株式市場はギャップが大好き 一流の投資家があえて不人気銘柄を探すワケ

朋川雅紀
2025年5月17日 12時00分

《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》

過去の実績と将来の見通しの関係

ある個別企業について、投資対象としての魅力度を量るために、過去の業績と将来の業績見通しに基づいて分類すると、以下の4つのパターンに分かれます。

①のように、過去の業績が良くて、将来の業績見通しが明るい企業は、競争力の高い企業で、株価のバリュエーションに気をつけて高値掴みをしなければ、業績の伸びに応じて株価が上昇して行きます。

②のケースでは、株価の下落は避けられないでしょう。将来の業績見通しが悪いことから市場での評価が引き下げられ、バリュエーションと業績悪化のダブルパンチで株価は下方圧力を受けてしまいます。扱っているサービスや商品が世の中の需要に応えられなくなったり、競争環境が変化した場合など、収益力の悪化によって一気に投資家からの信頼を失ってしまいます。

③の場合はこれとは反対に、バリュエーションと業績のダブルでの改善により、株価は大きな上昇が見込まれます。良い意味で期待が裏切られれば、投資対象として急浮上して来ます。

④のケースでは、バリュー投資家の投資対象候補になるかもしれません。期待が低く、市場が過度に悲観的でバリュエーションが割安であれば、投資対象になりえます。

投資の王道と言えるのは、いわゆる優良と言われている企業(①過去の業績が良くて、将来の業績見通しが明るい企業)を長期で保有する、ということで間違いはありません。私自身も基本的にはそれを実践していますので、実際のポートフォリオのほとんどは優良企業が占めています。

しかしながら、投資リターンの魅力度という観点から、ポートフォリオの一部は、必ずしも優良とは言えない企業(過去の業績が悪い企業)にも意識的に投資しています。例えば、かつては当たり前のように多くの投資家が保有していたが精彩を欠くようになり、いつしか投資家の興味の対象外になったような銘柄です。

あえて期待されていない銘柄を買う

一般的に、誰もが認める優良企業はしっかりと投資収益を稼ぎ出してくれるかもしれませんが、爆発的なリターンは期待できません。市場のリターンを少し上回る程度のリターンであれば、インデックス・ファンドに投資するのと大差ありません。

せっかく時間や手間をかけていろいろ調査や分析を行うのであれば、大きなリターンが狙える個別企業に投資したいと考えるのが自然ではないでしょうか。そこで私は、あまり期待されていない銘柄を探すこともよく行います。

期待されていなかった銘柄が「実は意外に良いかも?」と市場に認識されると、多くの投資家が慌てて買いを入れます。リスク管理の観点からも、仮に期待(コンセンサス)通り良くないとしても、そもそも期待されてないわけですから、株価が大きく下がることもありません。

株式市場というのは、サプライズ(予想外)、つまり、コンセンサスとは違うことに敏感になる傾向があります。ネガティブ・サプライズ(コンセンサスより悪い)では、株価は大きく下がりますし、ポジティブ・サプライズ(コンセンサスより良い)では、株価は大きく上がります。

そこで重要になるのが、「コンセンサスを疑う」ということ。言い換えれば、当たり前を当たり前と思わないことです。 

コンセンサスを疑う

私自身が実際に行った例を紹介したいと思います。それは、2020年に行ったエネルギー企業への投資です。

2020年は、新型コロナウイルスの影響で経済活動が停滞し、エネルギー需要が減少しました。それと同時に、エネルギー業界の構造変化が加速する転換期でもありました。各国政府の支援政策や技術革新により、再生可能エネルギーへのシフトが加速し、従来の化石燃料依存型から脱却する動きが進むと考えられました。

既存のエネルギー企業は、再生可能エネルギーやエネルギー効率化など、新たな事業領域への参入を迫られ、ビジネスモデルの変革が求められました。そして、従来型のエネルギー企業は壊滅的な打撃を受けるのではないかという懸念が市場を支配していました。

そんな2020年4月、原油の先物価格がマイナスになる、という歴史的な出来事がありました。市場がいかに混乱状態にあったかを示す象徴的な出来事です。

原油先物がマイナスになった背景は、需要の急激な減少でした。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、各国政府がロックダウンや移動制限を実施しました。航空機の運航停止、自動車の利用減少などにより、原油の需要が大幅に減少しました。

こうした状況下で、既存のエネルギー企業の株価は大暴落。この大暴落を利用して、私はエネルギー企業の株を買いました。

原油の先物価格のマイナスは異常事態です。振り子の針が反対方向に思いっきり振り切れたということです。そのような状況が長く続くわけはありません。一時的なパニック状態により、エネルギー企業の株価は陰の極に達した、私はそう判断しました。いくら脱炭素化への取り組みが進んだとしても、既存のエネルギー企業が急に無くなることはありえないと考えたのです。

その後の株価の行方は、ぜひチャートなどで確認いただければと思います。そして、みなさんも「コンセンサスを疑う」という視点を持つことを意識するようにしてください。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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