一年の最後に高値更新したメーカー勢と、2023年相場で買われた株・売られた株
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。その記録を新たに更新することは、“伸びしろ”の表れかもしれません。直近で高値更新を果たした銘柄から、いまの相場の流れを読み解きます》
年末相場の牽引役となった銘柄たち
2023年12月の日経平均株価は、高値圏で一進一退の展開となりました。日米の金利低下を背景にグロース(成長)株が買われた一方、年末で休暇に入る市場関係者も多く、前月末に比べて22円安と、2か月ぶりの小幅反落でした。
こうした中で、高値を更新して相場の牽引役となったのは、どのような銘柄だったのでしょうか? 2023年最後の月に高値更新をした銘柄の共通点を探りながら、あわせて、新安値をつけた銘柄についても取り上げ、相場の空気を読み解いていきます。
・高値更新とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
電気機器株の一角に買い
- 村田製作所<6981> 年初来高値(12/29)
- 京セラ<6971> 年初来高値(12/29)
- 富士通<6702> 年初来高値(12/12)
コンデンサーなどの電子部品を手がける村田製作所<6981>は、12月29日に年初来高値3033円を付けました。近年ではスマートフォン・PC向けの低迷で株価が出遅れていましたが、足元では在庫調整が進み、中国などの市況が2024年にも底入れするという期待もあり、株価は戻りが続いています。
京セラ<6971>も、同じく12月29日に年初来高値2080円を付けました。26日に長期保有の株主に対してカタログギフトなどがもらえる株主優待制度を新たに設定したことも、プラス材料となりました。
また、2026年3月期までに売上高2000億円規模の電子部品・工具メーカーを買収する方針、との報道があり、こうしたM&Aによる事業規模の拡大も期待につながっていそうです。
富士通<6702>は12日に年初来高値の22365円を付けています。注力するITサービス関連の事業が伸びているほか、傘下の新光電気工業<6967>について、親子上場解消のため持ち株を産業革新投資機構に売却する、と発表したことも材料となっています。
株主の投資ファンドなどは長年、同社に対して、新光電気工業の半導体パッケージ事業とのシナジー効果が薄いとして事業売却を提案していました。このほど、それが実現することになり、経営資産の効率化につながるとして評価されています。
金利上昇期待で損保株に買い
- SOMPOホールディングス<8630> 年初来高値(12/12)
- 東京海上ホールディングス<8766> 上場来高値(12/12)
損保大手のSOMPOホールディングス<8630>と東京海上ホールディングス<8766>は、ともに12月12日に年初来高値(東京海上は上場来高値) を付けました。
12〜13日にアメリカでFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、一部の市場関係者の間で、FRBが金融政策に対してタカ派的な見通しを示す(=金利が上昇する)のではないか、との期待で買われていたようです。
しかし結果は、金融政策を緩和する方向(ハト派的)の内容となりました。そして、日本でその後18~19日に開催された日銀の金融政策決定会合でもサプライズはなく、利上げに対して慎重な姿勢が示されたこともあり、高値を付けていた損保株にも利益確定の売りが入りました。
2023年に買われた株・売られた株
ここからは、2023年の1年間で「買われた株・売られた株」を見ていきましょう。
2023年の大納会12月29日の日経平均株価は、終値33464円で幕を閉じ、2年ぶりの大幅な上昇となりました。2022年末と比べた上昇率は28%で、これは、アベノミクスがスタートした2013年の57%に次ぐ大きさとなっています。
2023年の日本株は、円安による輸出企業への追い風、自動車生産の回復、著名投資家ウォーレン・バフェット氏によるバリュー株買い、東証のPBR改革……といった好材料が出そろった結果、3月から6月にかけて上昇が続きました。
これらの材料は海外投資家に好まれるものが多く、海外からの投資が日本株上昇の牽引役となりましたが、その後は30000円から33000円のレンジ相場が続き、年間としては底堅い展開でした。
こうした中で大きく買われたり、大きく売られたりしたのは、どのような銘柄だったのでしょうか?
