コロナ禍で注目が集まる「ESG投信」の人気は今後も続くか?
投資信託で注目を集めるESG
個人投資家のお金が投資信託に集まっています。2020年12月末の公募株式投信(ETFを除く)の残高は70兆円を超え、5年ぶりに過去最高を更新しました。新型コロナウイルスの感染拡大で株式市場は混乱しましたが、その中で投資信託には資金が流入したのです。
その中でも大きな関心を集めたのがESG関連のファンド。2020年に設定されたESG関連投信は36本となり、これまで最多だった2018年の28本を大きく上回ったのです。
とくにアセットマネジメントOneが設定した「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)」<愛称:未来の世界(ESG)>は2020年7月20日に新規設定されましたが、3,830億円の資金を集めて2020年最大、歴代2位の当初設定額となり、話題を集めました。
2021年2月18日時点で1兆394億円の純資産となり、設定来のパフォーマンスも25.97%と絶好調です。
ESG投資とは?
「ESG」とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字をとったものです。「環境」にはCO2削減や環境破壊の回避、「社会」にはダイバーシティ(多様な人材の活用)の推進や働き方改革、「ガバナンス」には積極的な情報開示や公正・透明な経営が求められます。
企業の長期的な成長にはESGの観点が必要だと認知され、2010年頃から機関投資家を中心に、そうした取り組みを積極的に行う企業へ投資する「ESG投資」が広まってきました。投資の意思決定において、これまでのような財務情報だけを重視するのではなく、ESGも取り入れるようになってきたのです。
また、ESGの概念である環境や社会を重視した投資は、リターンも大きくリスクが小さいという実証研究もでてきています。
〈参考記事〉株の新潮流「ESG投資」なら社会貢献とリターンの両方を実現できる?
コロナ禍で注目が高まったESG
ただ、過去にも環境や社会問題をテーマにしたファンドのブームがありました。1990年代に環境保護をテーマにした「エコファンド」と、2000年代半ばに設定された「社会的責任投資(SRI投資)」です。
とくにSRIは通常の投資とは違い、強く環境や社会を意識した倫理的な投資手法だと考えられていました。しかし、2度のブームはファンドのパフォーマンスも悪く、人気は続きませんでした。
しかし、今回のESG投信は好パフォーマンスとなっています。なぜなら、組入銘柄の多くが環境問題やコロナ関連の成長株だからです。また、ESGに積極的に取り組む欧米の企業を組み込んでいるファンドが多く、それもパフォーマンスが高い要因になっています。
純資産トップの前述「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」ではアメリカ企業の組入比率が72%と高く、アマゾン・ドット・コム<AMZN>やウーバー・テクノロジーズ<UBER>など、コロナ禍で高い成長が見込まれる企業が組入上位に選ばれています。
(参照)グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド|アセットマネジメントOne
また、2019年6月に設定され、設定来のパフォーマンスが142.91%(2021年2月18日時点)と高いパフォーマンスを誇るのが、三菱UFJ国際投信の「ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド」<愛称:ポジティブ・チェンジ>です。
同ファンドの組入銘柄1位は米テスラ<TSLA>(比率9.0%)。世界各国で温暖化ガス削減が進む中、EV(電気自動車)への転換が進むと見られています。
そして、組入銘柄5位は日本のエムスリー<2413>(比率7.7%)。新型コロナウイルスの感染拡大で「非接触」がテーマになる中、医療関係者と医薬品メーカーをネットで結びつける同社の収益機会は大きく高まっているのです。
(参照)ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド|三菱UFJ国際投信
個人の資産形成にESGは根付くか
投資信託のメインテーマになっているESGですが、実は、個人投資家の関心はそこまで高まっていません。QUICK資産運用研究所が2020年11月におこなった「個人の資産形成に関する意識調査」によると、ESG投資に「関心がある」「どちらからというと関心がある」の回答が合わせて17.6%にとどまりました。
その一方で、機関投資家の間では、ESG投資が長期的に安定的なリターンが得やすいという認識があります。世界最大の公的年金の運用機関であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、ESG投資に積極的に取り組んでいます。
個人投資家からは「ESGについてよくわからない」「投資したい商品がない」といった回答が多かったようですが、個人の資産形成のための非課税制度である「つみたてNISA」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の対象ファンドにESG投信が乏しいことも、認知度が上がっていない要因かもしれません。
脱炭素やグリーン社会の実現が世界的な課題となっていますが、投資テーマとして一時的なブームで終わらせないためには、ESGへの正しい理解とともに今後も運用実績を残していくことが必要でしょう。