出遅れを取り戻した金融株と、明暗分かれた半導体株 TOBで株価も急騰【11月の高値更新】
《株価の新高値は、銘柄にとっての「自己ベスト」。それは〝伸びしろ〟の表れと言えるのかもしれません。最近ベストを更新して伸びしろを見せているのは、どんな銘柄か。直近で高値をつけた銘柄から相場の流れを読み解く【高値更新を追え!】》
11月相場を牽引した銘柄たち
11月の日経平均株価は反落し、前月末に比べて873円、2.2%の上昇となりました。
注目された月初のアメリカ大統領選挙では、一部では選挙結果の確定に時間がかかり相場の不透明感が続くのでは?との観測もありましたが、結果は共和党のトランプ前大統領の圧勝でした。
次期政権による減税や規制緩和などのプラス面を評価した「トランプトレード」でアメリカ株高となり、日経平均株価も4万円をうかがう展開となりました。ただ、その後はアメリカの景気回復、日銀の利上げ期待で日米の金利が上昇。
さらに、トランプ氏が中国やメキシコ、カナダへの関税を強化することを自身のSNSで表明するなど貿易規制強化という不確実性がクローズアップされ、日経平均株価は上値の重い展開となりました。
こうした中で高値を更新して相場の牽引役となったのは、どのような銘柄か。11月相場で新高値・新安値をつけた銘柄を振り返り、その共通点を探ります。
・高値更新とは?
相場解説などで頻繁に使われる「高値更新」とは、読んで字のごとく、ある期間内の高値を更新したという意味です。ここに「昨年来」「年初来」「上場来」など期間を表す言葉が添えられて、「年初来高値を更新」などと言われます。また、新たに付いた高値を「新高値」と呼びます。
【株価の高値更新】
- 昨年来高値……1〜3月に使われ、前年の1月1日から直近までの期間が対象
- 年初来高値……4月以降に使われ、その年の1月1日から直近までの期間が対象
- 上場来高値……株式市場に上場して以来の高値。買い方の強い物色が株価に現れているといえる
金利上昇で金融株に関心
11月は、国内の長期金利が上昇したことを受け、メガバンクなど金融株に資金が向かいました。
トランプ氏勝利を受けて、減税や規制緩和などでアメリカ経済の堅調さが増すとの思惑からアメリカの長期金利が上昇。国内でも円安ドル高が進行し、輸入インフレを抑えるため日銀が追加利上げに動くのでは、と予想する向きが多くなりました。
・SOMPOホールディングス<8630>
SOMPOホールディングス<8630>は、20日に上場来高値4053円まで上昇しました。19日発表の中間決算で純利益が前年同期比2倍(2622億円)の大幅増益となったほか、自社株買いと増配、通期業績予想の上方修正もあわせて発表し、投資家の評価が高まりました。
同業の東京海上ホールディングス<8766>やMS&ADインシュアランスグループホールディングス<8725>が7月に軒並み上場来高値を付けていた中、出遅れを取り戻すかのような値動きでした。
また、みずほフィナンシャルグループ<8411>は21日に年初来高値3892円まで値上がりです。SOMPOと同様に自社株買いや好決算が評価されました。
TOBの活況で株価も揺れる
東証による企業改革や投資家への還元期待、資本効率を求める圧力の高まりで、TOB(株式公開買い付け)による企業買収が増えています。円安による海外勢から見た日本企業の割安さも、この動きに拍車をかけています。
〈参考記事〉いまさら聞けない「TOB」 個人投資家が知っておきたい株価の行方
この11月も、こうした動きで新高値となった銘柄が多く見られました。
・ID&Eホールディングス<9161>
総合建設コンサル大手のID&Eホールディングス<9161>は、22日に年初来高値6490円まで値上がりしました。
19日、東京海上ホールディングスが1株6500円のTOBによって全株を取得し、完全子会社化を目指すと発表。両社は2020年8月以降、防災・減災やモビリティ、スマートシティなどの分野での協業を進めてきた経緯もあります。
東京海上が「災害レジリエンスの向上」「気候変動対策の推進」に向けたさらなる事業拡大を目指すため、ID&Eの買収に踏み切りました。
・KADOKAWA<9468>
