夏のインバウンド祭りに、ディフェンシブ株の活況 その裏ではあの成長株にも逆風が【今月の高値更新】

佐々木達也
2023年9月6日 15時00分

beeboys / Adobe Stock

《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》

8月の日本株は夏枯れムードとなりました。日経平均株価は7月末に比べて552円安となり、2か月連続の下落となりました。

7月下旬からの決算発表シーズンは無事通過したものの、8月に入り、日本株の売買はやや細り気味となりました。これまで日本株を先導していた値がさ株や半導体株にも利益確定の売りが入り、主役不在の相場が続いたことが要因です。

一方で、アメリカではジャクソンホール会議など注目のイベントを通過し、金利の上昇も一服。アメリカ株も持ち直す中で、日本株にも押し目買いが入りました。

こうした中で、高値を更新して相場の牽引役となったのは、どんな銘柄だったのでしょうか? 新高値と、あわせて新安値の銘柄も取り上げながら、それぞれの共通点に着目し、8月相場の特徴をひもときます。

・「高値更新」とは?

相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。

【株価の高値更新】
  • 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
  • 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
  • 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象

夏のインバウンド祭り

8月の前半は、インバウンド関連銘柄に脚光が当たりました。10日に中国政府が、それまで新型コロナウイルス感染症対策として停止していた日本への団体旅行を解禁したことがトリガーとなりました。中国からの旅行者は日本での消費額が相対的に多いこともあり、コト消費や高額消費などの活性化にも期待が広がりました。

訪日外国人向けの旅行・ツアーのHANATOUR JAPAN<6561>は17日に年初来高値2743円を付けました。

また、宝飾品やブランド品などの高額消費のさらなる増加期待で、百貨店の高島屋<8233>、エイチ・ツー・オー リテイリング<8242>(阪急百貨店など)、三越伊勢丹ホールディングス<3099>、J.フロント リテイリング<3086>(大丸松坂屋など)も年初来高値を付けるなど、投資家の関心度合いが見て取れます。

14日には、「ルタオ」などの有名ブランド菓子を手がける寿スピリッツ<2222>も新高値を付けました。

しかしながら、その後は、東京電力の福島原発第一原子力発電所から出た処理水を海洋放出したことに対して、中国側からの抗議によりツアー予約がキャンセルなどの報道があり、利益確定の売りが入っている状況です。

もっともインバウンドに関しては、中国からの団体旅行解禁の前から、高額消費やコト消費などはアジア・欧米からの観光客で賑わいを見せていたこともあり、処理水をめぐる騒ぎが落ち着いてくれば、再度の新値追いもあるかもしれません。

不動産・製紙・電力が買われた理由

8月後半にかけては、不動産株など内需・ディフェンシブ株の上昇が目立ちました。中国の景気不安などが広がる中で、これまで出遅れていたディフェンシブ株に関心が向かっています。

(参考記事)成長株か、割安株か。あわせて考えたい「シクリカル株」「ディフェンシブ株」とは

日銀の金融正常化が遠のく……との観測も、金利に敏感な不動産株が買われる理由のひとつです。

7月末に開催された金融政策決定会合で、日銀は長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の運用の柔軟化を決定しました。それが同時に、「日銀は当面は現在の金融緩和を継続する」と受け止められたこともあり、長期金利の上昇にも一服感が出たことも買い材料となりました。

総合不動産大手の三井不動産<8801>は30日に年初来高値3217円、三菱地所<8802>も31日に年初来高値1872.5円を付け、9月に入ってもさらに上昇中です。これら大手不動株については、3月の記事で安値更新銘柄として紹介したように、今年の前半に出遅れていた分、循環物色による資金が入ってきています。

中小型の不動産株も賑わっています。富裕層向け投資物件を扱うレーサム<8890>は23日に年初来高値3415円を付けました。大和ハウスグループでマンションや都市型ホテルを手がけるコスモスイニシア<8844>、不動産投資のヒューリック<3003>も年初来高値となるなど、先高感の強い株価推移です。

不動産のほかには、製紙株にも資金が向かいました。原材料高が一服していることに加え、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が割安な銘柄が多く、内需・ディフェンシブのバリュー株として買われています。

国内製紙メーカーでトップの王子ホールディングス<3861>は、29日に年初来高値606.9円を更新しています。製紙大手の大王製紙<3880>も14日に1274.5円の高値を付け、年初来高値となりました。

電力株もまた、こうした相場で買われやすい傾向にあります。

関西電力<9503>は31日に年初来高値2081.5円を付けました。原発再稼働や法人向けの値上げなどによって業績改善が見込まれるとの期待もあります。中部電力<9502>も同じく31日に、東京電力ホールディングス<9501>は29日に、ともに年初来高値を上回り強い値動きとなっています。

ジェネリック薬品株の反転上昇

そのほか8月は、ジェネリック薬品関連株が買われました。

ジェネリック薬品大手の東和薬品<4553>は、29日に年初来高値2899円を付けました。同業大手のサワイグループホールディングス<4887>もこの日に年初来高値4600円を更新しています。17日に厚生労働省がジェネリック薬品の新たな普及目標を検討していると報じられ、翌日から短期資金などが向かいました。

ジェネリック薬品株を巡っては、薬価引き下げによる収益減や日医工<4541>の品質不正問題などもあり、株価は中長期で下落トレンドが続いていたことも、今回の反動につながっています。

逆風にさらされた成長株

これら高値更新銘柄の反対側で、コロナ禍などが追い風となっていた成長企業が業績の“踊り場”となっているケースでは、投資家は厳しい目線で評価しています。

アウトドア用品のスノーピーク<7816>は、密を避けるためのアウトドアブームや高価格帯のブランドイメージ向上で人気となった銘柄ですが、2022年以降は成長一服で株価は下落トレンドが続いていました。そして、8月10日に2023年12月期の業績予想を下方修正し、株価はその後、18日に年初来安値1426円を付けました。

業界全体で需要が思ったほど伸びず、小売店などの在庫が積み上がっています。また、海外を中心にアウトドア以外のレジャー需要が回復していることも苦戦につながりました。

有機野菜などの宅配を手がけるオイシックス・ラ・大地<3182>も、コロナ禍で宅配ニーズが伸びた反動で、現在は成長が鈍化しています。商品の値上げもあり、インフレによる消費者の節約志向で解約も増えている中で、株価は28日に年初来安値1622円を付けました。

「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」など人気ゲームを擁するスクウェア・エニックス・ホールディングス<9684>は、8月4日に発表した4~6月期の営業利益が30億円と、実に79%減の大幅減益。大型タイトルの発売などで売上高は14%増収だったものの、ゲームの開発費用がかさみコスト増を補えませんでした。

株価はその後急落し、10日に年初来安値5287円を付けました。6月の高値7566円から約30%下落しています。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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