その企業、本当に儲かっていますか? 利益の向こう側にあるキャッシュを理解する

朋川雅紀
2025年10月11日 12時00分

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キャッシュの流れも把握しよう

投資先の検討においては、その企業の「利益」だけではなく、「キャッシュの流れ」も把握しておく必要があります。

ここで言う「キャッシュ」とは、手許の現金のほか、普通預金、当座預金なども含みます。

企業活動を行うと、お金の出入りが発生します。商品を仕入れると、仕入代金の支払いが必要になりますし、仕入れた商品を販売すれば、お金が入ってきます。その他にも様々な経費の支払いや従業員の給与の支払いなども必要でしょう。

企業にお金が入ってくると「キャッシュイン」で、企業からお金が出ていくと「キャッシュアウト」、そして、その差額を「キャッシュフロー」と言います。

当然のことですが、キャッシュフローがプラスのときは、企業のお金は増えていますし、キャッシュフローがマイナスのときは、企業のお金は減っています。

赤字でもすぐに倒産するわけではありませんが、企業からお金がなくなって支払いができなくなると、企業は倒産します。だから、企業にお金がなくならないようにキャッシュフローをよく把握しておくことが重要なのです。

利益とキャッシュフローの違い

「利益」は、売上から費用を引いて計算されます。

飲食店などは現金商売が多いですが、企業間取引ではほとんどの場合、現金商売ではありません。現金商売以外の多くの企業では、売上と売上代金の回収に「時間差」が生じます。商品を納品した月末などに請求書を発行し、翌月末などに売上代金を払ってもらうなどしています。

このとき、仕入代金を先に支払っている場合は、利益としては黒字ですが、キャッシュフローとしては、仕入代金の支払いだけをして売上代金はまだ入っていないので、マイナスとなります。したがって、会計上の利益とキャッシュフローは必ずしも一致しないのです。

利益が出ていてもキャッシュフローがマイナスになる場合があります。たとえば、仕入代金を払った後に売上代金が入金される場合は、売上が増加してもキャッシュフローはマイナスになります。

他にも、たくさん商品を仕入れたのに一部しか売れなかったときも、キャッシュフローはマイナスになります。売上債権が増えたとき、棚卸資産が増えたとき、仕入債務が減ったときにも、キャッシュフローはマイナスとなります。

一方、キャッシュフローをプラスにするには、販売後の代金回収を早くする、仕入後の販売を早くして在庫を増やさないようにする、できるだけ支払いを遅くする、といったことが必要です。

所要運転資金の増加以外にキャッシュフローが悪化する要因としては、たとえば、多額の設備投資、お金を生まないことへの出費なども考えられます。

「キャッシュフロー計算書」を見る

各会計年度中の現金の動きを表したものが「キャッシュフロー計算書」です。期間中にどれだけの現金の出入りがあったのかが、営業活動、投資活動、財務活動の3項目に分けて示されています。

このキャッシュフロー計算書では、お金の出入りが「営業活動によるキャッシュフロー」、「投資活動によるキャッシュフロー」、「財務活動によるキャッシュフロー」の項目別にまとめられています。

・営業活動によるキャッシュフロー

営業活動によるキャッシュフローは、「本業」となる事業におけるお金の出入りをまとめたものなので、とても重要な数字です。本業でどれだけ売上があったのか、仕入にどれだけお金を使ったかなどが記載されています。プラスの場合は、本業で利益が出せていることを意味します。

・投資活動によるキャッシュフロー

投資活動によるキャッシュフローとは、土地や建物の取得・売却、有価証券の取得・売却、設備投資などのお金の出入りをまとめたものです。プラスの場合は資産を売却して現金に換えたことを表し、マイナスの場合は設備投資など、将来につながるお金の使い方をしたことを表します。

投資活動によるキャッシュフローは、積極的な設備投資を行った結果であるマイナスが好ましいとされています。ただ、当然ながら他の項目とのバランスも重要です。

・財務活動によるキャッシュフロー

財務活動によるキャッシュフローは、「資金調達」によるお金の出入りをまとめたものです。プラスの場合は新たな借入や出資によってお金が増えたことを表し、マイナスの場合は借入の返済などでお金が減ったことを表します。

プラスとマイナスのどちらがよいということはなく、営業活動によるキャッシュフローや投資活動によるキャッシュフローと見比べつつ、評価する必要があります。

・フリーキャッシュフロー

フリーキャッシュフローは、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足したもので、事業で稼いだお金から、将来に向けた投資を差し引いた残りの金額です。このフリーキャッシュフローが潤沢な企業は、経営上の意志決定における自由度がより高い企業と言えます。

利益の向こう側を知る

業績のよい会社では、一般的に、営業キャッシュフローがプラス(事業活動で稼いでいる)、投資キャッシュフローはマイナス(積極的な設備投資)、フリーキャッシュフローはプラス(営業キャッシュフローの範囲内での投資)という傾向が見られます。

このように、キャッシュの流れを把握することで、利益の数字だけではわからない企業活動の実態をつかむことができるようになります。個別企業に投資する前には、損益計算書や貸借対照表だけでなく、「キャッシュフロー計算書」にも目を通してみてください。

[執筆者]朋川雅紀
朋川雅紀
[ともかわ・まさき]大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立。現在は投資信託のファンドマネージャーを務めるかたわら、個人投資家の教育・育成にも精力的に取り組んでいる。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。
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