コロナ禍で株価が上がった銘柄・下がった銘柄 決算発表に見る明と暗

岡田禎子
2020年6月16日 8時00分

コロナ禍の企業の明と暗

「生きるべきか、死ぬべきか……」

言わずと知れたシェイクスピアの代表的戯曲「ハムレット」に出てくるセリフです。人間社会の全ての人を描いたと言われるシェイクスピアも、その人生の中では何度も疫病を経験し、劇場閉鎖の憂き目にも遭いました。

シェイクスピアの時代から400年の時を経た現代の日本の株式市場でも、新型コロナウイルス感染拡大の影響は大きく、2020年3月期の決算発表では、コロナの恩恵にあずかった企業、大打撃を受けた企業の明暗がはっきりと分かれました。

異例尽くしの決算発表

新型コロナウイルスの感染拡大によって、上場企業の業績は急速に悪化の一途をたどりました。

そのような中で迎えた2020年3月期の決算発表では、東証1部企業の経常利益は前年比で約2割減、四半期ベース(2020年1〜3月期)では前年同期比で約7割減と、内需・外需ともに総崩れの悲惨な結果となりました。

さらに今決算で特徴的だったのは、2021年3月期の業績予想について、約6割の企業が非開示としたことです。例年では、非開示とする企業は約1割弱程度であったことを考えると、今回のコロナ禍がいかに異常な事態かがわかります。

決算発表を延期する企業も相次ぎ、まさに異例尽くしの決算となりました。

決算発表で上がった株・下がった株

そんな決算発表の中でも投資家の注目を集め、株価へのインパクトも大きかった銘柄をご紹介しましょう。

・トヨタ自動車<7203>

製造業の中でも特に自動車産業は都市封鎖などで販売減少、工場停止など大ダメージを受けました。本田技研工業<7267>、日産自動車<7201>など競合他社が2021年3月期の業績予想を非開示とする中、果敢に開示したトヨタ自動車<7203>には「さすがトヨタ」と称賛の声が上がりましたが……。

「脅威というよりも、今、私自身は非常に落ち着いております」。5月12日、株式市場の取引時間中の13時15分から始まった会見で、静かにこう述べた豊田章男社長。注目の2020年3月期決算は、売上高は前年比1%減の29兆9299億円、営業利益は1%減の2兆4429億円でした。

このうち、新型コロナウイルスによる影響は営業利益でマイナス1600億円だったと明らかにし、「リーマンショックの時よりも販売台数が落ち込むマグニチュードは大きいものの、今回は何とか黒字を確保できた」(豊田社長)と報告。

また、今期の見通しが難しい中、何かしらの基準を作ることが自社の管理と関係会社のよりどころとなるとして、2021年3月期の営業利益は79.5%減の5000億円との見通しを発表しました。

トヨタらしい気骨ある決算ではあったものの、その後の株式市場では売り優勢となり、翌日には「トヨタ、営業損益8割減」とマスコミで大々的に報じられたことや、自社株買いが見送りされたこともマイナス視され、決算発表前の株価と比較すると7%近くの下落となってしまいました。

トヨタ自動車の株価推移

・三越伊勢丹ホールディングス<3099>

コロナ禍によりインバウンド需要が激減したほか、外出自粛で国内居住者の店頭への来客も減少、影響の打撃を直に受けたのが、百貨店業界です。

三越伊勢丹ホールディングス<3099>は、5月11日の取引時間終了後に2020年3月期決算を発表。売上高は前期比7%減の1兆1190億円、営業利益は47%減の156億円、連結最終損益はマイナス111億円と2年ぶりの赤字転落となりました。

杉江俊彦社長は新型コロナウイルスのインパクトについて「1か月あたりの営業利益への影響は、全店休業なら150億円、外出自粛による消費減なら30〜40億円、景気低迷長期化なら0〜10億円の減益要因になる」と明らかにした上で、「この組み合わせが今後どうなるか、現実には全く読めないので今期の業績予想は未定」と述べました。

この発言によって同社の厳しい収益環境が再確認され、翌日の12日の株式市場ではこれがネガティブ視されて、株価が一時前日比9%下落するなど大幅安となってしまいました。

