東証1部昇格の基準変更で株式市場はどう変わる? 出世株を逃さない秘訣とは

岡田禎子
最終更新日:2021-04-13 公開日:2020-12-18

《近年、マザーズから1部昇格を果たす企業が増えて、株式市場のサクセスストーリーとして注目されてきました。しかしながら今年11月の基準変更により、そのハードルはずいぶん高くなってしまいました。これによって何が変わるのか? 株価にはどんな影響を与えるのでしょうか?》

株式市場の出世物語

ネットフリックスで配信された韓国ドラマ「梨泰院(イテウォン)クラス」は、学歴もお金もない天涯孤独の主人公が仲間とともに小さな居酒屋から「飲食業界トップ」を目指す物語です。いつの時代も立身出世のサクセスストーリーは人々を魅了するもので、それは株式市場でも例外ではありません。

マザーズなど新興市場に上場した企業は、会社が大きくなると、東証2部、東証1部へと市場を変えて昇格していきます。いまや日本を代表する銘柄になった、医療従事者向けサイト運営のエムスリー<2413>も実はマザーズ出身。

もしそんな出世株を新興株時代から保有していたとしたら……とてつもない利益と大出世の喜びを味わうことができるでしょう。

企業が東証1部昇格を目指す理由

起業家にとって、東証1部への上場は一つの目標であり、憧れでもあります。では、東証1部に上場すると、企業にどんなメリットがあるのでしょうか?

まず、東証1部上場企業となると、企業の信用力が増し、資金調達が楽になります。また、取引条件や従業員の採用などの面でも有利になります。

さらに、知名度が大きく上がり、外国人投資家や機関投資家にも注目されるようになります。東証1部銘柄に限定して投資対象としている投資家も多いため、投資対象となる確率も高まるのです。加えてTOPIXなどにも組み入れられることで、より多くの資金が流入し、株価も押し上がっていきます。

このように、東証1部に上場することで企業は多大な恩恵を享受することができます。そのため多くの企業が、東証1部への上場を目指すのです。

マザーズからの昇格基準が変更

東証1部への上場は、直接上場と、マザーズなど他市場からの市場変更による上場があります。とくにマザーズから東証1部への上場は、歴史的な背景もあって直接上場より基準が緩く、時価総額40億円、純資産は10億円を満たせば昇格できました。

また、いったん1部に上がってしまえば、よほどのことがない限り、その地位が維持されていました。

そのため、現行の東証1部上場企業には時価総額や流動性の低い会社も混在し、「質」が疑問視される銘柄も出てきている状態となっています。なかには「上場ゴール」と揶揄されるような、1部上場後にダメになる企業も現れていたのです。

そこで東京証券取引所は、上場企業の質の向上を図るために、市場区分を再編する市場改革の一環として、2020年11月1日から、第1部への上場・昇格基準を変更しました。

・マザーズから東証1部への市場変更要件

具体的には、マザーズや東証2部に上場する企業が1部へ昇格するには、250億円の時価総額が必要となりました。加えて、純資産は50億円、直近2年の経常利益が計25億円か、直近1年の売上高100億円かつ時価総額1000億円をそれぞれ上回る、などの条件があります。

マザーズ銘柄については、これまでの時価総額の基準は40億円でしたが、その6倍以上の250億円と一気にハードルが高くなりました。ここ数年は毎年50〜60社前後が東証1部に昇格していたところで、この厳しい基準変更となったのです。

現在のマザーズには300社以上ありますが、この新基準をクリアできるのは10数社しかありません。近道と思われた昇格への道は、とても「狭き門」へと変わってしまったのです。

1部昇格を狙うイベント投資とは

個人投資家にとっては、1部昇格を狙ったイベント投資は〝テッパン〟のひとつ。なぜなら、たとえ企業価値が変わらなくても、1部昇格によって需要が高まるだけで株価が押し上げられるからです。

