ホームランは出たが4割が公募割れ… 明暗の分かれた6月のIPO市場を振り返る
《株価が6倍にもなった話題の銘柄もあった一方で、実に4割の銘柄が公募割れに……。IPOの明と暗がくっきり分かれる形となった6月のIPO市場をランキングで振り返ります》
2022年5・6月のIPO市場
5月のIPOは1社に留まりました。しかし6月は、一転して12社が新規上場し、IPOの数では今年最大となりました。例年、5月のゴールデンウィークで年間IPOの前半戦は一区切りとなりますが、今年も例年通りの推移を見せています。
ただ、新興市場の動向を示すマザーズ指数は、6月の月初から終値にかけて11ポイント安。月足で見ると、実体(陰線)が短く上下にヒゲのあるローソク足で、それほど大きな値動きは生じなかったことがわかります。若干ながら年初来安値も更新しており、依然として新興市場の低迷は続いています。
※東証再編によって東証マザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は継続中のため、このシリーズでは引き続きマザース指数を参照しています。
2022年5~6月のIPOランキング
5月と6月にIPOを果たした計13銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率」のランキングで見てみましょう。
13銘柄のうち、初値騰落率が100%(=株価2倍以上)を超えた銘柄は2銘柄でした。うち1銘柄は5月にIPOしたトリプルアイズ<5026>の150%。5月は1社のみのIPOに資金が集中した、と考えることもできます。
一方、公募割れは5銘柄となり、比率にすると約4割です。この数字も、マザーズ指数とともに新興市場の低迷を示しているといえるでしょう。
2022年5~6月の気になるIPO銘柄
2022年5~6月のIPOの中から、特徴ある2銘柄を紹介します。
・ANYCOLOR<5032>──初物好きのIPO市場を潤わせたホームラン
6月のIPOの話題といえば、VTuberグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLOR<5032>は外せません。
2017年5月設立、約5年で急成長(2021年4月期の売上高76億円、経常利益14億円)した同社は、初のVTuber特化型銘柄として株式市場デビュー。初物好きのIPO市場から高評価を受け、1,530円の公募価格に対してついた初値は4,810円。初値騰落率は214%となり、公募価格から3倍以上になりました。
さらに、IPO後に開示された2022年4月期決算は、売上高141億円、経常利益41億円とさらに成長しており、当期決算も増収増益予想を発表したことで、一部で心配されていた2021年4月期ピークアウト説を一蹴。
その結果、株価は6月16日に9,200円まで上昇し、一時的にフジテレビ(フジ・メディア・ホールディングス<4676>)の時価総額を超えたとして話題になりました。公募価格からは6倍以上の上昇です。
公募価格1,530円、初値4,810円、IPO後の高値9,200円。多くの投資家を潤すホームラン銘柄となりました。それと同時に、東証グロース市場において時価総額ランキング上位(一時的には第1位)にランクインし、早くも市場を代表する銘柄になっています。
・ヌーラボ<5033>──強気の価格設定と売出株の多さが裏目に
ヌーラボ<5033>は、プロジェクト管理ソフト「Backlog」などのクラウドサービスの開発・提供を手がける企業です。SaaS型のビジネスモデルであり、人気化する要素を持った銘柄でした。
しかし、初値騰落率はマイナス4.5%の公募割れで着地(公募価格1,000円→初値955円)。その後も株価下落が継続中しています(6月30日の終値806円)。
同社の決算状況を見てみましょう。
- 2022年3月期:売上高23億円、経常利益1.6億円、当期純利益1.9億円、EPS33.31円
- 2023年3月期(予想):売上高27億円、経常利益0.8億円、当期純利益0.8億円、EPS12.31円
公募価格の1,000円は、予想PERで81倍、実績PERでも30倍となり、かなり強気の株価設定といえます。ただ、公募株が510,300株だったのに対して売出株が1,047,700株もあり、クラウドやSaaSというIPOの旬のテーマではありましたが、結果として、この強気が裏目に出る形となりました。
猛暑のIPO市場はどうなる?
2022年のIPO市場も後半戦に突入し、6月には12銘柄のIPOがありました。件数が回復し、ANYCOLORというホームランも出たものの、もう一方には、4割が公募割れに終わったという現実もあります。新興市場の低迷もあり、人気化する銘柄は限られているのです。
ヌーラボの例からもわかるように、IPO市場が好むテーマ・業種の銘柄であっても、公募価格の検証や、公募株と売出株の比率の確認といった基本的な作業は不可欠です。
また、7月や8月は例年IPOの件数が少なく、今年も7月は4社に留まる予定です。かつてのような「IPO銘柄なら何でも上がる」という状態には戻っておらず、IPO投資でも投資家の目利き力が問われる状態が続いています。