三越伊勢丹ホールディングスの株価推移

・任天堂<7974>

好決算だったものの、業績予想を開示したことがアダになってしまったのが任天堂<7974>です。

巣ごもり銘柄の代表格でもある同社は、3月に発表したニンテンドースイッチ向けソフト「あつまれ どうぶつの森」がスイッチ史上最大の滑り出しとなるなど爆売れ状態となっており、投資家の業績への期待も熱く、株価も好調に推移していました。

5月7日に発表された2020年3月期決算でも、売上高は前期比9%増の1兆3085億円、営業利益は41.1%増の3523億円となり、3月発売の同ソフトの人気化で第四半期の収益が大幅に上振れとなるなど、絶好調な内容でした。

ところが今期の業績予想については、製品の供給に支障をきたす可能性があるとして、営業利益15%減(3000億円)という見通しを発表。2ケタ減益というインパクトや市場のコンセンサス(3800億円)を大きく下回ったことで、翌日の株価は失望売り優勢となり一時5.6%安まで下落しました。

任天堂の株価推移

・イーブックイニシアティブジャパン<3658>

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛要請を受けて、投資家の熱い視線を集めたのが「巣ごもり」関連銘柄です。その中でも象徴的な決算となったのが、電子書籍配信を手がけるイーブックイニシアティブジャパン<3658>です。

4月24日に発表された2020年3月期決算では、売上高は前年比43.9%増の212億8100万円、営業利益は36.1%増の7億9300万円と大幅増益を確保し、第3四半期までが2ケタ減益決算だったこともあって、ポジティブサプライズな決算となりました。

直近四半期(1〜3月期)は、前期の6700万円赤字から一転して2億6400万円の黒字となり、営業利益率もマイナス1.5%からプラス4.3%に大きく改善、まさにコロナ禍の恩恵を直接受けた形となっています。

さらに、今期の業績予想も、売上高は10%増(235億円)、営業利益は11%増(8億8000万円)との見込みを発表。これを受けて株価は、24%高の2,081円と制限値幅上限のストップ高水準まで上昇しました。

イーブックイニシアティブジャパンの株価推移

・オリックス<8591>

コロナ禍を受けて、多数の企業が減配や無配に踏み切り、配当の安定性が危ぶまれる事態となっています。連続増配の優等生銘柄であるオリックス<8591>もその災いからは逃れられず、連続増配がストップするという事態を招きましたが、その決算発表には株主還元への強い意志が見えました。

5月21日発表の2020年3月期決算は、売上高が6.3%減の2兆2803億円、営業利益は18.1%減の2696億円、2021年3月期の業績予想は未定としています。注目の配当は、前期比横ばいの76円となり、連続増配は「10期」で残念ながらストップとなりました。

また、今期の配当予想は未定としながらも、中間配当は前期と同じ35円にするのに加えて、2021年3月期に限って配当性向を50%に引き上げる(前期は32%)など、期末配当もある程度の水準を維持したい意向を示しています。

魅力的な株主優待と配当利回りで、個人投資家にはトップクラスの人気を誇るオリックス。決算説明会で、減配への抵抗はあるのかというアナリストの質問に、井上亮社長は力強くこう述べました──「減配に対する抵抗はメチャございます」。

同社の株価はコロナショックで40%以上も下落し、その後も回復せずに低迷したままの水準でしたが、この決算発表を受けて再調整の動きとなり、28日には1,502円の高値をつけるなど決算発表から14%以上の上昇となりました。

オリックスの株価推移

コロナ禍という悲劇の中で

コロナ禍という悲劇の中での2020年3月期決算でしたが、多くの名作が災いや困難の中から生み出されてきたように、この未曾有の事態を機に、社会を大きく変えるような新しい商品・サービスが誕生するのを目の当たりにした決算発表でもありました。

また、世の中の悲観を「変化」と捉えて新たなチャンスを見つけることができる舞台、それが株式市場なのだということも改めて実感させられました。そうした視点を持って、2020年3月期決算をじっくりと味わってみるのも面白いかもしれません。

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[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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