個人投資家が考えるべきリスクと不確実性と確率、そしてリターンと期待

朋川雅紀
2024年6月14日 14時00分

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リスクと不確実性、そして確率

我々は、「リスク」と「不確実性」をどのように考えればいいのでしょうか。

「リスク」とは、未知の結果を示していますが、結果の分布はわかっています。一方で、「不確実性」も未知の結果を暗に示していますが、結果の分布はわかっていません。なぜなら不確実性の場合、取り扱う状況それぞれが相当に独自性を持っているからです。

つまり、ルーレットやブラックジャックのようなギャンブルの結果はリスキーであり、戦争の結果は不確実なのです。そして、「客観的な確率はリスクに基づき、主観的な確率は不確実性に基づく」と言えます。

辞書的には、リスクとは「損害や損失を被る確率」を意味します。一方、不確実性とは「不確実な状態」を意味します。不確実な状態とは、未知であるということです。

また、リスクが常に「損失」という概念を含む一方で、不確実性は、結果はわからないものの損失は生じないかもしれない、ということを意味します。

投資家とリスクと不確実性

なぜ投資家は、リスクと不確実性の定義を気にする必要があるのでしょうか。その主な理由は、投資は基本的には「確率」に関する訓練を伴うからです。

投資家は、投資機会を確率に変換しなければなりません。これは非常に重要なポイントです。我々は、様々な状況のもとで如何に確率を把握するか、また、隠れた落とし穴がどこに隠れているかを、注意深く考える必要があります。

確率を把握する方法

確率を把握するためには、下記の3つの方法が考えられます。この方法は、最も漠然とした状態から最も具体的な状態へと至るプロセスでなされるもので、投資家が確率を見極める際の助けになります。

・信頼の程度

信頼の程度は、主観的な確率であり、不確実性を確率へ変換する最も大まかな方法にもなります。

ポイントは、過去に1回しか起こらなかった出来事でさえも、それが確率の法則を満たすのであれば、確率に変換できるということです。投資家はしばしば、新たな関連情報を入手すると信頼の程度が変化するため、信頼をアップデートしていくものです。

・傾向(トレンド)

傾向に基づく確率は、対照物や仕組みの特性を反映します。たとえば、あるサイコロが完全に対称的で重心が中心にあれば、1~6のどの数字の出る確率は全て6分の1になります。このタイプの確率に関する評価方法は、必ずしも結果を考慮するわけではないということです。

・頻度

ここでは、確率は、参照可能な集合における数多くの「観察」結果に基づいています。参照可能な集合が無ければ、頻度に基づく評価方法はあり得ません。

従って、頻度を重視すれば、サイコロの目はいくつになると予想されるかとか、サイコロはどのような設計になっているかといったことは、考える必要がありません。ただ繰り返し投げられるサイコロの目だけを確認すればいいのです。

株式市場のリターンについて

株式市場の長期のリターンについてはどう考えればいいのでしょうか。

多くの市場予測は「信頼」の程度に基づいていますが、それは最近の経験により強く影響された確率を反映しています。信頼の程度は、思い込みや感情的な要素に大きく左右されやすいと言えます。

我々は、「傾向」に基づいて株式市場の動きを予想することも出来ます。たとえば、過去100年のアメリカ株式市場のリターンがわかったとして、問題は、こうした長期的なリターンを支えるような、経済成長や企業収益の拡大が続くかどうかということです。

そこで、人口動態や技術革新などを考慮して、過去の経済成長や企業収益を上回ったり下回ったりする可能性のある要素を考慮しなければなりません。

また我々は、「頻度」を使って市場予測を行うことも出来ます。たとえば、過去のある期間のリターンのデータを使えば、平均や標準偏差を求めることが出来ます。もし将来のリターンの分布が計測した過去のものと類似するならば、我々は将来のリターンに関する確率を予想できます。

確率を把握する3つの方法のうち、投資業界では大多数が「頻度」を扱う方法を支持していると言えるでしょう。投資理論における多くのモデルは、株価の変化は正規分布に従うと仮定しています。

しかしながら、株価の変動は正規分布にはならず、リスクと不確実性、マーケット・タイミング、資産運用に対する我々の考え方を反映した分布になっています。より具体的に言いますと、正規分布よりも平均値付近が高く両端が広がっています。

期待とリターン

予測については様々な意見がありますが、ここでは、実際のマーケットにおいて、予測に基づいて行動することが、予測の結果を変えることがある、という点について触れておきたいと思います。

株価が低く評価されていると信じてその株を買う人が多くなれば、その取引は株価を上昇させることになり、その結果、将来のリターンを低下させることになるでしょう。このことは、確率の訓練における期待値の重要性を端的に表しています。

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[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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