トランプ大統領で株価はどうなる? その政策と日本株への影響を考える

佐々木達也
2024年12月19日 17時00分

トランプ氏と日本株の未来

11月5日、4年に一度のアメリカ大統領選挙が行われ、共和党のトランプ前大統領が勝利を収めました。

一部では、選挙結果の確定に時間がかかり相場の不透明感が続くのでは?との観測もありましたが、蓋を開けてみればトランプ氏の圧勝。 市場の初期反応は、金利高・株高の「トランプ・トレード」となりましたが、その後は不透明感なども台頭しています。

そこで、トランプ氏がホワイトハウスに戻ってくる2025年に向けて、次期大統領による政策で日本株にはどんな影響が出るのか、いくつかのポイントを整理してみたいと思います。

今後の主なスケジュール

トランプ氏は、2025年1月20日の就任式で第47代アメリカ大統領に就任します。現在、新政権の発足に向けた閣僚人事が次々と報じられていますが、これらの閣僚も1月中には議会上院で承認されことになります。

第2次トランプ政権では、大統領および議会の上院・下院ともに共和党が占める「トリプルレッド」の状態となることもあり、共和党に反トランプ派の重鎮も多く見られた2017年からの第1次政権よりも、政策運営はスムーズになるとみられています。

すでに内定している閣僚人事の顔ぶれはイランや中国などに対してタカ派的とされており、マーケットでは関税強化などが連想されました。一方、財務長官には投資家のスコット・ベンセント氏が起用される予定で、経済への影響に配慮した政策を進めるとの期待もあり、市場では好感されました。

関税強化で自動車株はどうなる?

トランプ氏は自身のSNSで、中国やカナダ・メキシコに対して就任後早期に追加の関税引き上げを行うことを明言しました。

これによる貿易量の減少で経済への影響が生じることが想定されます。また、アメリカでは輸入コストが引き上がり、それが物価上昇の背景となることからインフレ圧力が高まって、金利上昇への思惑につながるでしょう。

トヨタ自動車<7203>をはじめとする日系の自動車メーカーは、カナダやメキシコなどで生産した自動車をアメリカでも販売していることから、これら自動車株にとっては下押し圧力になると市場では受け止められています。

ただ、自動車株はもともと生産低迷や関税引き上げによる業績への悪影響を大統領選前から織り込んでいて、日経平均株価などの指数に対しても相当程度、出遅れていました。

そのため今後は、関税引き上げの影響がそれほどでもないと受け止められる場面では、悪材料出尽くしで株価上昇となる可能性もあります。

一方で、トランプ氏は実業家であることから、関税引き上げを交渉のカードとして用いている側面もあります。第1次政権下でも関税引き上げは実施されましたが、引き上げ幅は当初の発言からは低く抑えられていました。

ヨーロッパや日本などに対しては、アメリカ産のシェールオイルや武器などの購入を増やすといった交渉が今後くり広げられそうです。いずれにせよ、トランプ氏の関税強化に関する発言や報道は、引き続きマーケットの大きな注目点となりそうです。

減税による金利上昇は日本株にプラス?

トランプ氏は選挙期間中、さまざまな減税による景気対策を公約として掲げてきました。

その1つは、第1次政権下の2017年に実施された個人の所得税減税などの、いわゆるトランプ減税の期限延長や恒久化です。さらに、企業の法人税の引き下げなども期待されています。

減税の財源となる国債発行によるアメリカ国債利回りの上昇圧力はドル高につながり、円安とともに日本の外需株にとってはプラスの影響となるかもしれません。

減税の実施には議会の同意が必要です。2026年まではトリプルレッドの状況が続くことから、減税に関する取り組みも遅くとも26年までには進められていくと予想されます。

さらにトランプ氏は、不法移民の排斥にも注力するとみられます。アメリカの労働力を支えてきた不法移民の減少は賃金の上昇や失業率の低下につながり、思わぬインフレ圧力となって金利上昇を招く可能性も指摘されています。

規制緩和で盛り上がる暗号通貨関連

また、トランプ氏の新政権は規制緩和による経済成長を掲げています。そのひとつが暗号通貨(仮想通貨)への業界の規制緩和です。これまで証券取引委員会(SEC)は、ビットコインなど暗号通貨の事業者に厳しい姿勢で臨んできました。

しかし、政府がビットコインを戦略備蓄として保有することを提案するなどビットコインに好意的な意見のトランプ氏の当選で、すでに暗号通貨の価格は急騰しています。

日本市場でも暗号通貨関連株への物色が広がっており、暗号通貨取引所を運営するマネックスグループ<8698>や、多角的な事業展開で暗号資産関連も手がけるネクスグループ<6634>などが上昇して賑わいを見せました。

金融業界の規制緩和も、市場では一定の評価を受けています。バイデン政権は2023年の地銀破綻などを受けて、自己資本の規制強化などの取り組みを進めてきていました。

それに対して、トランプ氏は第1次政権でもオバマ政権時代の金融規制を緩和した実績があることから、金融業界への期待が広がっています。

減税による金利上昇、景気回復も本業の利ざや改善につながることなども期待を後押しし、米大手のウェルズ・ファーゴ<WFC>やJPモルガン・チェース<JPM>などは年初来高値圏で推移しています。

日本株でも、三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>や三井住友フィナンシャルグループ<8316>など、アメリカで金融事業を手がけるメガバンクにとって恩恵が大きいとみられています。

脱炭素から化石燃料へ。明暗分かれるエネルギー関連

トランプ次期政権は、シェールオイルなどを増産して原油価格などを引き下げることによって、消費を後押しするとともに、インフレ圧力を抑えるとの姿勢を打ち出しています。

EV(電気自動車)に対して懐疑的な姿勢も見せており、近年進んでいた脱炭素の取り組みへの揺り戻しが予想されています。バイデン政権では風力や太陽光などの再生エネルギーに補助金を支給していましたが、新政権ではこれを廃止するとみられています。

こうした流れを受けて、アメリカの太陽電池メーカーのファースト・ソーラー<FSLR>や日本の太陽電池製造装置メーカーのエヌ・ピー・シー<6255>は上値の重い展開が続いています。

トランプ氏はバイデン政権によるクリーンエネルギー規制の多くを撤廃するとともに、電力需要増加に対応するため発電所の認可を加速する方針であると、選挙戦中に明言しています。原発の新設や既存原発の寿命延長のほか、発電所の新設や稼働延長にも前向きです。

こすいた期待を受けて、原発関連の容器やプラントを手がける木村化工機<6378>は、トランプ氏の当選後に年初来高値をつけるまで値上がりしました。

2期目のトランプ政権はどうなる?

トランプ氏の大統領就任により予想される日本株への影響を、いくつかのポイントに分けて解説しました。いずれもプラス面とマイナス面がそれぞれあり、当面は不確実性の高い状況が続きそうです。

もっとも、最大の懸念である関税引き上げによる経済への影響については、政権にとっても景気後退につながることは本意ではないでしょう。減税や規制緩和などのプラス面や、トランプ政権も2期目であることを考えると、マーケットへの悪影響は4年前に比べると限定的ではないかと思われます。

来年に向けた日本株相場の読み解きの参考にしていただければ幸いです。

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[執筆者]佐々木達也
佐々木達也
[ささき・たつや]金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。
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