コロナ禍でも業績堅調な銘柄は買いなのか? 業績と株価の本当の関係とは

石津大希
2020年6月1日 10時40分

コロナ禍でも業績好調なマクドナルド

日本マクドナルドホールディングス<2702>の2020年4月度の月次業績は、新型コロナウイルスの影響によって不要不急の外出自粛が要請されるなか、既存店の客数は前年同月比で18.9%減と大幅減。これに対して、客単価は31.4%上昇と驚異的なプラスを記録し、既存店売上高は6.7%増加した。

新型コロナウイルスの感染拡大に起因して、外食産業の事業環境が大幅に悪化し、多くの企業の月次業績が前年割れに陥っているだけに、日本マクドナルドの足元の強さはひと際目立っている。

逆境での強さを評価されて株価上昇

これが市場でもポジティブに評価され、日本マクドナルドHDの株価は高値圏にある。

2月下旬以降、日本株全体が急落するなかで同銘柄も大きく売られ、一時は4,290円と、2017年7月以来の安値をつけた。だが、その後は底堅い月次業績で市場の注目を集め、勢いよく回復。4月中旬には新型コロナウイルスを背景とした下落幅を全て埋め切り、年初来高値を更新した。

その後も買いは継続。2018年6月につけた上場来高値である6,030円に対して、わずか5%前後の下落率となっている。多くの銘柄で株価チャートが大きく崩れるなか、上場来高値に迫る動きを見せており、月次業績と株価の双方で逆境における強さを見せている。

また、バリュエーションについても高い水準だ。今期の予想PERは約40倍。業績成長が緩慢になりがちな外食関連銘柄としては非常に高水準と言える。投資家心理が悪化し、リスク回避ムードが強まっている状況下での好調な月次業績は、通常以上に買いを集めやすいようだ。

業績と株価の関係

株価は景気や為替、投資家心理、その他多くの要素から影響を受けるが、長期的な株価上昇に寄与する最も大きなファクターは、やはり「業績」だ。より厳密に言えば、「株主の利益となるキャッシュの創造」である。

企業は資金を事業に投資し、儲けを出して、それを株主に分配する。これが株式会社の存在意義だ。そして、ファイナンス理論上、「株式の価値」というのは短期的なキャッシュ創造ではなく、長期的なキャッシュ創造の見通しをもとに計算される。

株式市場で最大のプレーヤーである機関投資家はその内容を分析し、長期的に、より多くのキャッシュを創造できると見込める企業を高く評価する。

株価上昇の鍵は「継続的な利益成長」

「キャッシュを長期的に創造する」というのは、わかりやすく言い換えれば「安定的な利益成長を長年継続する」と理解してもらえばいい。所有する有価証券や不動産を売却した際の「特別利益」による業績拡大などは、株式価値にはさほど影響を与えない。

一方で、長期継続的な材料による利益の増加は株式価値を高める。例えば以下のようなケースだ。

  • 継続的な市場拡大による安定的な売上高・営業利益の増加
  • 商品やサービスの訴求力強化に伴うシェア拡大を背景とした売上高・営業利益の増加
  • 業務効率化に伴う営業利益率の改善

また、将来的にさらなる利益の成長が期待できる場合には、高水準のバリュエーションも妥当とみなされる。

足元の好調は「継続的」なのか?

この基礎原則を踏まえると、「あの企業は、足元の業績がどうやら堅調らしい」と感じた際には、こう考えることが重要となる──「その業績は継続的・安定的なのか?」

例えば日本マクドナルドHDの場合、確かに月次業績は好調であり、足元の売上高・営業利益は伸びている。だがその背景を考えると、それは継続的ではない可能性が高い。なぜなら、同社の月次業績が堅調なのは、コロナ禍でテイクアウト需要が急騰したことに起因していると考えられるからだ。

コロナ禍では、「3密(密閉・密集・密接)」を避けるために、店内飲食が多いファミレスでは客が激減した。では、客はどこに流れたか? テイクアウトのイメージの強い飲食店、例えばファストフード店である。多くの客が向かい、さらに家族全員分を注文するなどして客単価が上昇したのだ。

ただし、これはあくまでもコロナ禍での話だ。確かに、新型コロナウイルスの影響はいつ終わるかわからない。だが、これが今後何年も続くかといえば、それも現実的には考えにくい。

となれば、現状の売れ行きは長期的には続かない可能性が高く、ゆえに理論上は株価への好影響もさほど大きくないということになる。40倍に迫る高いPERも、これが本当に妥当な水準なのか否かを見定める必要があるのではないだろうか。

目先のチャートに急かされない

日本マクドナルドHDに限らず、様々な要因を背景として業績が大幅拡大することは珍しくない。その際、往々にして株価は上昇する。しかし、一時的な業績好調による株価の上昇は、言わば「中身(長期的成長)の伴わない上昇」であり、いずれ元の水準までしぼんでしまうことが多い。

業績の動向を軸にして銘柄を選ぶ際には、目先の強いチャートに急かされることなく、「その業績拡大は長期的に続くのか?」を落ち着いて見極めることが重要だ。


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[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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