動画配信や出版大手のKADOKAWA<9468>は、25日に年初来高値4518円を付けました。19日にソニーグループ<6758>が同社の買収を検討していると報じられたことを受けての急騰でした。
ソニーはゲームや映画といった知的財産の活用を進めており、2021年には米アニメ配信会社も買収しています。KADOKAWAは、ライトノベルやアニメ、ゲームなどのコンテンツが充実しており、制作から配信までソニー内で手がけられるメリットがあります。
ソニーは報道に対して「株式取得の提案は受領しているが、決定した事実はない」としており、今後の動向が注目されます。
・セブン&アイ・ホールディングス<3382>
流通小売り大手のセブン&アイ・ホールディングス<3382>も、20日に年初来高値2703円まで買われました。
同社に関しては、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール社による7兆円規模の買収提案が話題となりました。19日にセブン&アイの創業側が金融機関などから資金調達し、TOBによる買収を検討していると報じられたことが材料となっています。
同社を巡っては以前から、収益力の低いイトーヨーカドーやデニーズなどコンビニ以外の非中核事業を売却するよう「物言う株主」からの圧力を受けて企業を再編を進めていることもあり、市場の評価も揺れています。
半導体株は明暗が分かれる
AI(人工知能)の広がりで先端の半導体需要はさらに勢いを増しています。米エヌビディア<NVDA>のみならず、台湾の半導体受託製造大手のTSMC<TSM>が10日に発表した7~9月期決算は、AI向けが伸びたことにより市場予想を上回る好決算でした。
ただ、11月の日本市場では銘柄によって明暗が分かれる結果となりました。
・HOYA<7741>
精密光学機器のHOYA<7741>は、7日に上場来高値21,935円まで買われました。眼鏡レンズや内視鏡のほか、半導体の製造に欠かせないマスクブランクスという回路の原版を強みとし、特にEUV(極端紫外線)という最先端向けの需要が高止まりしています。
・レゾナック・ホールディングス<4004>
総合化学のレゾナック・ホールディングス<4004>は28日に年初来高値4222円まで上昇しました。
旧・昭和電工と旧・日立化成が合併して誕生した同社は、半導体などの先端材料に経営資源を振り向けるべく企業改革を進めています。12日に、半導体材料の販売が好調だったことなどから通期の業績予想を上方修正し、買いを集めています。
売られた半導体株
半導体や電子部品のローム<6963>は28日に年初来安値1403.5円まで売られました。自動車生産の低迷やEV(電気自動車)の成長鈍化などにより、車載向け半導体が在庫調整が続いていることが響いています。
同じく28日には、半導体シリコンウエハーのSUMCO<3436>、半導体検査装置のレーザーテック<6920>、 搬送装置を手がけるローツェ<6323>も年初来安値を付けており明暗が分かれています。
消費・レジャー株にも売り
・オリエンタルランド<4661>
ディズニーランドのオリエンタルランド<4661>は夏場以降、株価の下落基調が続いており、22日に年初来安値3382円まで下落しました。
コロナ禍からのリベンジ消費が一服したことや猛暑による入園者数の落ち込みが利益を押し下げています。また、昨年の東京ディズニーランド開園40周年イベントなどの反動減も響いています。
・資生堂<4911>
資生堂<4911>は、20日に年初来安値2710円まで値下がりしました。7日に今期(2024年12月期)の業績予想を下方修正したことも、売りに拍車をかけました。中国の景気悪化の影響が想定を上回ったほか、構造改革の費用負担も利益率を押し下げました。
同業のコーセー<4922>も27日に年初来安値6543円を付けています。資生堂と同様の理由で11日に業績予想を下方修正しており、化粧品株には逆風が続いています。
年末にかけては日銀の利上げの有無や米FRBの金融政策の行方が、引き続き焦点となりそうです。そうした中で、どんな銘柄が活躍するのか? 引き続き、高値更新・安値更新の銘柄を中心にウォッチしながら、相場の潮目を探っていきたいと思います。