株価上昇のウラで下落するREITが、実は魅力的な投資先のワケ

山下耕太郎
2024年3月25日 14時00分

金利上昇で下落するREIT市場

株式市場を通して不動産投資をすることができる不動産投資信託REIT)。国内のREITは「J-REIT」と呼ばれ、株式や債券以外の投資対象としてポートフォリオに加えている人も多いでしょう。

国内の全上場REITを対象とした東証REIT指数は、3月に入って1700ポイントの節目を割り、約3年4か月ぶりの安値をつけました。日銀が早期にマイナス金利政策を解除するとの観測が強まり、金利上昇に弱いREITを手放す動きが優勢となったからです。

金利の上昇は、REITにとって大きな負担となります。REITの有利子負債比率(LTV)は平均で44.9%で、これは借入を活用して運用していることを意味します。したがって、借入金利が上昇すると、分配金(株式における配当に相当)の源泉となる利益が減少するのです。

また、REITの投資家は、長期金利にリスクプレミアム(リスクに応じたプラスアルファのリターン)を加えた配当利回りを求めます。したがって、長期金利が上昇すると配当利回りに上昇圧力がかかり、結果的に投資口価格(株価に相当)が下落する可能性があります。

さらに、金利の上昇は不動産価格や経済状況にも影響を及ぼす可能性があります。不動産価格が下落すればREITの純資産総額(NAV)が減少し、経済が悪化することになれば賃料にも下方圧力がかかる可能性があります。

これらの要素はすべて、REITのパフォーマンスに影響を与える重要な要素です。

そして3月19日、日銀がマイナス金利の解除を決定しました。しかし、低金利がしばらく続くとの見方から長期金利は低下し、J-REITには買いが入りました。東証REIT指数は1700ポイント割れで底打ちしたのかどうか、今後の動向が注目されます。

海外勢と地銀の売り、新NISAも影響

2月のJ-REITの投資部門別売買動向を見ると、海外投資家が436億円、銀行が323億円、投資信託が64億円の売り越しでした。

海外投資家の売りは、日銀の金融政策への警戒があったと考えられます。また、円安と株価上昇により、MSCI指数に採用されているJ-REIT銘柄から除外が出るのではないか、といったリスクも意識されました。その結果、銘柄入れ替えを見据えて短期的な売りが積み上がった可能性があるのです。

また、銀行、とくに地方銀行は2019年頃から、低金利下で投資妙味の高まったREITへの投資を増やしていましたが、現在のREITの水準は含み損状態。決算の3月末に向けて、含み損になっているREITを手放した地方銀行も多かったと考えられます。

さらに、国内のREITは毎月分配型が多く、長期の資産形成に適さないとして、新NISAの「つみたて投資枠」では対象外となりました。そこで、REITを解約してアメリカ株や国際株などのインデックスファンドを買う動きが強まっている、とも考えられます。

J-REITの利回りは株式よりも魅力的?

ただし、J-REITの分配金利回りは上昇しています。2月には4.67%まで上がり、コロナショック時(2020年3月)の4.8%に迫る水準となっています。

その一方で、株価上昇によって東証プライム市場に上場する株式の平均配当利回りは1.97%となり、2%を切っています。つまり、利回りという観点から見れば、株式市場の多くの銘柄よりも、J-REITのほうが魅力的な水準に上昇しているのです。

(参照)不動産証券化協会

また、株式のPBR(株価純資産倍率)に相当するNAV倍率は、約9割の銘柄で解散価値の1倍を下回っており、2月は0.84まで低下。過去10年で最低水準となっています。インカムゲイン(運用益)狙いの投資対象として、いま、J-REITの魅力が高まっていると言えるでしょう。

REITは高配当株の扱いで

安定的な利回りが期待できることから、国内債券の代わりにJ-REITに投資しようと考えている投資家もいるかもしれません。ただ、J-REITは価格が大きく下落する場合もあり、注意が必要です。

たとえば、2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックの際にも、J-REITは大きく下落しました。金融機関がリスク資産を減らして流動性を確保するためにJ-REITを一斉に売った結果、J-REITは株式以上に下落し、債券の代替としての役割を果たすことができなかったのです。

過去の暴落を考えると、J-REITを国内債券の代替資産にすることはできません。ポートフォリオでは、J-REITは国内株式の一部としてリスクを管理する必要があります。

ただ、J-REITは株式と異なる動きをします。「高配当株」に近い存在と考えてポートフォリオに組み込むことで、長期的な利回りの安定化が期待できるでしょう。

長期的な資産形成のパーツとして

2024年は現在のところ、株式市場が上昇し、J-REITは下落しています。しかし、J-REITは分配金利回りが高いため、長期で考えると株式のパフォーマンスを上回る可能性も大いにあります。

個別銘柄を購入するには50万円以上の資金が必要な場合もあるので、手軽に始めたい場合は、投資信託やETF(上場投資信託)を利用して積み立て投資をするのがいいでしょう。新NISAでも「成長投資枠」を利用すればJ-REITに投資することができます。

今後、J-REITは金利の上昇により大きな負担を受けることが想定されますが、その反面、J-REITは「高配当株」に近い存在であり、長期的な利回りの安定化を期待できます。新NISAを活用した投資など、長期にわたる資産形成の味方となり得るJ-REITを、選択肢に加えてみてはどうでしょうか。

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[執筆者]山下耕太郎
山下耕太郎
[やました・こうたろう]一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴20年以上。現在は、日経225先物・オプションを中心に、現物株・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。趣味は、ウィンドサーフィン。ツイッター@yanta2011 先物オプション奮闘日誌
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