水素関連株は買い? 投資テーマとしての可能性と注意点を考える
《二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーとして、次世代での活用が期待される「水素」。株式市場でも重要な投資テーマとして注目を集めています。国内における水素事業の例を見ながら、その将来性やメリット、今後の課題について考えてみましょう》
株式市場でも注目の「水素」
世界的な脱炭素への取り組みの中、水素への関心が高まっています。株式投資の観点においても、水素は中長期で外すことのできないキーワードです。
経済産業省が2021年6月に発表した最新の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、水素は「発電・産業・運輸など幅広く活用されるカーボンニュートラルのキーテクノロジー」であると定義されています。
新たな資源と位置付けられる水素は、自動車用途だけでなく、幅広い分野への展開が期待されているのです。
そして、水素関連の技術開発では日本が先行しており、ヨーロッパや韓国など他国がこれに追随しています。このことも、水素が注目されている理由のひとつになっています。
水素はどこが優れているのか?
エネルギーとしての水素はどこが優れているのでしょうか?
まず、水素は燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出せず、水しか発生しないクリーンなエネルギーです。また、水素は地球上で最も軽く、密度の低い気体なので、大量に貯蔵したり、遠隔地へ輸送したりすることが可能です。
化石燃料と違い、水素はさまざまな資源から生成できるので、海外からの輸入に頼らざるを得ない日本のエネルギー事情を解決できる可能性も秘めています。
例えば、最近注目されているのが、太陽光発電や風力発電など、供給が不安定な再生可能エネルギーの余剰電力を水素に変換して貯蔵する「Power-to-Gas」という方法です。
ほかにも、水素エネルギーの利用方法は幅広く、水素発電や定置用の燃料電池、FCV(燃料電池自動車)、水素還元による製鉄などあらゆる分野での活用が期待されています。
トヨタもホンダも水素に参入
FCVの分野では、トヨタ自動車<7203>が2014年にはフラッグシップモデルとなる「MIRAI」を発売し、2017年には燃料電池バスの「SORA」の販売を始めました。SORAは東京駅〜等々力操車所間に定期運行バスとして走行しています。
このほか、本田技研工業<7267>や韓国の現代自動車もFCVを市場投入しています。
FCVのメリットは長い走行距離。脱炭素への取り組みで同じく市場が急速に伸びている電気自動車(EV)はガソリン車に比べて走行距離が短いことと、電池の充電に時間がかかる点が最大のネックとなっていますが、FCVは800キロ〜1000キロにも及ぶ長距離走行が可能です。
また、ガソリンの給油と同様に、水素の充填にはさほど時間がかからないことも利点と言えます。
水素が天然ガスに変わるエネルギーになる?
さらに水素は、発電所のエネルギー源としても極めて有望です。なぜなら、水素は燃やしても二酸化炭素が排出されないので、炭素排出量の多い発電所で天然ガスの代替エネルギーとなり得るからです。
ただし、水素は天然ガスに比べ、(1)発熱量が小さい、(2)燃焼速度が早い、(3)燃焼温度が高いという特性から、バックファイアという異常燃焼が発生しやすいといった課題があります。
これを解決する手段のひとつが、天然ガスと水素を混ぜて使用する「水素混焼」です。製鉄所などでは鉄の製造過程で水素を含んだガスが大量に生産されることもあり、水素混焼発電の技術開発が進んでいます。
水素のデメリットと課題
一方、水素のデメリットはコストの高さです。すでに大量のインフラが整っている天然ガスやガソリンに比べて、水素はまだまだコストの面では割高といえます。
現行の水素のコストは、およそ〜100円/Nm3(ノーマルリューベ=ガス量の単位)。前掲の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、2030年までに30円/Nm3、2050年には20円/Nm3と、現行の5分の1以下に抑える目標が掲げられています。
