いま株式市場で「健康」が投資家の熱い視線を集めている理由

岡田禎子
2019年5月8日 8時00分

最近、株式市場で注目を集めているテーマのひとつに「健康」があります。と言っても、健全な経営をしている企業のことではなく、文字どおり、人の健康が株価に影響を与える要因になると考えられ始めているのです。一体どういうことなのでしょうか。そして、気になる株価への影響は?

市場の注目を集める「健康経営」

少子高齢化による労働不足や政府による働き方改革などで、近年注目を集めている「健康経営銘柄」をご存じでしょうか。

健康経営」とは、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、それを戦略的に実施する経営方針のことを言います。1980年代にアメリカの経営心理学者ロバート・ローゼン氏が提唱された「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」という考えがベースになっています。

アメリカではすでに多くの企業が取り入れていますが、日本でも近頃、投資家たちの間で「社員が元気なら当然、株も上がるはず」として「健康経営銘柄」への関心が高まっています。

ESG投資家からも注目

健康経営がマーケットで注目されるようになった背景には、「ESG投資」の世界的な潮流が挙げられます。現在、世界のマーケットでは、企業の中長期的な成長、つまり「持続可能性」を評価するため「E(環境)」「S(社会)」「G(ガバナンス)」を重視する傾向が急速に高まっています。

健康経営はESGにおける「S」や「G」に位置付けられており、特にESGを重要視する機関投資家にとっては、企業の積極的な取り組みが今後より重要な判断材料となりそうです。

(参考記事)株の新潮流「ESG投資」なら社会貢献とリターンの両方を実現できる?

お墨付きの「健康経営銘柄」とは?

経済産業省と東京証券取引所は、2015年から毎年「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」を独自の健康経営銘柄として選定しています。

上場会社の中から「健康経営」に優れた企業を選び、中長期的な企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介することで投資を促し、ひいては、企業による「健康経営」の取り組みを促進することを狙いとしています。

企業が従業員の健康保持・増進に積極的に取り組むことで、従業員の活力や生産性向上が期待できるほか、企業イメージの向上や、「安全で健康に働けるホワイト企業」として優秀な人材の獲得、その結果としての競争力の強化も見込めます。

こうしたことが最終的には業績に結びつき、それが「企業価値(≒株価)の上昇につながる」という好サイクルが期待されているのです。

つまり、「健康経営銘柄」は経産省と東証が選りすぐった〝お墨付き銘柄〟であり、「魅力的な投資対象」を示すバロメーターのひとつ、ということです。

健康経営銘柄の選定方法

健康経営銘柄の選定では、経済産業省が全上場企業を対象として実施する「健康経営度調査」の回答結果をもとに、「経営理念・方針」「組織・体制」「制度・施策実行」「評価・改善」「法令遵守・リスクマネジメント」の5項目で企業を評価します。

この総合評価の順位が上位20%以内であることに加えて、ROE(自己資本利益率)の直近3年間の平均が0%以上であること、重大な法令違反などがないこと、という選定基準でスクリーニングした上で、各業種で最も高い評価を得た企業を選定しています。

第5回となる「健康経営銘柄2019」からは、従来の1業種1社を基本としつつも、業種ごとに最も健康経営度の高い企業の平均を算出し、その平均より高い健康経営度である企業も選定されるようになりました。

ROE自己資本利益率)とは、企業の自己資本に対する純利益の割合のこと。自分が投じた資金で企業がどれだけ利益を上げるか、という投資家が重要視している指標のひとつ。

(参考記事)知らなければ損? ROE(株主資本利益率)からわかる優良銘柄

「健康経営銘柄2019」全リスト

2019年2月21日に発表された「健康経営銘柄2019」に選ばれたのは、37社。このうち6社が5年連続で選ばれており、4年連続の企業も3社ありました。

5年連続という皆勤賞を達成したのは、花王<4452>、TOTO<5332>、テルモ<4543>、東京急行電鉄<9005>、SCSK<9719>、大和証券グループ本社<8601>の6社です。

「健康経営銘柄」は儲かるのか?

健康経営銘柄についてわかったところで、投資家にとって気になるのは、これら選定銘柄に投資した場合のパフォーマンスではないでしょうか。

経済産業省が発表した『企業の「健康経営」ガイドブック』によれば、「健康経営銘柄2016」(2016年1月発表)に選定された企業25社については、「TOPIXとの比較において、株価が優 位に推移しており、市場から高く評価されていることがうかがえる」とされています。

では、5年連続で選出された6社の場合で確認してみましょう。第1回の健康経営銘柄が発表された2015年3月25日の翌日から2019年4月末までの期間騰落率は、大和証券グループ本社を除き、確かにTOPIXを上回る結果となっています。

こうして見てみると、個別の要因を見ていく必要があるのは当然のことですが、「健康経営銘柄は市場における優位性がありそうだ」と言うことはできそうです。

確実な保証はない。でも……

「健康経営」という概念の広がりに伴って、「健康経営銘柄」のブランド力が増し、企業にとってもステイタスになりつつあるようです。より多くの企業が選定されることを目指し、従業員の健康管理に積極的になるのは喜ばしいことでしょう。

しかしながら、株式市場においては、社会貢献をしている企業が良い投資リターンを生む(=最適な投資対象)という保証はどこにもありません。健康経営銘柄もついても、(少なくとも現状では)TOPIXより優位性がありそうだ、という程度です。

そうは言っても、ESG投資の潮流も含めて、投資先企業の「質」が問われる時代が来ている、という点は頭に入れておいたほうがいいでしょう。なぜなら、それが今後のトレンドを形成していく可能性があるからです。

通常の企業分析に加えて「健康経営」をテーマとして織り込むことを、ふだんの銘柄選びの要素に加えてみてはいかがでしょうか。

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【追補】

[執筆者]岡田禎子
岡田禎子
[おかだ・さちこ]証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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