飛躍して、ついに花咲く
東証プライム市場で2023年に大きく買われた銘柄のひとつが、さくらインターネット<3778>です。株価は2022年末に比べて4.4倍になりました。
自治体がもつ個人情報などを管理する政府クラウドの選定で、デジタル庁が同社を新規にクラウドサービスの提供事業者として選定する、と報じられたことが材料となりました。従来はアマゾンやマイクロソフトなどの米IT大手のみが選定されており、日本企業では初の選定でした。
半導体株も、2023年は飛躍の年となりました。生成AIの普及が本格化する中で、メモリーなどの在庫調整も進み、日米の金利低下も相まって、グロース・ハイテク株に買いが向かいました。半導体を洗浄するための超純水の製造装置を手がける野村マイクロ・サイエンス<6254>の株価は、3.6倍に大幅上昇。
半導体の洗浄装置のSCREENホールディングス<7735>も、2.8倍と大きく上昇しました。さらに、半導体を切ったり磨いたりする切断・研磨装置のディスコ<6146>も、同じく株価が2.8倍になっています。
鉄鋼株も買われました。東京鐵鋼<5445>は、 2022年末から2.9倍に値上がりしました。神戸製鋼所<5406>も2.8倍の上昇です。鋼材の市況が悪化する中で在庫調整が進みつつあることや、自動車メーカーの生産が回復して自動車向け鋼材の需要増の期待が広がったことも、買い材料となりました。
また、鉄鋼株などの景気敏感株の中には、解散価値であるPBR1倍割れ銘柄が多く、バリュー株志向の投資家の買いが入ったことも株価上昇につながりました。
そんなバリュー株物色では、出遅れ・割安の証券株も買われ、丸三証券<8613>や水戸証券<8622>、 岡三証券グループ<8609>などの中堅証券が2022年末から比べて大きく株価が上昇しています。
コロナ禍の反動を受けて
東証プライム市場の中で大きく売られた銘柄のひとつは、アウトドア用品のスノーピーク<7816>です。2022年末から61%も下落しました。
2023年は、記録的な猛暑や複数回の台風でアウトドア需要が低迷したほか、コロナ禍で盛り上がったキャンプブームなども落ち着きを見せました。また、台湾やアメリカなどでも在庫調整が続いた影響で、当期(2023年12月期)は減収・減益の見通しとなっていることも株価の低迷につながっています。
オンライン会議ツールなどのブイキューブ<3681>も、コロナ禍で盛り上がったオンラインのコミュニケーションツールの反動減が続いており、株価は55%安です。
電力小売りのイーレックス<9517>の株価は64%下落。日本卸電力取引所(JEPX) のスポット電力の市場価格が想定よりも低く推移し、売上高が減少しました。その一方で、電力不足を見越して外部の事業者から割高に電気を調達した結果、逆ざやが発生し、業績悪化につながりました。
インバウンド(訪日外国人)関連の一角も下落しています。自動翻訳機の「ポケトーク」やセキュリティーソフトを手がけるソースネクスト<4344>の株価は、47%の値下がりとなりました。
同社は、11月14日に今期(2024年3月期)の業績予想を下方修正しています。主力である「ポケトーク」の販売台数の回復が低調で、予想を下回ったことによります。また、直販サイトの不具合によるサイトアクセスの減少も影響しました。
旅行比較サイトの「トラベルコ」を手がけるオープンドア<3926>も、56%の下落です。コロナの一巡で足元の旅行需要は回復しているものの、インフレや円安の進行で海外旅行などの精度の高い予測が難しいとして、今期(2024年3月期)の業績予想を非開示としている点が、投資家に嫌気されています。
相場の潮目を探る
このように、年の最後の月も、様々な銘柄が個々の材料で売り買いされ、意外な銘柄が新高値・新安値となっています。
そんな相場の中で、半導体株や証券株、金融株といった大型株の力強い値動きは、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの市場参加者の先高感を示すものとなりました。
2024年はどんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。