マザーズなど他の市場から東証1部へ昇格すると、その翌月末にTOPIXに組み入れとなります。機関投資家などのTOPIX組み入れ需要(インデックス買い)を受けて大きな資金が流入すると期待されるため、1部昇格によって株価が上昇する傾向にあるのです。

パターンとしては、組み入れが発表された直後に急騰するケースと、実際に組み入れられるまで徐々に上昇していくケースの2つがあります。この動きを利用して、こんな投資法が可能です。

  • 昇格の発表前に、昇格しそうな銘柄を購入。発表後に株価が急騰したら売却する
  • 昇格発表後も株価が堅調であれば、さらなる値上がりを見込んで購入。組み入れ日までに売り抜ける

・ヴィッツ<4440>

自動車関連の組み込みソフトウェアの開発販売を手掛けるヴィッツ<4440>は、2020年7月13日に東証1部上場への市場変更(つまり昇格)を発表、7月31日付で1部上場となりました。

上場承認日の終値は2,255円でしたが、翌日14日には高値2,540円(前日比+12.6%)まで上昇。TOPIX組み入れ日である8月31日には3,710円まで上昇したのです。

このヴィッツの場合は、上に紹介した投資法がどちらも有効だったため、儲けるチャンスが2度合ったことになります。

企業が発するシグナルを掴む

1部昇格イベントは買いの大チャンスとなるため、昇格しそうな銘柄を先回して見つけて投資すればいいということになります。

1部昇格となるには、最初に紹介した時価総額や利益額に加えて、株主数(800人以上)、流通株式数(2万単位以上)など一定の基準を満たす必要があります。そこで企業は、立会外分売や株主優待の新設・拡充、株式分割を行って、株主数の確保や流通株式比率の上昇などを目指します。

立会外分売(たちあいがいぶんばい)は、株主数が足りない場合に、大株主の保有株を取引所の取引時間外(立会外)で不特定多数に売り出し、株主数を確保する施策です(用語集)。株主優待の新設・拡充も個人投資家を増やす目的で実施されます。株式分割は流通株式を増やす目的で行われます。

実はヴィッツも、2020年5月に立会外分売を実施し、そのリリースには「東証1部への市場変更の申請をしている」と記載されていました。

つまり、これらの施策を行う企業は「東証1部への昇格を目指します」というシグナルを発しているのです。それをキャッチできれば、昇格発表前に先回りして購入しておくこともできるでしょう。こうした情報は、数週間前から前日にかけて、企業のIR情報や証券会社のホームページで確認できます。

基準変更でシグナルが減ってしまう?

とくに立会外分売は、1部昇格のシグナルとして広く知られていました。新興市場の銘柄は上場時の発行株数が少なく、株主も多くなかったために、旧基準の2,200人を満たすために立会外分売を行って株主数の確保を図っていたのです。

しかし今回の基準変更で、1部昇格に必要とされる株主数が「2,200人以上」から「800人以上」へと引き下げられ、この点ではハードルが下がりました。このため、立会外分売というシグナルは、以前よりも減少しそうです。

そうは言っても、たとえすべての基準を満たしていても、企業側に昇格への意思がなければ、東証1部には指定されません。経営側が1部昇格に前向きな場合、株主総会などでそれを示唆するコメントが飛び出ることも多いので、日頃から気にしておくと、シグナルに気づけるかもしれません。

市場改革で株式投資も変わる?

東証が進めている市場改革は2022年に本格的に始まります。これによる銘柄の「質の向上」によって、1部昇格は単なるイベント投資のチャンスという枠を超えて、より長期的な保有目的での投資が根付くことも考えられます。

マザーズ市場には、人々の生活を大きく変えるような、革新的なサービスや商品を扱う企業がたくさんあります。「これは!」と思う銘柄があれば、イベント狙いだけでなく、長期的な視野を持って先回り投資することで、さまざまなドラマを企業とともに体験できるかもしれません。

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[執筆者]岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP) かぶまどアワード2020
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