そのためには、水素のインフラを整えて、規模のメリットを活かすことが不可欠です。
しかし、ガソリンスタンドを新たに設置するコストはおよそ1億円であるのに対して、水素ステーションはおよそ5億円(国や自治体からの補助金があるので事業者の負担はもっと少ない)と高額で、年間の管理費用も4000万円前後と高額です。
トヨタのFCV「MIRAI」の販売価格もおよそ700万円〜と高額で、補助金などを差し引くと400万円程度となりますが、それでもガソリン車やハイブリッド車に比べると高いことには変わりがありません。
水素の輸送方法は発展途上
また、大量の水素を輸送する方法についても候補はいくつかありますが、現状では一長一短があります。
例えば、マイナス250℃の超低温で液体にして運ぶ方法は、気体に比べて大量の水素を一度に輸送できるので、タンカーやタンクローリーでの輸送に向いています。しかし、コストは気体輸送に比べて高くなる点がネックとなります。
都市ガスのように地下にパイプラインを敷設する方法も検討されていますが、大掛かりなインフラ整備が必要となります。
現状では、トラックなどによる高圧ガスタンクでの輸送が広く利用されています。ただし、こちらも安全面の強化、ガス圧縮機などのコスト削減が今後の課題となりそうです。
投資テーマとして見る水素
このような現状を踏まえて、個人投資家はどのように水素という投資テーマに向き合っていくべきでしょうか。水素関連で期待されている銘柄は多々ありますが、なかでも物色の柱とも呼ぶべき岩谷産業<8088>を例に見てみます。
・岩谷産業<8088>
岩谷産業の株価チャート(月足)は長期でのゆるやかな上昇トレンドを描いています。
水素関連は早くから投資テーマとして注目されてきたほか、足元の脱炭素の機運の高まりが株価を押し上げています。また、環境・社会・企業統治に着目した「ESG投資」の資金も流入しており、買いに拍車が掛かっているようです。
岩谷産業は、LPガスやカセットコンロ、ガス機器などでは国内トップクラスです。高圧・低温のガスの取り扱い技術に強みをもち、水素・液化水素・ヘリウムなど特殊ガスの取り扱いではいずれも国内1位。
また、1941年から水素販売を始めたパイオニアであり、日本の水素インフラの構築には岩谷産業の力が欠かせません。
さらに、2014年には兵庫県尼崎市に日本で初めての商用水素ステーションを開設しました。2021年3月末時点で、国内外で岩谷産業が運営する水素ステーションは57か所ですが、2024年3月末にはこれを106か所に増やす取り組みを推進しています。
水素が収益に貢献するのはまだ先?
もっとも、岩谷産業の足元の業績を支えているのはLPガスなどの総合エネルギー事業です。2021年3月期の事業概況によると、売上高6355億円のうち総合エネルギー事業の比率は46.6%、営業利益299億円のうち52.7%と約半分を占めています。
(「2021年度 岩谷産業株式会社 事業概況」より)
これに対して、水素の売上高は産業ガス・機械事業の中に含まれますが、2021年3月期はおよそ150億円程度と全社売上高の約2%程度に留まっています。今後は水素ステーションなどへの投資も見込まれるため、水素関連の収益が貢献するタイミングは当面先と見られます。
岩谷産業のほかには、大手商社や石油元売り大手のENEOSホールディングス<5020>、三菱重工業<7011>なども、将来の事業化を狙って海外でのM&Aや技術開発を進めています。
水素は中長期のテーマ
水素に関しては将来の収益化や脱炭素に関する期待が先行し、実用にはまだまだ課題が多いのが現状です。最も大きなネックとしてコストが割高であることが挙げられ、現状では天然ガスなど化石燃料に歯が立ちません。
しかしながら、日本企業の投資や事業に大きな影響を与えるファクターであることは間違いなく、政府・自治体は補助金などにより企業の投資を促す政策を進めています。いわゆる「国策テーマ」として、株式市場でも引き続き期待されるでしょう。
今後、水素の課題を解決する技術や製品などのニュースが報じられた場合には、株価の材料として資金が向かうことも考えられます。また、水素の事業化に対する進捗度合いも投資家の関心となりそうです。
いずれにしても、水素は中長期で大きな投資テーマとなるため、短期的な結果は求めず、じっくり腰を据えて水素と向き合うことが肝要です。