、投資理論やチャート分析の知識を積み上げるよりも、自分の感情をコントロールすることのほうがはるかに重要かもしれません。

人間という生き物は、利益による満足感よりも、同じ額の損失による失望のほうがはるかに大きな影響を受けると言われています。自分の過ちを認めたくないですし、損失の確定することも嫌ですから、身の丈を超えるような多額の損失を被ってしまう例が後を絶ちません。

チャート分析を将来の株価予想に使おうとすると、思い込みを助長し、自分の見たいものだけを見て、自分に都合のいい結論を導いてしまいます。しかしながら、現在の市場の状況を理解するための客観的なツールとして使えば、自分の過ちを気づかせてくれます。

たとえば、株を買った直後にチャート分析上の売りサインが出たとしたら、一旦ポジションを手仕舞って仕切り直しをするとか、半分だけ売って様子を見るといった対応をすることで、ただ株価がズルズルと下がっていくのを眺めて含み損の拡大を放置させることを回避させてくれます。

もちろん、この下げは一時的で、売らずに何もしないほうがよかった、という結果になるかもしれませんが、ここで重要なのは、「自分が知らない何かがあるのではないか」とか「何か見落としていることはないか」と考えるきっかけを与えてくれることです。

テクニカル分析の望ましい姿

結局は、チャート分析も使いようです。チャートはあてにならないとか、チャートは怪しいとか、チャートを排除する、という考え方は、意味のあるチャートの使い方まで否定することにつながってしまいます。まずは、チャートを将来の株価予想以外の目的で使うことが必要でしょう。

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[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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