それでも円安は日本株にプラス! 不穏な相場で光る円安メリット銘柄に注目
《急激な円安は日本経済にとってはデメリットが大きいものの、マーケットの視点から見ると、むしろプラスの側面が大きいそうです。なぜか? 注目の円安メリット銘柄とともに解説します》
円安はプラスにもマイナスにもなる
2022年に入ってから急激に円安が進行しています。米FRBと日本銀行の金融政策の違いによる日米の金利差の拡大や、ロシアのウクライナ侵攻の影響による資源高など、ドルが買われ円が売られる展開となっていることが背景にあります。
3月には、2015年につけた1ドル=125円のいわゆる「黒田ライン」を突破し、4月には20年ぶりに131円台の安値をつけました。
円安は、日本経済にとってはプラスにもマイナスにも働きます。
輸入企業や日本企業の97%を占める中小企業、さらに家計には、円安は資源高・物価高となってマイナスに作用します。日本商工会議所の三村明夫会頭は4月に、「中小企業の53%は円安でマイナスの影響を受けている。いまの円安は日本にとって明らかに不利」と述べています。
さらに足元では、近年の経済構造の変化によって円安のデメリットのほうがメリットを上回る点が多く、「悪い円安」が語られやすい状況となっています。
その一方で、輸出企業や海外売上高比率の高いグローバル企業にとっては、円安による為替差益がプラスに働きます。こうした企業にとっては、円安によって得るものも大きいのも事実なのです。
このように、円安の影響を一律的に捉えるのではなく、プラスとマイナスの両側面に分けて考える必要があります。
円安が日本株にプラスになる3つの理由
では、マーケットの視点から考えるとどうでしょうか。円安によるデメリットは当然あるものの、やはり日本株全体にとってはメリットのほうが大きいといえるのではないでしょうか。その理由は、大きく3つあげられます。
- 日本株は輸出企業やグローバル企業が多い
- 海外投資家にとっては日本株が割安と映る
- 為替差益で業績の上振れ期待がある
日本の上場企業は、輸出企業や海外売上高比率の高いグローバルな大企業が多く占めます。つまり、円安によって恩恵を受ける銘柄が多く、その意味で、円安はマーケットから見ると好材料となります。
また、日本の株式市場の7割を占める海外投資家にとっては円安によって日本株の割安感が強くなるため、日本株全体が買われる効果もあります。世界中の株式でポートフォリオを組んでいると、ドルベースで見たときに日本株の割合が目減りして見えるため、日本株を買い増す動きが出やすくなるのです。
さらに、3月に発表された日銀短観によると、2022年度の企業計画の想定為替レート(全規模・全産業)は1ドル=111.93円となっており、今期は足元の為替差益による増益効果で業績の上振れが期待できます。
日米金利差の拡大によってドル高・円安の傾向は今後も続く可能性があり、しかも日本企業は期初計画を保守的に出す傾向が強いため、今後の業績の一段の上振れ期待が高まりやすいと考えられるのです。
円安メリット銘柄が物色される理由
このような状況下では「円安メリット銘柄」に投資家の注目が集まります。要するに、円安になることで業績にプラスになる銘柄のことです。
例えば輸出企業が商品を1ドルで販売する場合、為替相場が1ドル=100円ならば100円の売上ですが、1ドル=110円に円安(ドル高)が進行すると、同じ1ドルの商品でも円換算すると110円の売上になります。為替変動だけで売上と利益の手取りが増加し、企業の業績が拡大するわけです。
さらに、受け取る円が多くなることでドルベースでの値引き効果による価格競争力がつき、販売量(輸出数量)の増加も期待できます。
日本の主力株は自動車、電機、精密機器、機械などの輸出企業。なかでも海外売上高比率の高いグローバル企業であれば、円安によって業績が拡大する可能性が高いと考えられます。かつてほどの円安の恩恵は得られにくい状況ではあるものの、為替差益による増益効果には期待がもてるといえます。
マーケット参加者は知っている
ドル円相場が「1円」円安になったとき、企業の業績がどれくらい押し上げられるかを示す「為替影響度」という指標があります。主な円安メリット銘柄では以下のとおりです。
- トヨタ移動車<7203> 400億円
- 日産自動車<7201> 130億円
- 村田製作所<6981> 60億円
- 日本郵船<9101> 49億円
- クボタ<6326> 40億円
- キヤノン<7751> 40億円
- 信越化学工業<4063> 38億円
- 小松製作所<6301> 36億円
例えばトヨタ自動車<7203>の場合、1円の円安で約400億円の増益になるといわれています。5月11日に発表された2022年3月期決算では、営業利益が36.3%増の2兆9956億円となり、過去最高を記録しました。会社側の想定よりも円安が進んだことで、業績が大きく押し上げられました。
この為替影響度は、マーケット参加者にとっては「トヨタは400億円!」というように円安メリット銘柄それぞれの大まかな数字が頭に入っている共通認識です。円安が進行すると「この銘柄は、これくらい利益が増える(だから株価水準も上がるはず)」と、誰もがパチパチと計算を始めるのです。
円安が材料となって円安メリット銘柄が物色対象となり、それが株価の上昇要因のひとつとなります。実際、3月に急激に円安が進行した際には、トヨタをはじめとする自動車株が上昇しました。
市場が懐疑的でも上がる株は上がる
輸出企業や海外売上高比率の高いグローバル企業が円安メリットを享受するといっても、そもそも売上が立たないと意味がありません。
足元では、長期化が懸念されるウクライナ情勢や、アメリカの40年ぶりという異常なインフレ率と急速な利上げによるアメリカ経済の腰折れ懸念に加えて、中国のゼロコロナ政策による景況感の悪化、さらに、「悪い円安」による日本の景気悪化懸念……などなど、依然として世界景気の先行きは不透明です。
このような状況にあって現在は、いくら会社側が増益予想を出しても「本当に売上は減速しないのか?」「本当に増益になるのか?」と株式市場の見方は懐疑的なものになってしまっています。
ただ、市場全体が軟調になる中でも、自社株買い発表などの材料を手がかりとして株価がしっかりと上がっている銘柄もあります。
・キヤノン<7751>
OA機器総合メーカーであり、円安メリット銘柄の代表的な存在です。
2022年4月26日に、2022年12月期の連結営業利益を3600億円に上方修正すると発表しました。印刷や半導体関連などの需要が堅調だったほか、やはり円安が追い風となったもようです。御手洗冨士夫会長は「(円安は)業績に非常に大きなプラスとなっている」と述べ、増配の可能性にも言及しました。
ちなみに決算説明会資料によると、同社の想定為替レートは1ドル=120円。1円の変動で、営業利益は32億円変動するとのことです。
株価は、上方修正の直後に大幅安となったものの、その後は上昇に転じ、5月9日に自社株買いを発表すると、全体の地合いが悪化する中でもしっかりとした動きを見せました。
森を見て、木もしっかり見る
ウクライナ、インフレ、円安……ずらり並んだ悪材料も市場は次第に織り込み、いずれ投資家の目は個別銘柄の選別へと移っていくでしょう。それが株式市場というものだからです。
「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、このようなときこそ「森を見て、木もしっかり見る」という姿勢が大切。市場全体の反応だけでなく、円安による各企業の業績へのインパクトを押さえておくなど、事前にしっかりと準備をしておきたいものです。
各企業の為替影響度や想定為替レートは決算短信や決算説明会資料などに記載されていますので、決算発表の度に確認し、情報をアップデートしておくことも大切です。こうした情報の積み重ねが、成功する投資への土台となるのです。