なぜ投資家はROICに注目すべきなのか

朋川雅紀
2024年3月12日 12時00分

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多くの人にとって、ROICはあまり馴染みがないかもしれません。一般的に認知度が高いのはROEROAのほうではないでしょうか。これらも資本の効率性を見る指標ではありますが、ROICほど優れた指標ではありません。

ROE・ROAの問題点

なぜROICに注目すべきなのか。まずはROEやROAとの違いから説明します。

ROE(Return On Equity)

ROEは「自己資本利益率」と言われ、“株主視点”での利益率を測る指標です。株主がいくら拠出して、それに対するリターンがいくらかということなので、ROEは企業が株主から調達した資金をいかに効率的に使っているかを示す指標です。

  • ROE=税引き後純利益 ÷ 株主資本

ROEの分母である株主資本には、いわゆる他人資本が含まれていないため、借金が多い企業は分母が小さくなることで、必然的にROEが大きくなります。これがROEの問題点になります。

なぜなら、借金が多いのは良くないこと、と決めつけることはできません。というのも、資金調達としての借金は資本コストが安いからです。

したがって、資金調達をどのようにするのが望ましいかを考えることこそが重要です。それはつまり、各企業のビジネスモデルや事業サイクルを考慮して、借入が多いのがいいのか、それとも、株式の比率が高いのがいいのかを考えることです。

要は、単にROEの数字だけ見て「高いほうがいい」と判断することに問題があるのです。

そして、ROEの分子には純利益が使われますが、これでは「特別損益(本業とは無関係である一時的な利益や損失)」の額に影響を受けてしまいます。

こうしたことから、本業で継続的に稼ぐ力を見るにはROEは不適当、ということなのです。

ROA(Return On Assets)

ROAは「総資産利益率」と言われ、すべての資産を使ってどれだけ純利益をあげたかを見る指標です。

  • ROA=事業利益 ÷ 総資産

分母の総資産は、企業が保有するすべての資産である「総資本」と同じですが、調達サイドから見ると「純資産+総負債」となり、金融活動も本業も全部合わせた企業活動を表すことになります。

この資産と整合を取るために、分子には事業利益(営業利益+金融収益)が使われますが、これにより、やはり金利という外部要因の影響を受けることになり、企業自体の本業の収益力や価値創造能力に関係ない要素が入ってきてしまうことに問題があります。

さらには、ROAはすべての資産を計算に含むため、売掛金や買掛金などの運転資本の変動に応じて最終的な数値も変わってきてしまう、という問題があります。たとえば、取引先に対する交渉力が高い企業は買掛金の支払いを留保できることがありますが、ROAではそうした要素を正しく反映できません。

こうして見ると、ROAは概念が広すぎますし、指標としての有効性があまり高いとは言えない、ということになります。

ROICこそ有効な理由

ここまで述べてきたROEやROAの問題点を解決したものが、ROICです。

ROIC(Return On Invested Capital)

ROICは「投下資本利益率」と言われます。

  • ROIC=税引き後営業利益 ÷ 投下資本

投下資本とは固定資産と正味運転資本(流動資産-流動負債)との合計です。

ROICは、すべての資金提供者(株主と債権者)から調達した資金のうち、どれだけが事業活動に投下され、その投下資本に対してどのくらい効率的に利益を生み出したのか、つまり、いかに基本の事業をうまく遂行できたかを示す指標であり、企業の収益力を最も正しく表していると言えます。

ROICが、調達コストである「資本コスト」を上回って初めて企業価値を創造できるということです。

資本コストとは、資金提供者が資金の見返りとして要求する収益率です。企業側からすれば、資金提供者に支払うべきコストということになります。具体的に支払うコストではありますが、債権者への利息は明確に決まっているものの、株主資本コストは明確には決められません。

ただ、ファイナンス理論では、投資家は高いリスクの商品には高いリターンを求めるとされるので、当然、株主資本コストは負債資本コストよりも高くなるはずです。

一般的に、株主資本コストの計算にはCAPM(Capital Asset Pricing Model)を使います。資本資産価格モデルと呼ばれるものです。個別株式が持つβ値から、その株式に投資している投資家がどのくらいの収益率を期待するのかを関係づけたフレームワークです。 

  • E(r)=rf+β(rM-rf)
    ・E(r):任意の株式の期待リターン
    ・rf:リスクフリー・レート
    ・β:任意の株式のβ値
    ・rM-rf:マーケットリスク・プレミアム

このROICでは、株主資本比率を変えても分母を変えられませんし、純粋な投下資本で計算できるため、資本提供者側にとっての適切なリターンになります。小手先で操作することが難しく、株主と債権者からの調達コストに対応した収益力を測定できるのです。

ROEやROAと似た指標ですが、ROICはROAやROEとは違い、分母を操作できない点がメリットです。ノイズを除外して、成長のトレンドを見いだす際により有効な指標がROICなのです。

ROICから資本コストを差し引いてスプレッドを使って企業価値を算出することができます。つまり、ROICを向上させるほど、そして資本コスト対比で高水準のROICをより長く実現するほど、企業はより大きな価値を創造できるのです。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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