「脱炭素」でピンチの石油関連株 長期的材料は株価にどう影響するのか

石津大希
2020年9月4日 10時44分

《儲かる銘柄選びのため、日頃からマメにニュースをチェックしている人も多いでしょう。トレンドは確かに大事ですが、それだけで株価が動くわけではありません。石油関連銘柄を例に「長期的材料」と株価の関係について考えてみます》

石油関連銘柄を襲う「脱炭素」の波

国際石油開発帝石<1605>やENEOSホールディングス<5020>などの石油関連銘柄に不穏な影が忍び寄っている。

直近では、新型コロナウイルスの収束期待や中東産油国による原油減産期待を背景に原油先物価格が上昇し、それに沿って株価は堅調な動きを見せていた。しかし、より長期的な事業展望についてネガティブな情報が出てきており、上値の重さも見て取れる状況となっている。

化石燃料事業の見通しは厳しい

2020年7月、経済産業省は二酸化炭素(CO2)を多く排出する効率性の低い石炭火力発電所のうち、9割弱を休廃止する意向だと表明した。国内の石炭火力発電所は合計140基。その中の非効率な発電所114基のうち、約100基を2030年度までに休廃止するという。

つまり、国内の石炭火力発電所のうち約7割が対象となる。そのほか、2021年には関連する法令や制度も改正する方針のようだ。

石炭火力発電などの化石燃料事業については、金融機関が新規の融資を停止するなど、これまでも抑制の方向での動きは見られた。しかし、その多くは「これ以上拡大させない」ための、いわば市場規模を横ばいにとどめるようなものが多かった。しかし今回、ついに「縮小させる」動きが出てきたのだ。

環境保護を軸に世界的に化石燃料事業への批判が強まり、「ESG」などをテーマに再生可能エネルギー(水力発電や地熱発電、バイオマス発電など)が台頭する中、いよいよ化石燃料の事業環境の見通しは厳しくなってきたと言えるだろう。

コロナよりも脱炭素が痛手な理由

化石燃料事業の長期的な見通しが悪化したことは、石油関連銘柄の株価にとって重しとなる。なぜなら、ファイナンスの理論上、株価(厳密には株式価値)とは将来にわたって株主が得られる利益をぎゅっと凝縮したものとして計算されるからだ。

つまり、長期的な利益見通しの変化が株価を大きく動かし、不動産の売却益や火災による損失といった一時的・短期的な出来事は株価にさほど影響を与えない、というのが理論的な解釈となる。

では、株価に影響を与える長期的な要素(材料)をどのように見極めればよいのだろうか。上の基礎原則を、石油関連銘柄に当てはめて考えてみよう。

石油関連銘柄をとりまく2大要素──コロナと減産

まず、足元で株価を大きく動かしていた2大要素「コロナと減産協議」について。

新型コロナウイルスの感染者数は再拡大しており、いつ収束するのかの見通しは確かに不透明だ。しかし、過去の疫病問題の例や、足元で進むワクチン・治療薬開発を踏まえると、感染がもたらす影響が5~10年も続くとは考えづらい。

その点で、新型コロナウイルスの感染に伴う原油需要の縮小は、利益見通しに対し、「長期的」には大きな影響を与えなさそうだと見ることができる。

では、産油国における減産協議はどうだろうか。

原油価格は基本的に需要と供給のバランスで決まる。コロナ禍以前は、産油国による原油の大量供給を背景に、原油相場は軟調に推移していた。しかし、減産協議が進む中でその供給量を抑える動きが進んできており、需給バランスの調整から、原油相場も上昇する動きを見せている。

当然、原油価格が上昇すれば、石油関連企業の利幅は厚くなり、業績は拡大する。減産協議は短期的な期限付きのものではないので、この場合は長期的な材料といえそうだ。

脱炭素化で市場縮小は避けられない

最後に、非効率な石炭火力発電所の休廃止はどうだろうか。今回は政府主導で、今後は法制度も改定されていくこともあり、縮小の方向性は長期的に変わらないだろう。

それどころか、欧米での再生エネルギーの台頭を踏まえると、縮小化が加速する可能性さえ十分にある。グローバルレベルでの「脱炭素化」は、化石燃料事業にとって巻き戻されることのない市場縮小となりそうだ。

この点から、今回の件は長期的な材料であり、株価に与える影響は大きくて当然だといえる。

長期的材料が株価に与える影響

株式投資には、1日単位で売買したり、何年も買い持ちしたりと、保有するスパンに関連してさまざまなスタイルがある。しかし前述したように、株価は「企業または事業の長期的見通しの変化」に応じて大きく動く。

だが、以下のような構図がきっちりあるわけではない点に注意が必要だ。

  • 短期的材料 → 短期的株価変動
  • 長期的材料 → 長期的株価変動

確かに近年、石油関連銘柄の株価はハリケーンやテロ攻撃による産油の一時停止などの短期的材料で動くことが目立つ。だからといって、長期的材料が無視されているわけでは決してなく、長期的な材料を受けて株価がすぐさま大きく動くこともある。

特に、近年では欧米を中心にESG投資も普及している。ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの英単語の頭文字を組み合わせた用語で、ESG投資とは、投資先を選ぶうえで企業のこれら3要素に対する姿勢も評価対象とする手法のことを指す。

ESG投資が広まることで、株式市場で大きなプレーヤーである機関投資家は環境問題に直結する脱・炭素関連の話題により敏感に反応するようになっている。これを踏まえても、投資スタイルにかかわらず、長期的材料を意識することは重要ではないだろうか。

[執筆者]石津大希
石津大希
[いしづ・だいき]外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。
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