IPO市場もまずまず健闘 王道の成功例と、やはり人気のDX関連【3月のIPOランキング】

石井僚一
2024年4月12日 16時00分

《「確実に儲かる」として個人投資家に人気のIPO株投資。しかし近年、そんな「夢の時代」にも陰りが……? IPOで上がる株と下がる株は何が違うのか。データから読み解く【IPO通信簿】》

3月は日経平均株価が4万円を突破するなど相場全体は堅調に推移したものの、新興市場は低迷が続きました。そんな中でIPOを果たした15銘柄のうち、3銘柄が初値騰落率100%を超え、公募割れは1銘柄のみ。健闘した3月のIPOを振り返ります。

堅調な相場の陰で、依然低迷の新興市場

例年3月は、1年で最初のIPO(新規株式公開)のピークを迎えます。今年は15銘柄がIPOによって上場を果たしました。

15銘柄のIPOは昨年3月と同数です。日経平均株価が40,000円に到達するなど相場全体が上昇する中で、昨年と同じIPO件数というのは、若干、物足りない数字にも思えます。ただ、SBI証券でIPO関連の不祥事がありながらの数字であり、健闘はしていると言えるでしょう。

また、新興市場の動向を示す東証グロース市場250指数は、2月に大きく上昇した反動か、一時的に2月の上昇分を取り戻す下落を見せました。堅調な日経平均の反面、新興市場は依然として低迷が継続中です。しかし、最終的には反発して小幅安で取引を終えています。

2024年3月IPOランキング

2024年3月は15銘柄がIPOを行いました。その15銘柄について、公募価格に対して初値がどれだけ上昇(あるいは下落)したかを表す「初値騰落率ランキング」を見てみましょう。

15銘柄のうち、初値騰落率100%(2倍)を超えた銘柄は3銘柄ありました。その一方で、初値が公開価格を下回る公募割れは1銘柄です。苦戦が続く新興市場にあって、まずまずの結果を残したと言えそうです。

2024年3月の気になるIPO銘柄

2024年3月にIPOした15銘柄から、初値騰落率100%を超えた2銘柄、ジンジブ<142A>と情報戦略テクノロジー<155A>を取り上げます。

・ジンジブ<142A>──特色ある事業領域かつ株価を抑えたIPOが功を奏す

ジンジブ<142A>は高卒人材採用サービスを提供する、大阪に本社を置く企業です。大卒人材の採用サービスを手がける企業は複数存在し、なかには上場した企業もありますが、同社は高卒人材特化型という特色ある企業です。

2022年3月期まで赤字が続いたものの、2023年3月期は若干ながら黒字化。2024年3月期は本格的な黒字予想であり、本格黒字を契機にIPOを行う形となっています。

公開価格1750円に対してついた初値は3980円で、初値騰落率は127%となりました。2024年3月期の予想EPSは155.58円ですので、公開価格での予想PERは11.2倍でしたが、初値での予想PERは25.5倍になりました。時価総額は公開価格ベース24億円、初値ベース55億円で、小型のIPOです。

人材関連銘柄は昨今の人手不足もあり、コンスタントにIPO市場に登場していますが、初値騰落率では苦戦するケースも少なくありません。その中で、事業の黒字化を背景に、公開価格を予想PER11倍程度に抑えたこと、高卒人材特化型という特色ある事業領域であったことが評価されたかたちです。

無理な株価設定をせず、ユニークな事業領域で株式市場に評価される──王道的な成功を収めたIPOといえるのではないでしょうか。

・情報戦略テクノロジー<155A>──DX関連銘柄の人気は継続中

情報戦略テクノロジー<155A>は、顧客から直接システム開発を請け負い、そのDX化を支援する事業を展開しています。IPO市場で、AI銘柄とともに人気化しているDX関連銘柄です。

売上30億円を超えるシステム開発会社として事業を展開する中で、2022年12月期から本格的な利益計上を開始しています。2023年12月も同様の状態で増収増益の予想です。

公開価格460円に対して初値は1021円となり、初値騰落率は121%でした。初値ベースで時価総額100億円も突破しています。予想EPSは29.74円ですので、公開価格での予想PERが15倍だったのに対し、初値では34倍となりました。

システム開発会社も比較的コンスタントにIPOが行われている業界ですが、特色がないと、株価は伸び悩む傾向にあります。

同社の場合、DX関連銘柄である点と、業界の構造的問題である多重下請けを回避している点に特徴があります。これらが評価され、初値騰落率100%超かつ時価総額100億円突破を果たしました。

これにより、IPO市場におけるDX関連銘柄の人気が依然として続いていることがわかるIPOともなりました。

休み前のIPOはどうなる?

日経平均株価は3月に一時41,000円に到達し、その後は停滞傾向。そして、新興市場が苦戦する反面、IPOは比較的堅調に推移する……そんな3月でした。

4月は6銘柄がIPOを予定しています。その後の5月は、例年、IPOの小休止となる時期です。

新興市場の低迷状態が変わらない中で、IPO市場では3月の堅調を引き継ぐことができるのか。小休止前となる4月のIPOの行方が注目されます。

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[執筆者]石井僚一
石井僚一
[いしい・りょういち]ベンチャーキャピタル勤務を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析などを得意とし、複数の媒体に寄稿中。なかでもIPO関連の執筆を数多く手がけており、IPO企業の目論見書のほとんどに目を通している。
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