成長株が買い戻され、冬到来で買われた株も。それでも株価がお寒いのは?【今月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》
11月相場の牽引役となった銘柄たち
11月の日経平均株価は、バブル後の高値圏までの戻りを見せる強い展開となりました。
これまで成長(グロース)株の売り要因となっていたアメリカの長期金利上昇が落ち着き、金利が低下。日米ともに成長株が買い戻され、日経平均株価は20日に7月の年初来高値を上回る場面があり、その後も高値圏で推移していました。
7〜9月期の決算発表も上旬までに一巡し、円安や値上げ、自動車生産の回復など、総じて日本企業の業績の底堅さが確認されたことも、日本株への資金流入につながりました。結果、11月の日経平均株価は前月末に比べて2,628円高、5か月ぶりの大幅上昇となりました。
こうした中で、高値を更新して相場の牽引役となったのは、どのような銘柄でしょうか? 新高値をつけた銘柄、そして新安値の銘柄も取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、11月相場で特徴的だった銘柄をひもといていきたいと思います。
・高値更新とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
資金が向かった先は、やはり半導体
アメリカの長期金利の低下などを受けて日経平均株価の上昇を牽引したのは、半導体関連など値がさのハイテク株です。決算発表シーズン中に生成AIなどに使う半導体の需要の伸びを受けて、米インテルやエヌビディアなどの決算が市場予想を上回った点も評価されています。
半導体製造装置の世界大手である東京エレクトロン<8035>は24日に、分割調整後の上場来高値となる24,480円を付けました。今期(2024年3月期)は大幅減収減益の予想ですが、市場の目線は来期以降の業績回復を織り込みに行っています。
また、半導体洗浄装置のSCREENホールディングス<7735>も30日に、分割調整後の上場来高値10,805円を付けています。
半導体関連では中小型株も買われる展開になっています。材料となるシリコンウエハーなどの搬送装置のローツェ<6323>や、製造工程で使われる超純水装置の野村マイクロ・サイエンス<6254>も、そろって30日に上場来高値を更新するなど、マーケットの関心の強さがうかがえます。
売られていた成長株に買い戻し
11月は、金利低下で売られていたグロース(成長)株が買い戻されました。金利が低下すると企業が資金を調達しやすくなり、成長企業にはプラスに働きます。また、投資家の側からするとリスク許容度が増えるため、将来の成長に期待して株を買いやすくなるからです。
加えて、金利が低下すると、固定金利である債券よりもリスクはあるものの配当や値上がり益を期待できる株式の魅力が、相対的に高まります。小型成長株が上場する東証グロース市場の主要銘柄からなる「東証グロース市場250指数」は、10月の安値632ポイントから11月末までに10%以上戻っています。
ちなみに、東証グロース市場250指数の旧名は「東証マザーズ指数」で、まだこちらになじみがある方も多いでしょう。2022年の東証再編でマザーズ市場は廃止となりましたが、指数の連続性を持たせるために11月5日までマザーズ指数として算出されていました。
Vチューバーのマネジメント会社であるカバー<5253>は30日に上場来高値3290円を付けました。足元の業績は好調で、国内外でのライブ・コンサートの拡大やグッズ販売などが伸びています。東京駅の「東京キャラクターストリート」で期間限定ショップを出店するなど、リアルでの展開も進めています。
企業向けにクラウドサービス、プロジェクト管理ツールを提供するヌーラボ<5033>も30日に上場来高値を更新です。
東証プライム市場の成長株では、ソフトのデバッグやテストを行うSHIFT<3697>が大きく上昇し、30日に上場来高値を更新しました。17日には、人間ドック・検診予約サイトのマーソ<5619>と資本業務提携を発表するなど、M&Aを活用したサービスの拡充に取り組んでいます。
冬到来で再評価されたアパレル
2023年は記録的な暑さが続き、アパレル株は利幅の大きい冬物商品の売れ行きが心配されていました。しかし、11月中旬以降は寒気が流れ込み、一転して冬到来の気配となったことから買われました。また、セールの手控えや値上げなどにより利益率が改善するとの期待も出ています。
衣料品のしまむら<8227>は29日に上場来高値17580円を更新。24日に発表した11月度の月次売上速報で、既存店売上高が4.3%増と3か月ぶりのプラスに。気温が急低下したことで、アウター衣料と実用品の初冬物や冬物の売り上げが伸び、なかでも「ファイバーヒート」などが好調でした。
女性カジュアル衣料のアダストリア<2685>は、29日に年初来高値3905円を付けています。2日に発表した10月の既存店売上高は5%増で、前月の0.4%増から改善。秋冬向け素材のパンツやプルオーバーのニットなどが人気で、ロングブーツや厚底ブーツ、ブランケットなども伸びました。
日経平均が高値圏でも安値更新の銘柄
全体相場が強い中でもまだまだ物色の蚊帳の外となっている銘柄も多いのが現状です。航空券予約サイトのエアトリ<6191>の株価は下落トレンドが続いており、30日に年初来安値を更新しました。
14日に発表した2023年9月期本決算は70%の増収、営業利益は7%の増益でした。しかし、今期(2024年9月期)の売上高は12%増(260億円)を予想しており、伸び率が鈍化する見通しです。
また、将来に向けた投資や新規事業の立ち上げなどを控え、利益項目については予想を非開示としていることも、投資家に嫌気されている状況です。
ITフリーランス人材のマッチングサービスなどのギークス<7060>も30日に458円の安値を付け、上場来安値圏に沈んでいます。国内海外ともにIT人材と企業のマッチングは順調に推移しているものの、ゲームの開発部門での受注が先送りなったことが業績の重荷になっています。
「信長の野望」「三國志」などの歴史ゲームに強いコーエーテクモホールディングス<3635>も同じく30日に年初来安値を更新しました。4~9月期の売上高は14%の増収でしたが、営業利益は24%の減益でした。開発費の高騰や大型タイトルの不在で、ゲーム株はやや株価の出遅れが目立ちます。
さらに、資生堂<4911>などの化粧品株も株価の低迷が続いています。資生堂は10日に今期(2023年12月期)の業績予想を下方修正しました。
中国の景気減速やALPS処理水問題に対する反発で、中国向けの売上高が大きく低迷しています。日本と欧米向けは伸びているものの、中国向けは売上高の構成比のうち多くを占め、日本向けとほぼ同じ規模の主力市場であることから、業績への影響が避けられない格好となっています。
個別銘柄から相場の体温を計る
日経平均株価はバブル期以来となる33年ぶりの高値圏で推移し、年末高、いわゆる「掉尾の一振」への期待も高まっています。ここで紹介したように、様々な銘柄が個別の材料で売り買いされ、意外な銘柄が新高値・新安値となっています。
こうした銘柄の値動きに目を向けると、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの指数とはまた違った「相場の体温」が伝わってくるのではないでしょうか。