東証が変わる! 新たな3つの市場と市場再編が与える影響、あえてスタンダードを選ぶ企業の事情とは
東証が新しく生まれ変わる
東京証券取引所の市場区分の変更(再編)が4月4日に迫っています。
現在の東証には、流動性が高くメイン市場ともいうべき市場第一部(東証1部)、新興企業向けの東証マザーズとジャスダック(スタンダード、グロース)、そして市場第二部(東証2部)という大きく分けて4つの市場があります。
これは、2013年に東証と大証(大阪証券取引所)が統合した時期からのものです。
この市場区分に対しては、「上場維持の審査基準が緩いため、企業が持続的に企業価値の向上を目指す動機づけとして弱い」「ジャスダックやマザーズ、東証2部を比較してもコンセプトが曖昧」といった指摘も多く、区分を見直して現状に即した形とすることが今回の再編の狙いとされています。
新たな3つの市場区分
今回の市場再編によって、4月からは新たに設けられるプライム市場、スタンダード市場、グロース市場という3つの市場で取引が行われることになります。
・プライム市場
プライム市場は、上場基準の最も厳格な、大型企業をターゲットとした市場です。株主数800人以上、流通株式の時価総額100億円以上、最近2年間の利益合計が25億円以上または売上高が100億円以上、かつ時価総額1000億円以上などの基準が設定されています。
今回の市場再編において、株式取引の円滑な流通や公正な価格形成を目的として、これまでよりも重視されている流通株式比率は、プライム市場では35%以上が必要になります。
流通株式比率とは、市場で取引されている流動性のある株式の比率を差し、全上場株式数から「上場株の10%以上を保有する大株主」「自社株」「役員などの持ち株」を引いた株式の割合です。
・スタンダード市場
スタンダード市場は、プライム市場に次いで高い上場基準を有し、従来の東証1部や東証2部の中小型株のほか大型の新興株などが対象と見込まれています。
コンセプトは「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えた企業」のための市場となっています。
・グロース市場
グロース市場は,3市場の中で上場基準が最も緩く、高い成長性を有しながらも事業の実績の観点からは相対的にリスクが高いと見られる新興企業を対象とした市場です。
再編で東証はどう変わる?
2021年9月から12月にかけて、東証はすべての上場企業に対して、再編後にどの市場での上場を希望するかの申請手続きを求めました。
その申請によると、その時点で東証1部に上場していた2,185社のうち、プライム市場への移行を希望したのは1,841社、残りの344社はスタンダード市場を希望しました。スタンダード市場への移行希望では合計で1,477社、グロース市場には459社が上場する予定となっています。
今回の再編に関しては、プライム市場のコンセプトである「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」をより明確にするため、流通株時価総額などの上場要件をもっと厳格にするべきではないかといった意見もありました。
結果として、東証1部の8割以上にあたる1,800社あまりがそのままプライム市場に残るのでは、本格的な再編にならないのではないか、との厳しい意見もあります。
大きく変わるのはTOPIX
プライム市場に上場するか、それともスタンダード市場に上場するか──。将来的に大きな違いが出てくるのは、TOPIX(東証株価指数)の投資対象か否かという観点です。TOPIXとは、東証1部に上場する全銘柄を対象として算出される株式指数です。
ただし、4月の市場再編と同時にTOPIXの算出対象が「東証1部」から「プライム市場」に変わるわけではありません。現在TOPIXに採用されている企業は、これまでの実績や指数としての継続性などを考慮して、市場再編後もひとまずTOPIXに組み入れられます。
ただし、流通株式の時価総額が100億円未満の企業については、2025年1月までに段階的にウエイトの見直しが行われます。要するに、少しずつ構成比率が下がっていき、最終的にはTOPIXから除外されます。
プライム上場を目指して
ここでポイントになるのが「上場維持基準に向けた計画書」です。この計画書は、新市場の上場基準を満たしていなくとも、緩和された基準を満たしていれば当面は上場が認められる、という救済措置を受けるための免罪符のようなものです。
現時点では、東証1部に上場している企業のうちおよそ600社はプライム市場の基準を満たしていませんが、そのうちの300社は、この計画書を提出してプライム市場に上場する見込みです。
計画書を提出することで、投資家に対して、どのような道筋で流通時価総額や株主数、業績を改善するのかを明確に示すことができるというメリットもあります。プライム上場に意欲的な企業は、すでに大株主による株式の売出や自己株式の処分、持ち合い株式の解消、増配、成長戦略の提示などのアクションを行っています。
ただし、この計画書には現時点で期限が設定されていないことから、実効性について疑問の声もあります。実際に改善が進んでいない企業に対しては、むしろ市場はネガティブに反応しそうです。
自分の投資先企業が東証再編に際してどの市場に上場する予定になっているか、プライムの上場基準を満たしているかなどについては、事前にしっかりと確認しておきたいところです(企業ホームページの「投資家情報」「IR情報」などからニュースリリースを探します)。
それでもスタンダードを選ぶ理由
とはいえ、東証1部上場企業のすべてが、プライム市場への移行を望んでいるわけではありません。なかには、プライム市場への上場基準を満たしているにもかかわらず、自社の意思でスタンダード市場への上場を選択した企業もあります。
あえてスタンダード市場を選ぶ理由としては、「プライム市場に求められる情報開示などのコスト」のほか、「国内事業をメインとしており、すでに知名度もあって財務的にも不安がない」などが挙げられます。
・エバラ食品工業<2819>
実際に、プライム上場の基準を満たしながらも意図的にスタンダード市場への上場を選択したエバラ食品工業<2819>を見てみましょう(参照:2021年12月13日ニュースリリース「新市場区分における「スタンダード市場」の選択申請に関するお知らせ」)。
ここには、あえてスタンダード市場を選択した理由として、「いずれの市場を選択しても、持続的な成長とコーポレート・ガバナンス体制の強化を通じて中長期的な企業価値向上に取り組むという当社の基本方針は変わるものではない」とあります。
さらに「プライム市場を選択した場合に求められる基準の中には、更なるコストや労力を要する点があり、当社自身の規模を踏まえた上で、限られた経営資源を新たな価値を創造する商品やサービスの開発とそれを実現する組織・人材の活性化に振り向けることが企業価値向上に資すると考える」として、経営資源の方向性を明確化しています。
また、2021年6月末の移行基準日ベースでは売買代金に関する基準をかろうじて満たしたものの、安定的・継続的に充足する状態ではない点も理由に挙げ、投資家が安心して売買・保有できる環境を重視した、と説明しています。
エバラ食品工業の株価はその後、食品を含むディフェンシブ株の再評価によって下落する局面もありましたが、堅調な推移となっています。少なくとも、スタンダード市場を意図的に選択しつつ、その背景についてきちんと開示している点は、一定の投資家の評価を得られたのではないでしょうか。
東証改革は始まったばかり
4月で市場区分は変更されるものの、東証の市場改革はまだ始まったばかりで、その枠組みについては今後も変更される可能性があります。
2022年10月には、TOPIX構成銘柄の2回目の判定が行われ、流通株式時価総額が100億円未満の企業は組み入れ比率が段階的に削減されます。当落線上の企業にはマイナスインパクトとなりそうです。
マザーズ指数などについては、急に算出を取りやめると機関投資家の運用やETFなどに与える影響が大きいため、しばらく算出は継続される予定です。そのため、「市場はないのに指数はある」という不思議な事態が生じそうです。
4月に再編が実施された後も、東証の市場改革の動きはウォッチしておきたいところです。