コロナで倒産増加。あなたの銘柄が大丈夫かどうかを測るには
コロナ倒産の増加で募る不安
新型コロナウイルスの蔓延に伴う経済活動の停滞を受けて、企業業績の悪化懸念が強まっている。東京商工リサーチが発表している統計によると、2020年6月25日現在、新型コロナウイルス関連の経営破綻(負債1,000万円以上)は全国で284件。4月から急増し、6月は100件を超えるペースで推移している。
様々な支援策が動き出してはいるものの、「売上高30%減」「利益50%減」といった大幅な減収減益の決算発表も頻発するなかでは、「もしかしたら、自分が株式を保有しているあの企業も倒産してしまうかもしれない……」という不安に駆られるのも無理はない。
通常、株式の保有によって利益を上げるためには、投資先企業の「収益性」「効率性」などの指標に着目することが多い。しかし、昨今のような厳しい事業環境では、第一に「財務の安全性」を見ることの重要度が増してくる。
そもそも「倒産」とは?
「倒産」という言葉はよく耳にするが、実は明確な定義はなく、法律用語でもない。実は、「倒産」は東京商工リサーチが世に広めた造語であり、同社によれば、「企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になったりした状態」を指す。
中小・零細企業であれば、代表の後継者が見つからず、業績・財務が良好であるにもかかわらず自主廃業するケースがあり、これも倒産に分類される。
上場企業に関しては、債務の支払不能に陥ったことによるものが圧倒的に多い。法律用語では「債務不履行」と呼ばれる状況であり、残された手段としては、経営再建型の「会社更生」「民事再生」、あるいは清算型の「破産」「特別清算」がある。
倒産企業の株式価値は…
仮に上場企業が債務不履行に陥った場合、大半のケースで株式の価値はゼロ、もしくは限りなくゼロに近い状況となり、株主は大きな損害を被ることとなる。
「出資者(株主)よりもリスクの低い資金提供形態をとっている融資者(債権者)が損を被るような事態なのだから、優先劣後の序列に基づき、株主に残される利益などあるはずがない」。残念ながら、資本主義的なルールで言えばそうなるだろう。
財務安全性を測る5つの指標
将来性を見込んで投資した企業が倒産してしまった……などという事態を避けるには、企業の財務の安全性に注意を払うことが重要になってくる。
貸借対照表から見る「負債」の存在
企業分析の際に用いられるのが財務諸表だが、このうち「損益計算書」だけを見て投資先を考える人は少なくない。しかし、財務の安全性を測るうえでは「貸借対照表」を見ることも非常に重要だ。
貸借対照表には、決算日時点における以下の情報が記載されている。
- 総資産……現預金や商品、債権、不動産、他社の株式など
- 負債……社債や銀行からの借入金、取引先に対する未払いの仕入れ費用など
- 純資産……株主からの出資金やこれまで積み上げてきた利益額など
債務不履行の可能性を考えるうえでは、当然ながら「負債」の存在がカギとなり、「負債額が資産や純資産に対してどの程度大きいのか」を見る必要がある。その基礎的な指標は次の5つだ。
- 流動比率(高いほうが安全)
- 当座比率(高いほうが安全)
- 固定比率(低いほうが安全)
- 固定長期適合率(低いほうが安全)
- 純資産比率(高いほうが安全)
ここからは、それぞれについて簡単に解説する。参考として、トヨタ自動車<7203>の2020年3月期決算の内容をもとにした数値も紹介しよう。
・流動比率(高いほうが安全)
流動資産÷流動負債=流動比率
意味としては「1年以内に支払わなければならない負債を、比較的現金化しやすい資産でまかなえているか?」を測るものだ。短期的な財務の安全性を測る指標として見ることができる。
安全性の目安は1.5以上とされ、これが1を下回ると、帳簿上、流動資産だけでは流動負債を返済しきれなくなってしまい、返済のために固定資産を切り崩す必要性が生じる、ということだ。
トヨタ自動車の流動比率は「1.0」。1.5は下回っているものの1は上回っているため、安全性はあると見える。
・当座比率(高いほうが安全)
当座資産÷流動負債=当座比率
流動資産は基本的に現金化しやすい資産と見られるが、なかには、棚卸資産などのように現金化できる確度が相対的に低いものもある。
そこで、よりシビアな目線で短期的安全性を測るために、流動資産のなかでも現金化できる確度が特に高い当座資産(現預金や売掛金、受取手形、売買目的有価証券など)に絞って流動負債と比べるのが、この当座比率だ。流動比率をさらに保守的にしたものと言える。
安全性の目安は1。1以上であれば短期的に債務の返済に問題が生じる可能性はかなり低いと見ていいだろう。トヨタ自動車の当座比率は「0.8」。こちらも1は下回っているものの、そこまで大幅に低いわけではないので、概ね健全な水準と考えられる。
・固定比率(低いほうが安全)
固定資産÷純資産=固定比率
続いては、固定資産に対する資金調達の安全性を示す指標で、長期的な財務の安全性を測る際に用いられる。この数値が低いほど、長期的に保有する資産の資金調達が、返済期限のない純資産でまかなわれていることになり、一般的な安全性の目安は1~1.5倍とされている。
トヨタ自動車の固定比率は「0.5」で、一般的な目安を大きく下回っている。長期的な財務の安全性も問題はなさそうだ。
・固定長期適合率(低いほうが安全)
固定資産÷長期性資金=固定長期適合率
固定比率と同様、固定資産に対する資金調達の安全性を示しているのが、この固定長期適合率だ。これは固定資産に対する長期性の資金(純資産と長期借入金、長期社債など)の比率であり、固定資産を長期的な資金によってまかなえているかを測ることができる。
安全性の目安は1。1を上回っていると短期負債に頼る部分が出てきてしまい、固定資産の長期的維持に支障が生じる可能性が高まると考えられる。トヨタ自動車の固定長期適合率は「0.3」だ。
・純資産比率(高いほうが安全)
純資産÷総資産=純資産比率
企業が資金を調達するうえで、返済期限のない資金(純資産)をどれだけ活用しているかを示す指標。純資産を総資産で割ることで求められ、この比率が低いと負債に対する依存度が大きい状態となる。安全性の目安は業界や事業内容、企業の成長フェーズによって異なる。
トヨタ自動車の純資産比率は「0.4」。金融子会社を保有するので負債の活用にはそれなりに積極的で、その点は財務リスクを高める要因となる。
配当利回りやPERだけでなく
ここで紹介した5つの指標は、一般的な安全性の目安として活用するだけでなく、業界平均や競合他社の水準と比較することで、投資先の財務リスクの度合いをより鮮明に把握できるようになるだろう。
また、これらの知識はバリュエーションを考える上でも役に立つはずだ。「配当利回りが高い」「PERが低い」といった要素は、その銘柄に興味を持つきっかけにはなりやすいものの、その実、財務の安全性が懸念されるがゆえに、結果的に低めの株価がついていることも往々にしてある。
財務の安全性も考慮するという視点が身についていれば、「一見すると美味しそうに思える高リスク銘柄」も、そのリスクの度合いをある程度は事前に認識できるようになるだろう。
普段、「収益性」「効率性」などを集中的に見ているならば、こういうときこそ「安全性」を視野に入れてみてはどうだろうか。これまで目に入らなかった意外な銘柄が、ひょっとすると大きな実りをもたらすことになるかもしれない。